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第五十九話 レナードの真の力

「えっ!?」


 突然の大声に反応して、何事かと人がこちらに集まってくる音が聞こえてきます。このままでは、狭い裏路地では簡単に追い詰められてしまいます。


 捕まったからといって、何か悪事に使われる……なんてことは無いでしょうが、なるべくこれ以上は騒ぎは起こしたくありません。


「その目と髪、噂の聖女だろ? オレが気づかないとでも思ったか?」

「あなた、どうしてこんなことを!?」

「オレは情報屋だぜ? この国を救って回る聖女がいるなんて情報、拡散しないわけにはいかないだろう? くくっ、後でここに来た連中から、大金をふんだくってやるぜ……!」

「素直に逃げた方がよさそうだ。サーシャ、もう一度失礼するよ!」


 先程と同じように、私をお姫様だっこで持ち上げると、この場から走りだすレナード様。


 でも、こんな狭い裏路地では、集まってくる人と鉢合わせになってしまうでしょう。その方々に道を塞がれてしまったら、逃げることは不可能でしょう。


「レナード様、どうされるのですか!?」

「問題ない! 落ちないように、しっかり捕まって!」

「は、はいぃ!!」


 レナード様の首に腕を回してギュッと力を入れていると、レナード様の体が、一気に高密度の魔力が纏われました。


 それから間もなく……レナード様は人間業とは思えないような跳躍力を発揮して、建物の屋根に乗ってしまいました。


「凄い……! レナード様の魔法が凄いのは存じておりましたが、ここまでとは……! 体は大丈夫なのですか!?」

「なに、病気が治って本気を出せるようになれば、この程度余裕さ! なにせ俺は、大魔法使いアレクシア様の弟子の義息子なのだから!」


 とても自慢げに話すレナード様は、まるで背中に羽が生えたと思うほど身軽に、屋根から屋根に飛び移ります。

 その姿は、まるで囚われていたお姫様を颯爽と助けだす、王子様のようで……。


「レナード様、カッコいい……素敵……!」


 ――ついぽろっと、思っていることが口に出てしまいました。すると、レナード様の顔が、みるみると赤くなっていきました。


「なっ!? 君を抱き上げているだけでもご褒美なのに、お褒めの言葉までくれるのかい!? ああ、幸せすぎて体から力が抜ける……あそこに見える楽園は、天国か……?」

「し、しっかりしてくださいませ! レナード様ー!」


 顔を真っ赤にして、目もグルグルにさせているレナード様を、何度も必死に鼓舞することで、なんとか私達は町を離れ、待機していた馬車に乗り込むことが出来ました。


 ああ、怖かったですわ……病気が治っても、レナード様はレナード様ということですわね。


「ふう、何とか無事に切り抜けられましたわ……これもレナード様のおかげです。それでレナード様、少しは落ち着きましたか?」

「落ち着いたかどうかと聞かれると、全く落ち着いていないかな。ずっと愛していた人に好意を伝えられたのだからね」

「……ところでレナード様? 出発してから、どうしてそんなに体を触られているのですか? くすぐったいですわ」

「怪我がないか確かめていたんだよ」


 そ、そういうことは冷静じゃなくてもしてくださるのですね。レナード様らしいといいますか……優しすぎて、もっと好きになってしまいますわ。


「ほら、サーシャは俺に心配かけないように、隠していてもおかしくないからね」

「もうっ、ずっと隠していたレナード様には、言われたくありませんわ」

「隠してたからこそ、その大変さがわかるってことさ」


 あはは、と楽しそうに笑いながら私を開放したと思いきや、そのまま私の隣に改めて座り、そのまま肩を抱いてきましたわ。


「こんなことで、私は誤魔化されませんわよ。自分を大切にしないレナード様は、嫌いです」

「そう言いながら、どうして俺の肩に頭を乗せてきているんだい?」

「はっ……こ、これは違うんですの!」


 私としたことが、無意識に少しでもレナード様にくっつく行動を取ってしまいました……これでは私の方こそ説得力がございませんわ!


「サーシャは本当に可愛いなぁ」

「っ……れ、レナード様なんて知りませんっ!」


 恥ずかしさを紛らわすために、わざとツンツンした態度を取ってしましたが、逆にそれがレナード様のお気に召してしまったのか、屋敷に着くまで私は愛の言葉を言われ続けてしまいました。


「お楽しみところ申し訳ございませんが、屋敷に到着いたしました」

「あ、はい! あら……なんだか、屋敷が騒がしい気がしますわ」

「そうだね。朝出発した時には、いつも通り平和な雰囲気だったのに……」


 馬車から降りると、夕焼けに染まる屋敷の敷地内を、多くの使用人が忙しなく行き来している姿がありました。

 その手には、食料や衣類といった、生活に必要なものがたくさんございます。


「あ、お二人共! おかえりなさい!」

「ただいま。一体何が――」

「申し訳ございません、急ぎですので失礼します!」


 近くを通りかかった若い女性の使用人に事情を伺おうと思いましたが、その前に走り去ってしまいました。


 これは、明らかにただごとではなさそうですわ。私達が出かけている間に、一体何が……?


「義父上に何かあったのか聞いてみよう」

「ジェラール様、いらっしゃるでしょうか? 最近屋敷を留守にしがちですが……」

「わからないが、仕事が一段落して帰ってきているかもしれないだろう? それに、義父上の指示も無しにみんながいつもと違う行動をしているのは、少々考えにくい」

「確かにそうですね。では、ジェラール様の私室に行ってみましょう」


 逸る気持ちを抑えきれず、早足でジェラール様のいるであろう私室に向かうと、そこには思わぬ光景が広がっていました。


 そこではなんと……怪我をして手当てを受けている、ジェラール様のお姿があったのですから――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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