受付嬢って、何ですか?
「それじゃあ、早速「ちょ~~~っと待って、クリスちゃん」
シルヴァの声にクリスが立ち止まる。
どうかしましたか?と、彼女は瞬きを繰り返す。
「あ~・・・ほら、その~・・・そう!その人の正式な登録もしてないし、見たところ装備も無いみたいじゃない?登録と装備は私が準備するから、明日にしましょう?そうしましょう!」
歯切れの悪い言い方と下手糞な笑いを浮かべるシルヴァに対し、クリスは暫し呆けた表情をしていたがすぐに納得。
それじゃあ、また明日!
それだけを言い残し、彼女は上機嫌のその場を去っていく。
惜しみつつその背中に手を振っていると、シルヴァの声。
「・・・ちょっとついてきなさい」
・・・え?
・・・嫌だよ?
嫌に決まってるじゃん。
明らかに自分を嫌っている奴に何でついて行くんだよ。
それに、俺まださっき針刺されたこと許してないよ?
先ずは謝罪じゃないの?
だが、そんな考えも空しく彼女は歩き続ける。
その背中を眺めていると、クルリと振り向き―――睨み付ける。
・・・はい、今行きます。
行くからそんな怖い目で見ないでくれよ・・・
彼女の圧に屈し・・・渋々ながらその背中を追いかける。
「入って」
促されるまま中に入ると、そこは応接間?の様な部屋。
話でも聞きたいのか?
まぁ・・・それくらいなら・・・
しかし、どう説明すれば・・・
必死に考えていると背後でガチャリと音がした。
・・・え?何?鍵かけたの?え?
恐る恐る振り向くと、シルヴァが上着を一枚脱ぎながら向かって来るではないか。
この時全てを悟った。
・・・マジ?
え?そういう感じなの?
おいおいおいおい・・・え?いいの?
いや待て・・・まだそうと決まった訳じゃない。
この危ない女の事だ・・・拷問とかの可能性のがあるんじゃないか?
むしろそっちの方が濃厚だろ。
頭の中で警戒心と下心が争い合う中、彼女は椅子に上着をかけ棚を漁り出す。
「あんた酒は?飲める?」
「・・・飲めます!!」
「あっそ。そこ座ってて。・・・あれぇ?どこやったかな?」
この世界の煙草らしきものを咥え、彼女は探し物を続ける。
一方、俺の頭の中はピンク色に染まっていた。
マジかよマジかよ・・・酒ってそういう事だよな。
チラリと彼女に視線を送る。
後ろで繋がれた薄紅色の髪。
整った顔立ちだが、釣り上がり気だるげな目。
凹凸の少ないスラリとした身体。
正直、自分の好みでないだけで、傍から見たらかなりの美人だろう。
これからの事を考え、生唾を飲み込みキョロキョロと周囲を見回す。
ふと・・・彼女の上着のポケットから1枚のプレートの様なものが見えた。
それは自分が指を押し付けられた物に似ている・・・というか、同じものか?
これでスキルとか分かったって事は・・・そういう感じのやつか?
探し物に夢中な彼女に一瞬目を配り、ばれない様にこっそりと引き抜く。
本当は盗み見なんて駄目に決まってる!
けど・・・まぁ・・・これからそういう仲になる事だし?
お互いの事は知っておいた方がいいよね?
うん、そうそう。
いい訳の準備は万全、心おぎなくプレートを引き抜く。
名前 :シルヴァ カジタ
年齢 :29
職業 :受付嬢
生命力 :358
魔力 :246
力 :294
耐久力 :165
素早さ :471
賢さ :384
信仰心 :107
スキル :『処刑人』『拷問上手』
・・・ん?
見間違いか?
何度も目を擦り、何度も瞬きをし、何度もプレートと彼女を見比べる。
しかし、一向に数字が変わる気配は無い。
・・・嘘じゃん。
え?何?この人?
受付嬢って・・・どこの受付?
魔界とか地獄とか?
だとしたら門番じゃん。
最低数値でも俺の合計値の何倍なの?
え?っていうか、スキル『処刑人』って何?
そっちが職業じゃん。
職業:処刑人で趣味:受付嬢でいいじゃん。
それに『拷問上手』って何?
趣味で受付嬢やってる地獄の門番の処刑人が拷問すんの?
働きすぎじゃね?
役割分担しようよ。
・・・ん?
拷問上手?
・・・あれ?これ俺ヤバい感じ?
先程までのピンク色は消え去り、頭の中は真っ赤に染まる。
暫く現実逃避した末、1つの結論に辿り着く。
うん・・・見なかった事にしよう。
気のせいだ、気のせい。
止め止め、終了終了、お疲れ様でした。
プレートを上着に戻そうと手を伸ばすと、手首に違和感と金属音。
・・・え?
恐る恐る顔を向けると、そこにはシルヴァ。
彼女は器用に煙で輪を作り、椅子に座る。
「はい。それじゃあ、これから質問するから。正直に答えなさいね」
「え・・・いや「あんたの名前は・・・タマコ・・・ウジロウ?で合ってる?」
「え?いや・・・玉 鋼次郎です・・・」
「あっそ。はい次。あんた童貞?」
「・・・はぁ?いや・・・何ですか・・・急に「いいから答える」
「ち、違いま―――あだだだだだだだだだだだだだだだだ!!もげる!もげる!!もげる!!!もげる!!!!」
訳の分からない質問に答えた瞬間、手首に言葉では言い表せない痛みが襲い掛かる。
「正直に答えろって言わなかった?」
「すんません!童貞です!!生まれてこの方童貞に間違いないっす!!」
瞬時に先程までの痛みが消えと同時に自分の手首を確認。
よかった・・・付いてる・・・
安堵すると共に恐怖で嫌な汗が滝のように流れる。
その様子を見て薄ら笑いを浮かべる彼女に最早ピンクの心は何もない。
え?やべぇよこの女・・・マジで処刑人じゃん。
っていうか『拷問上手』じゃなくて『拷問大好き』の間違いじゃねぇのかよ!
おいおいおいおい、マジでこのままだと・・・と、今度は頭に違和感と金属音。
・・・嘘じゃん。
ゆっくりと頭を上げると、彼女は新しい煙草に火を点けていた。
「はい、じゃあ次ね。最後に忠告。さっきのは久しぶりに使ったから上手く動くかの試運転。問題ないみたいだから次はさっきの倍の痛みでいくわ。まぁ・・・正直に答えたら何も問題ないから、サクサク行くわよ」
この時、俺は友人である受付嬢推しの森下君の顔を思い出した。
彼がよく早口語る受付嬢の姿と目の前にいる狂人は似ても似つかない。
もしも現実に帰れたら・・・彼に真実を伝えなきゃいけない。
『受付嬢は・・・地獄の門番の処刑人で拷問狂』と。
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