第五十三話 たまには肩の力を抜いて
「落ち着いたか?」
「…………」
泣きじゃくる私を見かねて、頭を撫でて慰めてくれた彼女の問いに、コクンっと小さく頷きました。
「申し訳ございません、子供みたいに泣いてしまって……恥ずかしい所をお見せしてしまいました」
「全然恥ずかしくないから、心配いらない。話の続きは、もう少し休んでからにしよう」
「いえ。私はもう大丈夫ですので」
先程まで泣き続けて、今だって鼻がずびずびいっていて、何とも説得力に欠けてはおりますが、それでも私の過去についてはちゃんと知っておきたいと思いました。
ですが、聖女様はそれを許してくれず……私のことを抱きしめると、頭を優しく撫でてくれました。
「あんたはまだ子供なんだから、色々と背負う必要はねーんだよ」
「聖女様……」
「あんたはあたしの遠い遠い血縁者なんだから、甘えたっていいんだよ。ほれほれ」
聖女様は、わざとらしくご自身の豊満な胸に、私を押し付けるようにしてきました。
ちょっと苦しかったですけど、暖かくて不思議と安心できました。もしかしたら、聖女様の抱擁は、お母様と似ていらっしゃるのかもしれませんね。
「本当に、大変だったのに頑張ったな。あんたの先祖として、鼻が高いぜ。ここを出れるなら、あんたのことを自慢しながら走り回りたいもんだ」
「そ、そういうのはレナード様だけでお腹がいっぱいなので……」
「ああ、そういやあいつもいろいろと凄い奴だったよな! それだけ愛されてるの良いことだし、貰った愛を返すように奮闘するサーシャも素晴らしいな!」
え、えへっ……そんなに褒められてしまうと、少々照れくさいですわ……えへへへ……。
「よし、少し元気になったところで、続きと行くか。あの後、サーシャは回収されて、魔法研究所に連れていかれた。実験を開始すると、手に入れた実験体の中で、サーシャとルナが聖女として優秀な数値を出していた」
「もうその時から、ルナはいたのですか?」
「そうだな。サーシャとルナは、同じタイミングで施設に連れて来られたからな」
こんなところから一緒だなんて、ルナとは変な運命の繋がりがあるのかもしれませんわね。
「研究員の中には、悪魔の子であるサーシャで大丈夫かという疑問があった。しかし、聖女の才能を持った人間を手放すのは惜しいし、当時の聖女は既に高齢ということもあり、国は二人を即戦力の次代の最有力の聖女候補として実験をした」
彼女は自分用の新しいコーヒーを淹れ、口を潤してから続きを話し始めました。
「無事に実験は成功し、二人は聖女の魔力を手に入れた。この時に、サーシャは元々あたしの魔力があるのに、姉貴の黒の魔力を手に入れてしまい……最初で最後の、二つの魔力を所持する聖女になった」
「それが、私が特別だという理由なのですね」
「そうだ。普通の聖女なら、赤と黒のどちらかしか無いからな。無理やり両方あるようにしたら、普通なら耐えられないよ。ああ、ルナは元々姉貴の魔力の血統だから、問題は無かったな」
確かにルナは、両目とも黒ですから、純粋な黒の聖女様の力を受け継いだ人間なのでしょうね。
「その後、手を貸している貴族の一つである、メルヴェイ家の家長が引き取ることを決めた。ちなみに引き取った理由は、自分の家から凄い聖女を輩出したという、箔をつけるためだ」
……一応私のお義父様の話ではありますが……なんというか、醜いといいますか、欲深といいますか……なんだかとても情けなくなってきました。
「実験が終わった後、裏で結託している教会に預けられ、聖女の勉強をしながら、二人はすくすくと育ったんだ」
「やはり教会は、悪いことをしていたのですか?」
「そうだ。この国の教会とは、表向きでは姉貴を崇拝し、慈善活動をする団体だが、裏では国と結託し、実験に成功した聖女を引き取って育てる仕事もしているんだ」
「そんな……」
教会が何かしらの悪い形で、国と繋がっていたのは、レナード様のお話で薄々分かっていたことでしたが、まさかそんな悪事に手を貸していただなんて……!
「驚くこともないんじゃないか? 教会では、ルナによくいじめられていたのに、見逃されていたんだろ?」
「よくご存じですね……」
「普通、いい大人なら弱い者いじめを止めるだろ。なのに、それを見てほくそ笑んだり、止めなかったり……相手が何であろうと、弱きを守ることも出来ない連中なんて、話にならないぜ」
聖女様は、教会のことが嫌いなのでしょうか? なんだかあたりが強い気がするのは、私の気のせいではないでしょう。
「話を戻そう。教会で過ごす中で、レナードとかけがえのない日々を過ごした後、驚くほど早い段階で、聖女として働くことができるくらいの力を手に入れたサーシャは、ルナよりも早く、メルヴェイ家に向かうこととなった。そこで、国はサーシャにとある処置を施した」
「それは一体……」
「その処置とは……記憶の削除だ」
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