第六十七話 安らかな旅立ち
「お疲れ様、サーシャ。よく頑張ったね」
「レナード様こそ、お疲れ様でした。あなたがいなかったら、解決はしていませんでしたわ」
「いやいや、サーシャが頑張ったから――あ、あれは!」
「ルナ!?」
空中で磔にされていたルナの体が、糸が切れた操り人形のように、地面に堕ちました。
「ルナ、しっかりして!」
息がかなり荒いし、触診した感じ、内臓の損傷もかなりあるみたいです。それ以上に酷いのは、体に残っている魔力量……これだけ魔力を抜かれたら、無事で済むなんて……。
「うぅ……」
「ルナ!?」
もう駄目だと思っていると、ルナは小さな吐息を漏らしながら、ゆっくりと目を開けました。
これだけボロボロなのに、まだ意識を取り戻せるのは本当に凄いことだと思います。
「わたし、解放された……?」
「そうですわ。あなたはもう自由ですの!」
「自由……ははっ……よかった……わたしは……滅茶苦茶にした奴ら……に……復讐すんの。だから……死ねない」
ふ、復讐って……一体何を言っているの!? もしかして、大変な目に合って混乱しているとか……き、きっとそうに違いありませんわ。
そうですわ。意識があるなら、もしかしたら私の魔法が間に合うかもしれません。望みは薄いですが、やってみる価値はあります!
「ルナ、すぐに治療をしますから!」
「はっ……? やめろ、お義姉様なんかに……助けられるなんて……虫唾が走る……!」
ルナは震える手を私の肩に伸ばし、力強く握ってきました。その手と言葉から、強い拒絶の心が伝わってきます。
「サーシャは君を助けようとしているのに、なんだその態度は……!」
「良いのです、レナード様。ルナ、よく聞いて。あなたの体は、あなたが思っている以上にボロボロですの。私が治療しても、助かる可能性は低い。なのに治療を受けないなんて、もってのほかですわ」
「お義姉様は……相変わらず心配性だ……こんなの、ほっとけば治るし……」
「ルナ!」
「なに、焦ってんの……? それとも、悔しい……? お義姉様が……言ってたのって……一人でも多く……の人を助けるだっけ? あははっ、それは無理そうだねぇ」
昔から、私に何か嫌がらせをした時にしていた嫌らしい笑みを浮かべるルナ。しかし、その笑みには全く覇気がありません。
「言っておくけど……無理やり治療しようと……したら……舌を噛みきって……死んでやる」
「っ……!」
さすが、教会で一緒に住んでいただけあって、私のしようとしていることは簡単に読まれてしまいますわね……。
復讐をしようとしているルナが、自害するようなことをするとは思えませんが、万が一のこともありますので……躊躇ってしまいます。
「わたしは、あんたの治療なんて……受けない。残念……だったね、お義姉様の……崇高なお考えは……達成できないなぁ」
「ルナ、どこに行くの!?」
「復讐……だよ。自分達だけは……逃げた、卑怯者たちに……あいつらは……殺す……かな、らず……あんたは、最後……にしてあげる……」
ルナは、フラフラした状態で歩きだしました。その背中は、とても悲しそうで……色々な感情や出来ごとがあって、苦しんでいるようにも見えます。
あんな体で、まともに歩けるはずが無い。そんなわたしの考えは的中しました。ルナの体力は数歩歩いただけで尽きて、座り込んでしまいました。
急いでルナの元に駆け寄りますが、来るなと怒鳴られました。しかし、追い払う力はないので、そのままルナの近くで腰を降ろし、ルナを抱き上げました。
「離しなさいよ……わたし、復讐……復讐して……どうして、邪魔するの……どうして……?」
一回ルナは言葉を止める。そのかわりに、両目からは大粒の涙が溢れておりました。
「あんな人達のために、あなたの手を汚させたくありませんの」
「お義姉様……」
「ほら、今日は疲れたでしょう? ゆっくりお休みなさい。そうだ、私が子守唄を歌ってあげますわ。眠るまで、ここにいてあげます」
「どうしてお義姉様に……」
「少しくらい、お義姉様らしいことをさせてくださいな」
まだ教会で一緒に生活していた時、ルナが好きだった曲を歌ってあげました。最初は驚いていましたが、だんだんと柔らかい表情になっていって、目がトロンとしていきました。
「どうして、わたしなんかに……優しくできるの? わたし……ずっと酷いこと、したのに……」
「あなたもある意味犠牲者ではありませんか。そんなあなたが目の前で苦しんでいたら、聖女として助けるのは当然ですわ。それに……あなたは、世界でたった一人の義妹ですから」
「…………」
ルナの言うように、私は教会にいる時に、ルナに色々と嫌なことをされてきました。そのうえ、必死に勤めていた聖女の座も奪われました。
それでも……私には、ルナを見捨てるようなことは出来ませんでした。
「お義姉様……」
「なんですか?」
「教会で虐めて……聖女の座から追い出して……ごめんなさい……」
「ルナ……これに懲りたら、次からは良い子にしなさいね」
「ははっ、こんな時まで……お義姉様ぶって……むかつく……それ、に……次なんて……ばっかみたい……いや、それは……あたしも、か……」
「ルナ……?」
「なんか、最後に……ちゃんと……謝っておきたいって思っちゃって……それとね、助けてくれて……あ、りが……と……おねえ、さま」
私の腕の中で、最後に優しい笑顔を見せたルナは、ゆっくりと眠るように目を閉じて……そのまま目を開けることはありませんでした――
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