表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/69

第五十八話 罪滅ぼし

■ジェラール視点■


 サーシャから多くの話を聞いた日の深夜、暗闇に支配されている私の部屋に、五人の使用人が集まっていた。


 彼らはこの家で働く使用人の中でも古株で魔法の実力がある、信頼できる人間である。


「皆に集まってもらったのは、他でもない。近々、魔法研究所に囚われている者達を奪還するために、力を貸してほしい」

「ジェラール様、どうして突然そのような話を?」

「なに、未来に生きる若者たちが立ち上がり、国を良くしようとしているのに、年老いた者が動かないのは、あまりにも格好がつかないだろう?」


 突然の命令に、使用人達は少々驚きはしたが、すぐに平静を取り戻した。


「このまま時が過ぎれば、民が騒ぎ始めるのも時間の問題だろう?」

「ええ……仰る通りですわ。わたくしの集めた情報によりますと、瘴気の被害が広がっている状況で、対処がうまくいっていないことで、各地で徐々に反政府の民が増えております。規模は各地で異なりますが、騒ぎも起きているそうです」

「それ以外にも……昔から、威張り散らしていた……貴族達への……不満も……集まっています」


 ルナを動かすことで、民のために考えていると思わせようとしているみたいだが、結果的にサーシャが後始末をしていることで、不満が溜まるのは当然だ。


「奴らのことだ。近いうちに、これ以上面倒事を起こさないように、研究施設もろとも、実験体を殺し、情報の漏洩と隠ぺいを図るだろう。ご丁寧に、研究資料だけは持ってな。だが、騒ぎの鎮圧もしないといけないから、そこに人員を割かなければならないのも事実だ」

「その隙をついて、救助するのですね。彼らが生きていれば、国の騎士が襲ってきたと証言していただけるでしょう。しかし、我々が実験体を救助したことが知られれば……」


 過去の対立が原因で、元々国家と仲が悪いうえに、レナードを保護する際に交わした約束を破るのだから、クラージュ家が国家の怒りを買うのは承知の上だ。私の命も危ういだろう。


 だが、私だってただでやられるつもりはない。お師匠様の名前に泥を塗るわけにもいかないのでな。


「私は、君達がそのような失敗などしないと信じている。万が一失敗すれば、この家は無くなるかもしれないが、君達も、レナードも、サーシャも私が守る」

「……それでは……残された、レナード様の……気持ちは……」

「彼も立派に成長した。私がいなくても、サーシャとうまくやるだろう」


 私は彼らに重圧ををかけたいわけではない。本当に、彼らなら失敗しないと信じている。


 それに、レナードは病気が治り、心の底から信頼し、支え合うパートナーを見つけたのだ。私の親としての役目は、もう終わっただろう。


「それに、私も出向くつもりだから心配はいらない」

「ジェラール様も行かれるんですの?」

「当然だ。命令だけして、安全な場所でのうのうと過ごすつもりは無い」


 本当なら、私一人で全て済ませたいが、研究所は一つではない以上、一度で全ての施設から救出をしなければならない。だから、彼らの力を頼らざるを得ないのが現状だ。


「ああ、言うまでも無いと思うが……これは極秘だ。特に、レナードとサーシャには知られてはならん。彼らのことだから、このことを知れば無理にでも協力を申し出たり、責任を感じたりするだろうからな。とにかく、今は攻め込むタイミングを得るために、情報収集を続けるように。話は以上……なにかあれば、また召集をかける」

