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第六十話 逆転の一手

「義父上、その怪我は!?」

「なに……心配ない。かすり傷だ」

「どうみてもかすり傷には見えませんわ! すぐに治療いたします!」


 体のあちこちに巻かれた包帯からはにじみ出ている血の跡は、ジェラール様の怪我の深刻さを物語っておりました。


 幸いにも、今の私の聖女の力なら、深い傷であってもすぐに治せるから良かったですが……これがもし力を手に入れてなければ、途中で体力が尽きて、治療が遅れて……最悪の場合も考えられました。


「治療、終わりました。ジェラール様、体の具合はどうですか?」

「……うむ、あれだけあった痛みが嘘のように消えた。これが聖女の力……改めて自分で経験すると、その力の偉大さがよくわかる」

「怪我は治りましたが、疲労や失った血を戻すことは出来ませんから、何日かは安静にしていてくださいませ」

「む、そうか……これくらい、半日も休んで食事をすれば、大丈夫だと思うのだが……」

「…………」

「…………」


 私とレナード様に思いっきり睨みつけられてしまったジェラール様は、すこし気まずそうに、わかった……と小さな声で答えました。


 お仕事に熱心なのは良いことですが、調子が悪い時は、休むことは大切だと思いますわ。


「なにやら大きな魔力を感じて来てみたら……ジェラールとサーシャが帰ってきたのかね」

「えっ……!?」


 ガチャっと扉が開く音と共にやってきたのは、ジェラール様のお師匠様である、大魔法使いのアレクシア様でした。


「ごきげんよう、アレクシア様。まさかお越しになられているとは驚きました。具合はどうですか?」

「そなたの嫁のおかげで、最近は調子がいいわい。それにしても、サーシャは随分と成長したようだな。ジェラールからおおよその話は聞いていたが、想像以上でおどろいた」

「アレクシア様にお褒め頂けるなんて、至極光栄ですわ」


 レナード様に褒められるのも嬉しいですが、トップクラスの魔法の使い手に褒められると、一段とその言葉に重みがあるように思えて、嬉しく感じます。


「ところでアレクシア様、本日はどうして我が家に?」

「ジェラールから、ワシの力が必要だから力を貸してくれと、土下座して頼まれたもんでな。ちょいと老体に鞭を打って来てやったのだよ」

「お、お師匠様。話を誇張しないでください」

「おっと、これは失敬。土下座で頼まれたから、軽々とここに来たのだった」

「誇張している部分を、わざと間違えておられますよね?」

「はっはっはっ! そたなをからかうと、いつもバカみたいに真面目に返してくるから、面白くてな!」


 いつも冷静沈着なジェラール様も、お師匠様が相手だとたじたじになってしまうのですね。それに、親しげなやり取りを見ていると、まるで親子のような関係だと思ってしまいます。


「義父上、説明してください。屋敷騒ぎは、義父上の怪我と関係があるのですか?」

「うむ。彼らには、パーティー会場に来ている客人達の対応をしてもらっている」

「お客様……ですか? 今日はパーティーの予定はなかったと記憶しておりますわ」


 直前に聞かされることもありますが、大体はパーティーが開かれる場合は、事前に教えていただけます。

 なのに、今回はそれが無いほど突然のものなのでしょうか……?


「この屋敷の中で、一番広い場所だから使っているに過ぎんよ」

「は、はぁ……それで、その客人とは?」

「各地で魔法研究所に捕まっていた、実験体達だ」

「「えぇっ!?」」


 騒ぎの実態を知った私とレナード様は、声を揃えて驚きを露わにしました。


「ここ最近、各地で王家や貴族に不満を持った民達が、騒ぎを起こしているのは知っているか?」

「ええ。先程向かった町の情報屋から、そのような話を聞きました」

「なら話は早い。この騒ぎに対処するために、国は鎮圧に人員を割いていてな。その隙に、私や数人の優秀な使用人で各地の魔法研究所に潜入し、実験体にされていた民を助けに行ったのだ」

「実験体は、一人や二人ではありませんよね? どうやって連れ帰ったんですの?」

「お師匠様に力を貸してもらったのだ」


 先程のお話から、それは察しがついておりましたが、その力というのが疑問なのですよね。


「さきほど、ワシの力の話をしただろう? その力とは、転移魔法のことでな。潜入した使用人や実験体を、研究所からここに転移させたのだよ。まあ、ワシの転移魔法は少々使い勝手が悪くてな。ワシのいる場所にしか対象を転移させられないのだよ」


 なるほど、だからアレクシア様がわざわざクラージュ家にまで来てくださったのですね。理解できましたわ。


「なるほど、民が各地で騒ぎを起こしているのに便乗して、囚われた民を救ったということですね」

「うむ。私は彼らに協力してもらい、国の罪を白日の下に晒す。そうすれば、大勢の民が国の罪を追及するだろう」

「そうなれば、さすがに国王陛下や貴族達も、責任を取らざるを得なくなる……そういうことですか、義父上?」

「さすが我が義息子。察しが良くて助かる」


 お二人が納得しているところに、水を差すのは申し訳ないのですが……私には、気になる点がございますわ。


「それだと、もし国が騎士団を動かして、武力で民を制圧したら……」

「可能性は無いとは言えない。そうなる前に、私が民の代表として、彼らに交渉を持ち込む。既に国王陛下には文書を出し、今回の件について話し合う会談の予定は組んでいてな。明日の早朝に開かれる」


 さすがはジェラール様、私の懸念など全て計算の内だったのですね。


 よし、なら私は私の出来ることをしましょう。まずは避難してきた方々の体調を診させてもらって、その後は……使用人の方々と一緒に、彼らの助けになれることをしましょう!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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