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私と潜って、くれますか?


 どれほどの距離を落下していたのかは分からない。

 しかし、地面に衝突しても死んでいないという事はそんなに高くはなかったか?

 まぁ、それでも痛い事には変わりないが・・・

 打ちつけた腰を擦りつつ、辺りを見回す。

 ボロボロの壁、開いた天井、訳の分からない像。

 ここがどこかは知らないが、自分の家でない事だけは分かる。

 えぇ・・・マジで異世界なの?ここ・・・

 困り果てていると、視線を感じる。

 嫌な予感がする。

 え?いや・・・まさか・・・いきなりモンスターとか無いよな?

 流石にそれはハードすぎるぞ?

 こちとら武器も防具も何も無いんだぞ?

 恐る恐る視線を向け―――目を見開いた。

 当然だ。

 そこにいたのは人間の女性・・・しかも自分のストライクゾーンのど真ん中!

 短くウェーブのかかった金髪。

 蒼色の綺麗な瞳。

 肉付きのいい身体。

 透明感のある肌。

 そして何より―――巨乳。

 おいおいおいおい・・・嘘だろ!

 マジかよ!

 こんなに理想に当てはまる女がこの世にいるのか!?

 これが・・・異世界か・・・!

 ほんの少しだけ・・・神様に感謝してもいいな。

 締まりのない表情をするが、彼女は一言も喋らない。

 ただただ口を開けて瞬きを繰り返すだけ。

 ここで疑問が頭を過る。

 ・・・あれ?言葉って通じるよな?

 言葉って言うか・・・日本語通じるよね?

 英語なんて無理だぞ?

 え?何?異世界に来てボディーランゲージで何とかしなくちゃいけねぇの?

 そんなの斬新すぎない?

 絶対無理じゃん。

 一部の望みを賭け、尋ねる。


 「あ、あの~・・・すみま―――」


 その言葉を言い終わる前に、彼女が腕を掴み走り出す。

 何?何?何?何?

 え?どうしたの?

 積極的じゃん。

 え?そういう事なの?

 だって俺達言葉を交わしてないし、互いの名前も知らないよ?

 そんな細かいこと気にしないって事?

 だとしたら・・・神様にもっと感謝だぞ?

 ・・・いや、待て。

 そんなうまい話があるか?

 あの人の話も聞かねぇ爺が送り込んだ世界だぞ?

 何か裏があるに違いねぇ!

 恐らく・・・俺を供物にして食うとかか?

 ・・・いや、違うよな?

 違うよね?

 え?ちょっと待って。

 急に怖くなってきた。

 離してもらってもいいですか!?

 一心不乱に足を動かす彼女に視線を向けその手を振り払おうとする・・・が、目の前には活発に上下する双丘。

 ・・・まぁ、もう少し・・・ギリギリまでなら・・・ついて行くか・・・うん。

 暫くそれを眺めていると、どこかの建物内に入っていくのを察知し、我に返った。

 しまった!

 あまりの眺めについ・・・!

 逃げねば!と、考えた時にはもう遅い。


 「あら?クリスちゃん?そんなに血相変えてどうし「シルヴァさん!!私、この人とダンジョンに潜っていいですか!?」


 辺りが静まり返る。

 そうか、クリスって名前なのか。

 うんうん、可愛い名前じゃないの。

 っていうか、言葉分かるじゃん。

 よかった・・・

 胸を撫で下ろし、顔を上げる・・・と、そこには凄まじい形相のシルヴァ。

 え?何?俺何かした?

 何でそんなに怒ってんの?

 彼女は品定めするかの如くこちらを見つめ、咳払いをして下手糞な笑いを浮かべる。


 「クリスちゃん・・・この人は何?旅芸人の方?それとも浮浪者?こんな珍妙奇天烈で頓痴気な服装した人と関わっちゃ駄目よ?」


 え?そこまで言う?

 酷くない?

 結構気に入ってる服なんだけど・・・

 密かに傷ついている横で、クリスは身振り手振りを交えて説明をする。

 彼女の言い分を簡単に言うとこうだ。

 『神様に一緒にダンジョンに潜ってくれる人をお願いしたら、この人が降ってきた』

 こんな説明で納得できるはずも無く、シルヴァは困った顔をする。

 え?何?

 俺を呼んだのこの子なの?

 何か嬉しいな。

 つまりこのままこの子と2人で行動するって事だよな?

 あ、やべぇ・・・楽しくなってきたかも。

 ・・・神様、ありがとう。

 

 「すみません、手を出していただけますか?」

 「え?はい、よろこん―――でえええええええええええ!?」


 先程までの幸福感は消え去り、指先に走る痛みに思わず叫ぶ。

 え!?何やってんのこの人!?

 指先に針刺したよ!?

 これがこの世界の挨拶なの!?

 嘘だよな!?

 慌てて引っ込めようとする腕を掴まれ、指先に何かを押し付けられる。

 再び悲鳴を上げるが、シルヴァは興味の無さそうな目で押し付けた板を凝視。

 何なんだよこの女・・・怖ぇよ・・・

 先程までは興味なさそうな目をしていた彼女だったが、唐突に目を見開く。


 「スキルが・・・3つも・・・!?」


 僅かに周囲が騒めき、クリスは満面の笑みを浮かべる。

 まるで自分の事の様に喜ぶ彼女を見ていると、指の痛みなど忘れ・・・癒される。

 やっぱ爺は神だな。

 文句ばっかり言ってすんませんした!

 使える使えないは別として、スキルだけでここまで評価が変わるなんてな。

 これで俺も・・・


 「・・・え?うっわ・・・何これ?・・・え?ステータス低っ!!」


 ・・・え?

 

 「でも!冒険者さんですよね!?私、潜ってもいいんですよね!?」

 「う、うーん・・・いやぁ・・・」

 「駄目・・・ですか?」


 歯切れの悪い返事をするシルヴァに、クリスは目を潤ませ落胆の表情を浮かべる。

 しょうがない。と、シルヴァが折れる形となった・・・が、それどころではない。


 え?何?

 ステータス低いの?

 いや・・・確かに一桁はどうかと思ったけど・・・そういう世界じゃないの?

 あれ?

 基準が知りたいんだけど・・・

 ここでシルヴァが手招きしている事に気が付き、恐る恐る近づく。

 彼女は肩に手を回し、耳元で囁いた。

 

 「クリスちゃんに何かあったら・・・お前、殺すからな?」

 

 ・・・怖ぇよ!!

 マジで何だよこの女!!

 クリスちゃんに対する態度と違いが過ぎるぞ!?

 二重人格なのか!?

 それともヤクザか!?

 こんな女と関わり合いたくなんか・・・


 「それじゃあ、冒険者さん!不束者ですが、よろしくお願いしますね!」

 「あ・・・こちらこそ」


 しかし、好みのタイプが一緒にいるなら・・・我慢するか。

 目の前に人参をぶら下げられて走る馬の気持ちが・・・少しは理解できた。

最後までお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、いいね・評価頂けたら幸いです。

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皆様が読んでくれることが何よりの励みになりますので、至らぬ点もございますがこれからもよろしくお願いいたします。

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