明かされる真実と絶望の影
大聖堂の奥深くで、真奈たちが手にした古びた書物。そこには「鍵」の力の正体と、魔界を覆う混乱の真実が記されていた。しかし、その真実は彼らの予想を大きく超えるものであり、新たな脅威の幕開けでもあった——。
◇
真奈が慎重に書物を開くと、ページの間から冷たい風が吹き出し、赤い文字が光を放つように浮かび上がった。
「……『鍵』とは、魔界の命運を左右する者。混乱を終わらせると同時に、新たな時代を招く存在——」
エルンがその一文を読み上げると、空気が一層重くなった。
「つまり、真奈が魔界を救う『鍵』であることには間違いない、というわけか。」
ラザールが低い声で言いながら、真奈を見つめる。
「でも、それだけじゃない……」
真奈は書物のさらに奥をめくり、声を震わせた。
「『鍵』が全てを終わらせるためには……『扉』を開く必要がある?」
「扉?」
イグナスが眉をひそめる。
エルンが書物を覗き込み、顔色を変えた。
「まさか……!『扉』とは、魔界の源流そのもの、『虚無の門』のことではありませんか?」
「虚無の門?」
真奈が不安そうに尋ねると、ラザールが険しい表情で説明を始めた。
「それは魔界の始まりとされる存在だ。全ての魔力が生まれ、そして全てを飲み込むと言われる……封印された絶対的な力。」
「じゃあ、その門を開けることで何が起こるの?」
真奈の問いに、ラザールは一瞬言葉を詰まらせたが、覚悟を決めたように答えた。
「世界の再生か、破滅だ。」
場が凍りつく中、書物の最後のページから突然赤黒い霧が立ち上り、彼らを覆った。
◇
「真奈!書物を離れろ!」
ラザールが叫ぶが、霧は真奈の手を離れず、宙に浮かび上がる。そして霧の中心から、不気味な人影が現れた。
その姿は、黒いローブに包まれ、顔は見えない。しかし、その存在が発する圧倒的な威圧感に、一行全員が武器を構える。
「久しいな、ヴァルディアの血を引く者よ……そして『鍵』たる少女よ。」
その声は深く、どこか嘲るようだった。
「お前は何者だ!」
ラザールが剣を構えながら問いかけると、影は薄く笑うように応えた。
「我が名は『闇の賢者』。封印された虚無の力を統べる者だ。……いや、統べていた者、と言うべきか。お前たちがその力を解き放とうとしているとは、実に愚かしい。」
「解き放とうとしてるなんて言ってない!」
真奈が叫ぶ。
「私はただ、この世界を救いたいだけ!」
だが、その言葉に賢者は冷たく笑うだけだった。
「救いとは破滅と同義だ。お前が『扉』を開ければ、魔界も、人間界も、その境界すらも消え去るだろう。お前にその覚悟はあるのか?」
真奈は言葉を失った。その間に、賢者は手を掲げ、大聖堂の床から黒い魔力を生み出した。それは実体化し、巨大な魔物へと姿を変えた。
「見せてみろ、お前たちの『覚悟』を!」
◇
黒い魔物は異形の姿をしており、無数の触手と刃のような腕を持っていた。その動きは素早く、真奈たちを翻弄する。
「くそっ、こんなものが出てくるなんて聞いてないぞ!」
イグナスが剣を振るいながら叫ぶが、魔物の攻撃を完全に防ぐことはできなかった。
「エルン、援護を頼む!」
ラザールが盾の魔法を指示するが、エルンも魔力を使いすぎて消耗していた。
「真奈、下がってろ!」
ラザールが彼女をかばうように前に立つ。しかし、魔物の攻撃が二人を分断し、真奈は孤立してしまう。
「私だって、ただ見てるだけじゃダメだ……!」
真奈は自分のペンダントを握りしめ、鍵の力を解放しようとする。しかし、強大な力を制御するのは容易ではなく、逆に彼女の体力を削っていく。
「真奈!無理をするな!」
ラザールの声が聞こえるが、彼女は震える手で立ち上がる。
「こんなところで負けるわけにはいかない……!」
◇
真奈が限界を超えて鍵の力を解放した瞬間、彼女の周囲に純白の光が広がった。それは魔物の黒い霧を押し返し、仲間たちを包み込むように輝く。
「これが……『鍵』の本当の力?」
真奈の手の中で光は剣の形を取り、彼女の体を守るように魔力が流れ込んでいく。その力を得た真奈は、震えながらも魔物に向かって走り出した。
「行け、真奈!」
ラザールが叫ぶ。
真奈は魔物の弱点を見極め、全力で剣を振り下ろした。純白の光は魔物を貫き、黒い霧は消え去っていった。
◇
魔物が消えると同時に、賢者の姿も薄れ始めた。
「なるほど……お前には、その力を使いこなす覚悟があるのかもしれない……だが、鍵の力を解放するたび、お前の魂も削られることを忘れるな……」
賢者の声は消え、大聖堂には静寂が戻った。
◇
「大丈夫か、真奈?」
ラザールが駆け寄る。
真奈は頷いたものの、その顔は疲労と不安で曇っていた。
「鍵の力を使うたびに……魂が削られるなんて……」
イグナスが肩をすくめながら苦笑した。
「これだから大聖堂の試練は嫌なんだよな。どいつもこいつも、深刻なことばっかり言いやがる。」
「でも、この力が本当に必要なら……私は戦うよ。」
真奈の決意に、ラザールとイグナスは黙って頷いた。
「行こう。まだ終わりじゃない。」
ラザールの言葉に、一行は再び歩き出す。