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第五十六話 愛しあう二人

 レナード様の病気が治ったという事実は、瞬く間に屋敷中に広まりました。その結果、その日の夜に、敷地内にあるパーティー会場を使い、身内だけのパーティーが開かれました。


「レナード様、動いて大丈夫なのですか?」

「ああ、問題ないよ。サーシャのおかげで、つらかったのが嘘のように楽になったからね」


 念の為、あの後にもう一度レナード様の体を調べて、瘴気の残滓がすべて消えているどころか、弱っていた体が元気になっているのを確認してはいますが……それでもやっぱり心配ですの。


「レナード、サーシャ! ちゃんと食べているかね!?」

「義父上。顔が真っ赤ですよ。酒の飲み過ぎではございませんか?」

「なにを言う! レナードがついに元気になったというのに、飲まずにいられん! ほらそこの君、私に付き合いたまえ!」

「ふぁ~い、おろもひまふ~!」


 いつもと全然雰囲気が違うジェラール様は、近くで既に酔っぱらっていた使用人と共に、新しいお酒を飲みに行ってしまいました。


 おめでたい席とはいえ、少しは気を付けて飲んでほしいですわね。そうじゃないと、明日は二日酔いで苦しむことになってしまうかもしれません。


「レナード様、お止めにならなくてよかったのですか?」

「ああ。義父上があんなに酔っぱらったところは見たことがない。それくらい、今日の出来事が嬉しかったのだろう」


 私が大泣きしたのと同じようなものだと思うと、あまり強くは言えませんね。おめでたい日なのですし、ジェラール様の意思を尊重いたしましょう。


「義父上よりも、サーシャの方が大丈夫なのかい?」

「え、なにがでしょうか?」

「さっきから、凄まじい量のスイーツを食べてるだろう?」

「……あっ」


 宴の席には、コックたちが腕によりをかけて作ってくださった、数々の料理が並んでいます。

 その中には当然スイーツもあって……あまりにも絶品すぎて、いつの間にか私の前には、スイーツの皿の山が出来上がっていました。


「こ、これはその……は、はしたない姿をお見せしてしまいました……」

「ははっ、いいじゃないか! 好きなものを食べて嬉しそうに笑う君の横顔は、五臓六腑に染みわたる愛らしさだったよ!」

「恥ずかしいですわ……」


 なんだか、レナード様の褒め言葉も久しぶりなような気がしますわ。嬉しいような恥ずかしいような、何とも言えないむず痒さは、今も変わりません。


「ただ、一つわがままを言わせてもらえるなら……その愛らしくも美しい顔を、スイーツに嫉妬している愚かな俺に向けてほしいかな」

「レナード様……」


 レナード様の言葉にドキッとしながら顔を向けると、頬に優しく触れられ、そのままキスをされました。


 先程も、多くの方々の前でキスをされましたが、今回も周りのことは全然気にならず、唇に感じるほのかな暖かさと柔らかさで、身も心もトロトロになっていました。


 後で思い返したら、きっと恥ずかしくなってしまうでしょうが……今はこの時間が、少しでも長く続いてほしいと思いますわ。



 ****



「レナード様、大丈夫ですか?」

「すまない、あまり大丈夫ではないかもしれない」


 パーティーが終わった後、私はレナード様を介抱しながら、部屋へと戻ってきました。


 レナード様の調子が悪いのは、元々の体調不良が原因ではございません。実は……酔っぱらったジェラール様に付き合わされて、お酒を飲んでしまったのが原因ですの。


 どうやら、レナード様はお酒にあまり強くないらしく、少し飲んだだけで耳まで真っ赤にさせて、足元もおぼつかなくなってしまいました。


「せっかく君に治してもらったというのに、また面倒をかけてしまうとは、面目ない」

「お気になさらないでください。今日はもう休みましょうか」

「ああ、そうだね」

「では、私は別室で着替えてまいりますわ」


 私はレナード様をベッドに座らせてから、一緒に部屋に来た男性の使用人に任せると、いつも使っている更衣室で着替えを済ませて、部屋に戻ってきました。


「おかえり、サーシャ」

「待っててくださったのですか?」

「先に寝るなんてするわけないさ。ほら、サーシャもおいで」


 ベッドに横になっていたレナード様は、掛布団を持ち上げて私を迎え入れようとしていました。私はそれに応えるために、ランプの灯を小さくしてから、ベッドにもぐりこむと……そのままレナード様にキスされました。


 それも、いままでは唇が触れ合うキスばかりでしたのに、レナード様の暖かい舌が口の中に入ってきて……驚くほど情熱的なキスでした。


「ぷはっ……レナード様、急にどうされたのですか?」

「酒が入っているせいか、それとも体の調子が良くなったからなのか……今まで我慢できてたのが、我慢できなくなってしまってね。驚かせてしまってすまない」

「い、いえ……その、私も嬉しいので……全然大丈夫です、はい」

「サーシャ……」


 驚いたのは確かですが、愛してる人が私を求めていると思うと、悪い気はしません。むしろ、もっともっと愛してほしいと思ってしまいます。


「実を言うと、これからもずっとレナード様と一緒にいられるって思ったら……欲が出てしまったといいますか……レナード様は、結婚するまで何もしないと仰ってくれましたが……私はそれが寂しいといいますか……」

「…………」

「わ、私ってばなんてはしたないことを! レナード様が元気になって、舞い上がってしまって……今のは忘れてくだ――んっ!?」


 再びレナード様に唇を奪われ、私の口の中にレナード様の舌が入ってきました。部屋の中に艶めかしい音を響かせながら、私達は互いの愛を確かめ合いました。


「そんな可愛いことを言われたら、なおさら我慢なんて出来ないじゃないか」

「レナード様……」

「大丈夫、優しくするから」

「レナード様なら、乱暴にしないのはわかっておりますわ」

「ははっ、信頼してくれて光栄だよ。サーシャ……愛しているよ」

「私も、愛しておりますわ」


 もう何度目かわからないキスを交わしてから、私は一生忘れられないであろう夜を、レナード様と共に過ごしました――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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