『かしこまりました』


 私の解散の合図と共に、彼らは静かに部屋を後にした。元々静かだった部屋には、私の呼吸音だけが響いている。


 これで、少しは罪滅ぼしが出来るか……レナードとサーシャが生きるこの国の未来が、少しでも明るくなると良いのだが……。



 ****



「これは、一体何の騒ぎでしょうか?」

「わからない……」


 レナード様が元気になり、再び聖女として各地を回るようになってから一週間後、とある町にやってくると、なにやら騒ぎが起こっておりました。


「現国王は退陣しろー!」

「民を瘴気から守らない国と、民を不幸にする現聖女を許すなー!」

「貴族達だけ裕福な生活をするなんてありえねーだろー!!」


 なにやら大声で主張をしている方々は、国から派遣されている騎士が活動する、駐屯所に集まっているようですわ。


 どうしてこのような騒ぎが起こっているのでしょうか。とりあえず、近づいたら危険そうなので、ここから離れた方が良さそうですわね……。


「ん? おいあれ……もしかして、各地を回っている聖女様じゃないか!?」

「銀色の髪に、赤い目……間違いないわ! この町にも、聖女様が来てくださったのよ!」

「あの人が話せば、堅物な騎士団にも話が通じるかもしれないぞ!」

「ひっ……!?」

「見つかったか。サーシャ、目を瞑って!」


 突然のことに驚きながらも、言われた通りに目を瞑ると、暗闇の向こうで何かが眩く光っているのがわかりました。


「よし、今だ! サーシャ、舌をかまないように!」

「ひゃあ!?」


 驚きの声や悲鳴が起こる中、レナード様は私を軽々とお姫様抱っこをすると、そのまま全速力で裏路地へとやってきました。


「ふう、ここまでくれば大丈夫だろう。サーシャ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫ですわ……ありがとうございます」

「なに、当然のことをしたまでさ」

「……えっと、とりあえず、降ろしてくださいまし」


 身体的な疲労はありませんが、突然のお姫様だっこの影響で精神的に疲れましたわ……突然されるのは、相変わらず心臓に悪いです……。


「……もう少しだけ、こうしていたいんだけどな」

「そ、それは帰ってからでも出来るでしょう?」

「それもそうだね……よいしょっと。しかし、あの騒ぎは何だったんだ?」

「あの方々の言葉を聞いている限りでは、国への不満が溜まっている感じでしたね」

「まさか、研究所のことが民に知られた? さすがにそれはないか……」


 仮にそれが正しければ、あの程度の騒ぎでは済まないような気がしますわね。それほど国がしている悪事は、酷いものですもの。


「治療の前に、少し情報収集をした方が良さそうですね」

「そうだね。この辺りに、何か情報に詳しい人でもいると良いんだが……」

「ここでこうしていても仕方がありません。手当たり次第に聞いてみましょう」


 ここは幸いにも人通りが少ない場所なので、再び騒ぎになっても囲まれる心配が少なく、逃げるのは難しくない。そう考えた私は、手当たり次第に町の方に事情を聞いて回っていると、長いコートを着た男性から、思わぬ情報を聞けました。


「なんだ、あんたら知らないのか? この町を含めた色んな所で、騒ぎが起きてんだよ」

「どうしてですの?」

「知りたいのか? なら、それなりのものを出してもらわないとな」

「俺達を脅すつもりか?」

「滅相も無い。俺は情報を取り扱う仕事をしててね。必死に手に入れた情報を、対価も無しに渡したくないだけさ」


 このお方は、情報屋だったのですね。一瞬、私達の身なりを見て脅してきたのかと思いましたが、早とちりだったようです。


「……いくらだ?」

「そうだな。金貨二枚でいいぜ」

「わかった」

「まいどあり。へへっ、これでしばらくは豪勢な飯にありつけるぜ」


 情報屋なんて利用したことがないので、相場がどれくらいかは見当もつきませんが、これで今起こっていることの理由が知れるなら、価値のある取引だったでしょう。


「最近、各地で瘴気の被害が出てるだろ? いくつかの場所では全滅してるというのに、国がまともに対応しないのと、聖女が無能でちゃんと仕事をしていないせいで、野良の聖女が後始末をしてるって話だぜ」


 なるほど、それで国から派遣された騎士団がいる駐屯所に、不満を溜めた多くの民が集まって抗議をしていたのですね。


 それにしても、私のことも情報が出回っているだなんて……少し末恐ろしくなりますわ。


「このままいけば、遅かれ早かれ大騒動が起こるかもしれねえな」

「なるほど、貴重な情報、ありがとうございました。サーシャ、いこう」


 ある程度の情報をもらったので、去ろうとした瞬間、彼はニヤリと不敵な笑みを浮かべると……。


「大変だぁぁぁぁ!!!! ここに聖女がいるぞぉぉぉぉ!!!!」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、モチベーションに繋がりますので、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【★★★★★】から出来ますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