瘴気の源を求めて
再び魔界に戻った真奈。ラザールやイグナスと再会を果たし、彼女は魔界に迫る危機について聞かされる。瘴気が再び拡大し、魔界全土を覆う恐れがある状況の中、ラザールたちはその原因を探るべく、次なる冒険に乗り出すことを決意する。
◇
真奈が魔界に戻った翌朝、ラザールたちは調査隊からの報告を受けていた。魔界の中央部に位置する「黄泉の裂け目」周辺で瘴気の異常発生が確認され、そこが現在の異変の中心地である可能性が高いという。
ラザールは地図を広げ、指で黄泉の裂け目を示した。
「瘴気の流れを追ってみると、全てがここに繋がる。おそらく、この地下に何かが隠されているはずだ。」
真奈はその言葉に興味を示しながら、地図を覗き込んだ。
「黄泉の裂け目…?それってどういう場所なの?」
イグナスが説明を引き継いだ。
「あそこは、魔界でも特に危険な地域だ。昔、大規模な魔力の暴発があって、その結果、地面が崩壊して巨大な裂け目ができたらしい。瘴気もその時から漏れ続けているが、近年は大人しくなっていたんだ。それがまた動き出したってことは…何かが目覚めたのかもな。」
「何か…って、一体何が?」
イグナスは肩をすくめた。
「それが分からないから調べに行くんだよ。安心しろ、俺たちがついてるから。」
◇
ラザールは出発の前に真奈を呼び止めた。
「真奈、お前が来てくれたことに感謝している。だが、今回の旅はこれまで以上に危険だ。瘴気は魔族ですら命を蝕む。人間のお前にとってはなおさらだ。」
真奈はラザールの真剣な目を見返しながら答えた。
「それでも、私も行きたい。みんなの力になりたいの。それに、何かできることがあるはずだって思う。」
ラザールは一瞬だけため息をついたが、すぐに小さく頷いた。
「分かった。ただし、無理はするな。俺が必ずお前を守る。」
◇
旅の道中、瘴気の影響が次第に強まっていることが明らかになった。近くを飛ぶ鳥たちが弱って墜落し、植物は黒く変色して枯れ果てている。空気中には嫌な匂いが漂い、呼吸すら苦しく感じられるほどだった。
「こんなところで長居したら命が危ないな。」
イグナスが呟きながら剣の柄を握り締める。
真奈は自分の胸元に掛けたラザールの指輪を握りしめた。その指輪は微かに光を放ち、瘴気を抑えているように感じられる。
「この指輪のおかげで私は平気みたい。でも、どうしてこんなに瘴気が強くなっているんだろう…。」
イグナスが軽口を叩きながら答える。
「まさか、この裂け目の奥に瘴気を撒き散らしてる怪物でもいるんじゃないか?」
「冗談でもそんなこと言わないでよ…!」
真奈は顔をしかめるが、ラザールは鋭い声で言った。
「冗談とは限らない。この先で何が待ち受けているかは分からない。全員、警戒を怠るな。」
◇へ
一行が黄泉の裂け目に到着すると、その光景に息を呑んだ。
巨大な谷の底から、まるで地獄のような黒い霧が湧き上がっている。裂け目の縁には奇妙な模様が刻まれており、それが古代魔族の言葉であることにラザールは気付いた。
「ここに何かが封じられている…そう書かれている。」
「封じられている?それじゃ、誰かが意図的に…?」
真奈が不安そうに尋ねると、ラザールは静かに頷いた。
「恐らくそうだ。この瘴気が何かを解放しようとしているのかもしれない。だが、それを許すわけにはいかない。」
彼らは裂け目の底へと続く階段を慎重に降りていった。足元の空気は重く、体が次第に押しつぶされるような感覚が襲ってくる。
「やっぱり、嫌な感じがするな…。」
イグナスが剣を抜き、周囲を警戒しながら進む。
真奈は不安を抱えながらも、一歩一歩ラザールの背中を追い続けた。
◇
裂け目の最深部に到達した一行は、そこに巨大な石の扉が立ちはだかっているのを発見した。その扉には無数の魔法陣が描かれ、不気味に輝いている。
ラザールが扉に手を触れると、その表面が震え、低い唸り声のような音が響いた。
「これは…封印の扉だ。中には強力な魔力を持つ存在が眠っている。」
「その封印が破れかけているってこと?」
真奈が震える声で尋ねると、ラザールは頷いた。
「そうだ。そして、それが瘴気の原因でもある。だが、完全に封印を解くには外部からの力が必要なはずだ。」
イグナスが剣を構えながら周囲を見渡した。
「外部の力って、一体誰がそんなことを…?」
その時、背後から冷たい笑い声が響いた。
「ようやく辿り着いたか、ラザール殿下。それに人間の娘。」
現れたのは、かつてラザールに反旗を翻した貴族、ダグラスだった。彼は瘴気を纏い、不敵な笑みを浮かべていた。
「この扉を開くことで、我々魔族は真の力を手に入れる。お前たちはそれを邪魔しに来たのだろうが…ここがお前たちの墓場だ!」
◇
裂け目の底で待ち受けていたのは、かつての敵・ダグラスと瘴気の源。真奈たちは魔界を救うため、この危機を乗り越えられるのか?そして、扉の奥に封じられた存在とは——。