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第六十八話 粛清

■ヴァランタン視点■


 無事にルナを捨て駒にして禁忌の魔法を発動させられた後、私は国王陛下や数人の貴族、それと彼らが選んだ信頼できる護衛と共に、城から国外にまで続く長い隠し通路を歩いていた。


 この通路は、王族やごく一部の貴族にしか知られていない、秘密の通路だ。魔法に対する強力な障壁が張られていて、いかに強力な瘴気でも、ここを侵すことは不可能な、安全な道なのだ。


「国王陛下、お疲れではございませんか?」

「問題ない。世話をかけてすまんな、ヴァランタン」

「とんでもございません。私はメルヴェイ家の当主として、当然のことをしているまでです」


 この国の人間として、国王陛下の御身を案ずることは、当たり前のこと。だというのに……。


「ぜぇ……ぜぇ……で、出口はまだなのか……」

「もう疲れましたわ! 喉も乾きましたわ! 足も痛いですの! こんなことなら、護衛じゃなくて世話係の人間を連れてくるべきでした!」


 全くこの馬鹿共は……国王陛下の御前で喧嘩をするような愚か者なのはわかっておったし、ピリピリするのも理解できないわけではないが……これではまだ幼子の方が素直に歩くだろう。


 いっそのこと、この場で葬ってやろうかとも考えたが、今は緊急事態ゆえに、面倒なことになるのは避けたい。秘密裏に処分するのなら、落ち付いてからでも遅くはなかろう。


「出発してから、かれこれ数時間は経っている。そろそろ、例のアレが見える頃だが……」


 例のアレとは何なのか、それをお伺いする前に、私達の前には馬車のキャビンが姿を現した。


「国王陛下、これは?」

「馬の代わりに、魔力で動くキャビンだ。これに乗れば、後は自動で国外にまで行ける」

「こんな便利なものがあるなら、入口からあればよろしいのに……!」

「余も詳しくは知らぬが、このキャビンに組み込める魔力の都合で、ここまでしか用意できなかったそうだ」


 国王陛下のありがたい説明を拝聴しながら乗りこむと、普通の馬車のような音を立てながら、通路を進み始めた。


 移動は馬車なのが当たり前になっている我々にとって、徒歩は想像以上に苦痛だった。いかに馬車が大切なものか、こんなところで学ぶことになろうとはな。


「…………」


 先程までとは打って変わり、穏やかな空気が流れる。きっと、このまま座っているだけで、自分達の平穏が約束されたからであろう。


 かくいう私も、少しだけ気が抜けてしまったのは否めない。疲れも相まって、少々睡魔が襲ってきた。


「国王陛下、これから向かう隣国の王家の方々には、なんとお伝えしたのですか?」

「それらしい理由を書いて、我々が向かうから受け入れてくれと申し出た。向こうとしても、我々に借りを作りたいのであろうな……二つ返事で了承をされた」

「急な話でしたのに、よく受けてくださいましたね」

「彼らには彼らなりの考えがあるのだろう。今はそれを利用するのが得策だ」


 後々になって、あの時迎え入れたのだから支援しろとか言うつもりであろうが、それがわかっていても、こちらは頼んでいる立場だから、文句も言えない。


「あ、あそこに明かりが見えますわ!」

「ようやく出口か! ふい~、やっとこの辛気臭い地下道から抜けられるのじゃ!」


 出口を前にして、キャビンは静かに止まる。それを確認してから、急いで外に出ると……そこには、我々がよく知る二人の人物が、静かに出迎えました。


「じぇ、ジェラール……それにアレクシア! なぜここにいる!?」

「そんなに興奮されないでください、国王陛下。あなた達が国外に逃げることも、ここを使うこともわかっていましたからね」

「やれやれ、結界のほんの一部だけ強引に破壊して、どこに連れていくのかと思っておったが、こんなところに逃げ道があったとは思わんかったわい」


 しまった、ジェラールは元宰相……この通路を知っている、数少ない人物だった。急いで国外に行くことを考えていて、完全に失念していた……!


「お久しゅうございます、クレマン陛下」

「隠居したと思っていたアレクシアと、こんな場所で会うとはな……」

「ワシも思いもしておりませんでしたよ。幼い頃は、国のために頑張ると意気込んでいた陛下が、立派な外道となって、民を犠牲にして無様に逃げるところで会うだなんてね」

「ご老人は、昔の話ばかりするから困る。そのような戯言は、もう何十年も前に捨てた」


 ただ会話をしているだけなのに、なんて迫力だ……近くに立っているだけで、肌がピリピリする。これが大魔法使いの圧だというのか?


「皆様、一度だけ警告いたします。全ての罪を認め、大人しく我々についてきてください。そうすれば、手荒な真似は致しません」

「ど、どど、どうするのじゃ!? 相手はアレクシアとジェラールであるぞ!?」


 彼が動揺するのも無理はない。我々の前に立っているのは、歴史に名を残すほどの大魔法使い、アレクシア。そして、彼女が長い人生で唯一弟子にした英傑、ジェラール……あまりにも分が悪すぎる。


 こうならないように、ジェラールが今までしてきた提案を飲んできたというのに……!


