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別れの決意と新たな誓い

紅い月が光を取り戻してから数日。魔界の空気は穏やかになり、瘴気が消え去ったことで土地も少しずつ活気を取り戻していた。篠原真奈は王宮の一室で、ラザールとイグナスと共に復興計画について話し合っていたが、その心の中には別れの決意が揺れていた。

「魔界全土で瘴気の浄化が進んでいるって報告があったぜ。」

イグナスが手元の地図を指さしながら言う。

「真奈の力で瘴気の結晶は消えたが、残った瘴気の残滓は各地に散らばってるらしいな。俺たちでそれを封じていく必要がある。」

ラザールは地図に目を落としながら静かに頷く。

「瘴気の浄化には時間がかかるが、ひとまず急を要する事態は収束した。これからは復興と統治をしっかり行わねばならない。」

「私にできることがあれば、何でも手伝うよ。」

真奈がそう言った瞬間、ラザールが顔を上げた。

「真奈、お前には感謝している。だが、これから先は魔族の問題だ。お前が無理に関わる必要はない。」

「でも…!」

真奈は食い下がる。ラザールの言葉は優しさから来ていると分かっているが、それでも胸が痛む。彼とともに乗り越えてきた試練の日々を思うと、簡単にここを去ることができるとは思えなかった。

イグナスが腕を組み、茶化すように笑った。

「おいおい、ラザール。お前、もう少し言い方ってもんがあるだろう?真奈は魔界を救った英雄だぜ。簡単に帰らせるなんて冷たすぎるんじゃねぇの?」

ラザールは少しばつが悪そうに視線をそらし、真奈に向き直った。

「お前のことを追い返したいわけじゃない。だが、お前にも元の世界での人生があるだろう?」

その言葉に真奈は俯いた。彼の言葉は正論だ。家族や友達が待つ日常へ戻るのが当然だと頭では分かっている。けれど、心のどこかでラザールや魔界の仲間たちと離れるのが怖かった。

その夜、真奈は部屋の窓から魔界の夜空を見上げていた。紅い月はもう見えず、代わりに穏やかな星々が輝いている。

「帰るべきなのかな…。」

つぶやいたその声に応えるかのように、ドアがノックされた。

「真奈。」

入ってきたのはラザールだった。彼は真奈の隣に立ち、静かに夜空を眺める。

「お前がここに来てくれて、本当に感謝している。お前の存在がなければ、俺たちは瘴気の結晶を破壊することも、平和を取り戻すこともできなかった。」

「私…そんな大したことしてないよ。みんなが助けてくれたから、私も頑張れたんだ。」

ラザールはわずかに微笑むと、真奈の頭に手を置いた。

「謙遜するな。お前は立派だった。そして、これからは自分の世界でその勇気を使え。」

真奈は驚いて彼を見上げた。

「ラザール…?」

「お前がここで得たものは、きっと元の世界でも役立つはずだ。だから、帰れ。そして…もしまた俺たちを必要とするなら、俺はいつでもお前の味方だ。」

その言葉に、真奈の目から涙がこぼれた。彼の真剣な想いが胸に響いたからだ。

翌朝、魔界の中心にある転移の門の前に真奈、ラザール、そしてイグナスが集まった。門は真奈が元の世界へ帰るための唯一の手段であり、一度通れば二度と開く保証はなかった。

「これでお別れなんて寂しいぜ、真奈。」

イグナスが冗談めかして言うが、その声には寂しさがにじんでいる。

「イグナス、本当にありがとう。あなたがいなかったら、きっと途中で挫けてたと思う。」

「おいおい、そんな真面目な顔すんなよ。泣きたくなっちまうじゃねぇか。」

イグナスはわざとらしく顔をそむけた。

そして、ラザールが一歩前に出た。

「真奈、もう一度言う。お前は俺たちにとって大切な存在だ。いつかまた会える日が来ると信じている。」

真奈は涙をこらえながら頷いた。

「私も、絶対また会いに来る。だから、それまで元気でね。」

ラザールは一瞬ためらった後、真奈をそっと抱きしめた。その温もりが、彼の本心を何よりも物語っていた。

門をくぐるその時

真奈は門に手を触れ、振り返る。ラザールとイグナスが見守る中、最後の勇気を振り絞り、言葉を口にした。

「ラザール、イグナス、みんな、本当にありがとう。私、絶対に忘れない。」

そう言って門をくぐった瞬間、眩い光が辺りを包み込んだ。

光が消えた後、そこには真奈の姿はなかった。ラザールはしばらく門の跡を見つめた後、静かに呟いた。

「…待っているぞ、真奈。」

イグナスが彼の肩を叩き、無言でその場を後にする。二人の背中には、それぞれ新たな責務と希望が刻まれていた。


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