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魔界の夜明け

暗黒の天空に浮かぶ紅い月は、これまで魔界を覆っていた混沌そのものを象徴していた。しかし、ついにその色が変わろうとしている。魔界の深淵を揺るがす決戦を終えた真奈たちは、荒廃した大地に佇んでいた。

ラザールは血に染まった剣を地面に突き立て、荒い息を整えている。その横で真奈は膝をつき、目を閉じたまま祈るように手を組んでいた。彼女の周囲には微かな光が舞い踊り、魔界に希望の息吹を与えているようだった。

「真奈、もういい。あとは俺たちの役目だ。」

ラザールの声は低く、しかし確固たる決意が込められていた。

「でも…まだ完全には…!」

真奈は涙を浮かべながらラザールを見上げる。

この決戦で多くの犠牲を払った。仲間たちの顔が次々と思い浮かび、胸が痛む。しかし、真奈は立ち上がり、拳を握り締めた。

「最後までやり遂げる。それが、ここまで戦ってきたみんなへの答えだもの。」

戦いは終わったが、魔界の王宮は静寂に包まれていた。広間に集まる魔族たちは、皆一様に疲れた表情を浮かべている。イグナスは壁にもたれかかり、口元に苦笑を浮かべた。

「これで本当に終わりかと思ったら、まだ片付けが山積みだな。」

彼の声に誰もが微かに笑う。イグナスらしい軽口は、重苦しい雰囲気を和らげた。

ラザールは広間の中心で、玉座に向かってゆっくりと歩み寄る。その姿を見つめる真奈の目には、確かな信頼が宿っていた。

「ラザール様。」

その呼びかけに振り返ったラザールの顔には、いつもの威厳と共に柔らかな微笑が浮かんでいた。

「これからは平和を取り戻すために歩み始める。俺たちだけじゃない、魔界全員でな。」

彼の言葉に広間にいた魔族たちは一斉に頷き、ざわめきが広がる。

その夜、真奈は王宮のバルコニーから、魔界の景色を見下ろしていた。紅い月の色は薄れ、柔らかな紫色へと変わりつつある。それは、真奈が初めてこの世界に召喚されたときからは想像もつかない光景だった。

「ここからの景色、初めて見たときと全然違うね。」

横に立ったラザールに、真奈はそう言った。

「お前が来てくれたからだ。魔界は、そして俺は…変われた。」

ラザールの言葉に真奈は照れくさそうに微笑む。

「でも、私ひとりじゃ何もできなかったよ。ラザールやイグナス、みんながいたから…私も強くなれたんだと思う。」

ラザールは真奈の小さな肩に手を置き、真剣な眼差しで彼女を見つめた。

「真奈、お前は本当にすごい奴だ。俺が王子として責務を果たせたのも、お前が隣にいてくれたからだ。」

その瞬間、真奈の頬が紅潮する。心臓が高鳴り、目の前の王子の真剣な眼差しに言葉を失う。

「ラザール…」

その夜の静けさを破るように、遠くから叫び声が聞こえた。真奈とラザールが振り返ると、王宮の門を叩く音が響く。

「緊急事態です!」

兵士の声に、2人の表情が引き締まる。

「最後の『瘴気の結晶』が、崩壊を始めています!」

瘴気の結晶は魔界を覆っていた混乱の象徴であり、これを完全に消滅させなければ魔界の再生は成し遂げられない。しかし、その破壊には膨大なエネルギーが必要だった。

「俺が行く。」

ラザールは即座に決断を下した。

「待って!」

真奈が彼の腕を掴む。

「私も行くよ。一緒に最後までやり遂げたい。」

ラザールは一瞬ためらったが、彼女の瞳に宿る強い意志を見て頷いた。

「分かった。一緒に行こう。」

ラザールと真奈は、イグナスや他の仲間たちと共に瘴気の結晶が眠る場所へ向かう。その道中、真奈はこれまでの旅路を振り返っていた。異世界に召喚され、戸惑い、戦い、成長し、多くの大切なものを得た。

「ラザール、これが終わったらどうなるのかな?」

真奈が不安げに尋ねる。

「それはお前次第だ。だが、俺は…どんな未来でもお前と共に歩む覚悟がある。」

その言葉に真奈は驚きながらも微笑む。紅い月が完全に紫へと変わるその瞬間、2人の絆はさらに深まるのだった。


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