「皆の衆、怯むな! いくら相手が大魔法使いとその弟子とはいえ……数ではこちらが圧倒的に勝っている!」

「こ、国王陛下の仰る通りですわ! ワタクシ達だって、貴族として、魔法の教育は受けておりますわ!」

「や、やれんことはない! こいつらを殺して、再び安寧と権力をこの手に!」

「……弟子よ、馬鹿共がなにか言っているが?」

「構いません。自由に吠えられるのは、今だけなのですから」

「それもそうだ。そなた達、数がどうこう言っておったが、これを見ても同じことが言えるかね?」


 アレクシアが指を鳴らすと、突然激しい地震が起こり始め……我々の周りの土が、沸騰した水のようにボコボコとし始めた。


 それから間もなく、岩で出来たゴーレムのような生命体が、地面から出てきた。大の大人よりも大きく、岩ということもあって頑丈そうな見た目のゴーレムが、ゆうに百体は超える量がいるのは、あまりにも絶望的だった。


「ぐっ、ぐぐっ……た、ただの岩如きに、何が出来る!?」

「国を牛耳る椅子に座って、目が腐ったのか、ヴァランタン」


 ふぅ……と小さく息を吐きながら、ジェラールが静かに右手を天に掲げると、奴を中心とした魔力が、突風となって周りに吹き荒れる。


 この風で、私達を吹き飛ばす……そう思ったが、そんな考えは甘すぎた。


「い、今のは一体……きゃぁ!?」


 突風に驚いて、目を一瞬閉ざした我々の目に映ったものは……彼らを囲うように宙を漂う、無数の武器の山だった。


 剣、短剣、レイピア、杖、斧、弓……他にもありとあらゆる種類の武器が、我々を屠る時を、今か今かと待ち続けている。


 これは、魔力で無から物体を作り出す、超高等魔法……!? これが、ジェラールの本気だというのか……! あ、あまりにも格が違いすぎる……!


「あ、あんなバケモノに叶うはずがありませんわ……」

「もうおしまいじゃ……」


 私以外の貴族達は、絶望を目に宿しながら座り込んでしまった。股も不自然に濡れている。連れてきた護衛達も、武器を手放して、完全に戦意喪失してしまっていた。


 かくいう私も、あまりにも格が違う力を見せつけられて、その場で項垂れるしか出来なかった。


「こ、こ、こいつらはあなた方に差し出しますから、ワタクシだけは見逃してくださいませ!」

「この年増女……! ジェラール、私を見逃してください! もし見逃してくれれば、望むものをやろうではないか!」

「この期に及んで、自分だけ助かろうとするその性根……まったく反吐が出るわい」


 アレクシアが再び指を鳴らすと、私以外の貴族の足元から、岩のゴーレムの手だけが生えてきて、彼らの足を掴むと……なんとそのまま、地面の中に引きずり込んでしまった。


「やれ」

「はい」


 たった数文字だけのやり取りの後、彼らが引きずり込まれた穴の中に、ジェラールの武器達が、雨のように降り注ぐ。一瞬だけ断末魔のようなものが聞こえてから、辺りは再び静寂に包まれていた。


「ジェラール、貴様ぁ!!」

「次はお前だ、ヴァランタン」


 目の前で同行者が殺されたのを見て、何かが私の中で壊れ、なりふり構わず魔法を使おうとしたが、いつの間にか背後にいた岩のゴーレムに拘束されてしまった。


 こんなもの、一つくらいなら破壊するのは容易いはずなのだが……なぜか魔法が発動しない。これでは、この拘束から逃れることが出来ない。


「ヴァランタン。昔は随分と世話になったが、最近は随分と話す機会が減ってしまったからな。言いたいことがあるのだ」

「言いたいこと、だと?」

「貴様、私の義娘を随分と可愛がってくれたようだな。話は彼女から全て聞いている。そのお礼をしようと思ってな」

「ぐあぁ!?」


 辺りを漂う一本のレイピアが、私の肩を貫く。その鋭い痛みに、思わず辺りに絶叫を響かせてしまった。


「自分の都合で引き取って、散々酷い仕打ちをして、挙句の果てに追放して……自分の思い通りになって、さぞかし気分が良かっただろう?」

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!?」

「騒いでないで、なにか言うことがあるだろう?」

「い、言うことなんて……」

「言わなきゃわからねえか! サーシャへの謝罪に決まってんだろ!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 無抵抗の状態で、剣が右腕を引き裂き、短剣が左手の指を全て切断し、斧が私の右足に突き刺さり、杖が私の左足を叩き折ってきた。


 あまりの痛さにら失神してもすぐに激痛で覚醒させられる。そして、次の制裁が加えられ、またしても意識を失って……その繰り返し。


 どうして一思いに殺さない……どれだけ私を苦しめれば気が済むのだ……もう、楽にしてくれ……。


「た、助けてくれ……もう楽に……」

「助けろだって? 貴様、サーシャが同じことを言ったら助けたのか!? やりもしないことを、人に頼むんじゃねえよ!!」

「やれやれ。レナードの愛の深さや、それに伴う容赦の無さは、父親譲りであるな……それ以上はやめんかい、馬鹿弟子。こやつらは、法によって裁くべきだ」

「…………」


 アレクシアの言葉を最後に、拷問の手がピタリとやんだ。そして、私もそこで意識を完全に手放してしまった……。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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