未来への誓い
虚無の皇との激闘が終わり、魔界には久しぶりの静寂が訪れていた。夜空には紅い月が静かに輝き、遺跡の廃墟には、戦いを終えたラザール、真奈、イグナスの三人が佇んでいた。
「これで、本当に終わったんだね……」
真奈は剣を地面に突き立て、ほっとしたように微笑んだ。その顔には疲労が滲んでいたが、それ以上に充実感と安堵の色が浮かんでいた。
ラザールは真奈の横に立ち、深い息を吐きながら頷いた。
「ああ。だが、この勝利はお前が掴んだものだ、真奈。」
「そうさ!」
イグナスが軽く真奈の肩を叩く。
「お前がいなかったら、俺たち、どうなってたか分からないぜ。虚無の皇を相手に、ここまでやれるなんてな。」
真奈は恥ずかしそうに笑った。
「そんな……一人じゃ何もできなかったよ。ラザールやイグナス、みんながいてくれたから。」
◇
戦いの疲労が体に重くのしかかる中、三人は遺跡を後にし、近くの村へと向かって歩き始めた。
途中、ラザールはふと足を止め、夜空を見上げた。
「……これで魔界には平和が訪れるだろう。しかし、平和を維持するのは、この勝利以上に難しい。」
「平和を維持……」
真奈もラザールを見上げ、彼の横顔に宿る覚悟を感じ取った。
「ラザールは、この先もずっと戦い続けるの?」
「戦い続けるつもりはない。」
ラザールは少し笑いながら答えた。
「だが、王として、この世界の未来を守る責任がある。それが俺の務めだ。」
真奈はその言葉を聞きながら、心にある想いがふと蘇った。この魔界での旅路、自分を必要としてくれた人々、そしてラザールやイグナスと過ごした時間。全てが大切な記憶となって、真奈の胸を温かくしていた。
「私も……何かできるかな?」
真奈はつぶやくように言った。
「お前はもう十分やっている。」
ラザールは真奈に優しい視線を向けた。
「だが、もしこの魔界で生きることを選ぶなら、これからも支えてほしい。」
◇
村に到着した三人は、宿屋でひとまず体を休めることにした。真奈は部屋の片隅で剣を眺めながら、思考にふけっていた。
「この剣……紅月の力って言ってたけど、私と魔界を繋ぐ絆みたいなものなんだよね。」真奈は剣をそっと撫でた。
「でも、それって……」
その時、ドアをノックする音が響いた。
「真奈、入るぞ。」
ラザールの声だった。
彼が部屋に入ると、真奈は立ち上がり、彼に向き合った。
「ラザール……私、聞きたいことがあるの。」
「何だ?」
真奈は少し躊躇いながらも口を開いた。
「私は、この世界に留まった方がいいのかな? それとも……元の世界に帰るべきなのかな?」
ラザールはしばらく沈黙した後、静かに言った。
「それを決めるのはお前自身だ。だが、どちらの選択をしても、お前のしたことが無駄になることはない。」
「……ラザールは、私にここにいてほしいと思う?」
その問いに、ラザールは少し驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な眼差しで答えた。
「正直に言うなら、お前にはいてほしい。この魔界を共に支えてほしい。」
真奈はその言葉を聞いて、胸が熱くなるのを感じた。
◇
翌朝、真奈はラザールとイグナスを前に、自分の決意を伝えることにした。
「私……この魔界に残ることにする。」
イグナスは目を丸くし、
「おいおい、いいのか?お前には元の世界があるんだろ?」
と声を上げた。
真奈は頷いた。
「うん。でも、元の世界では何もできない私だった。でも、この魔界では、自分にできることがある。みんながそれを教えてくれたから。」
ラザールは真奈を見つめながら、静かに頷いた。
「ありがとう、真奈。その決意、俺も支えよう。」
「お前、本当にやるなぁ。」
イグナスは苦笑しながら頭をかいた。
「これからは、俺たちの仲間として扱うぞ。覚悟しておけ!」
三人は笑顔を交わし合い、新たな旅立ちへの一歩を踏み出した。
◇
紅い月が輝く魔界の空。その下で、真奈は剣を掲げ、新たな未来を目指して歩き出す。
「これからもずっと、この世界のために……そして、自分のために。」
真奈の決意は、彼女の心に深く根を張り、この魔界に新たな希望の光を灯していた。




