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第五十二話 母の最期、母の愛情

「な、なんですかこれは……!? どうして村が燃えているのですか!? どうして村人が襲われているのですか!?」


 目の前で起こっている惨事は過去の記録……今の私には何も出来ないのはわかっていますが、体が勝手に倒れている村人の治療をしていました。


「そんなことをしても、意味が無いのはわかってるだろ?」

「わかっておりますが……」


 何をしても、目の前で倒れている村人の様子は変わらない。それを目に焼き付けた私は、力なく立ち上がりました。


「一体、なにがあったのですか……? それに、彼らは一体……?」

「彼らはこの国の騎士だ。サーシャは知らないだろうが、国は定期的にそれらしい理由をつけて、秘密裏に民を攫ったり、村や町を襲っているんだ」

「襲っている!? どうしてそんなことを!?」

「王立魔法研究所。聞いたことがあるだろう?」

「え、ええ……最近、レナード様からお聞きしましたわ」


 レナード様の過去のお話の中に、出てきた施設の名前でしたわよね? 確か、歴史の中で消えてしまった多くの魔法を研究したり、魔道具の研究をするための施設だったはず。


「実は、この国の王家と一部の上流貴族は、人工的に優秀な魔法使いにする研究をしていてね。それは、まるで人間を実験動物のようにする極悪なものでさ……罪もない子供を無理やり魔法使いにしたり、使えそうな大人は使い捨ての実験動物にしている。抵抗する者は、こうやって皆殺しにされるんだ」


 な、なんて酷いことを……私の故郷も、一緒に生活していた村の方々も、そんな理由のために滅ぼされたというんですの!?


「それでは、レナード様の故郷にあった施設も!?」

「そういうことだ。あそこはそれに加えて、瘴気を利用する計画もあったみたいだな。まあ見事に失敗して、自爆しちまったけどな」

『うわぁぁぁぁん! ママ、怖いよぉぉぉぉ!』

『大丈夫よ、リュミエール! あなたのことは、ママが必ず守ってあげるからね!』


 彼女と話しているうちに場面が代わり、小舟が大海原を当ても無く彷徨っている場面になりました。その小舟には、幼い私とお母様が乗っていました。


 きっと、惨劇が繰り広げられる村から逃げだしたのでしょう。泣きじゃくる幼い私を、お母様が必死になだめながら、その細い腕で必死にオールを動かしております。


『ぐすっ……あれ? あそこに大きなお舟がいるよ、ママ! 私達を助けに来てくれたのかも!』

『……あれは……』

『これで、もう逃げなくてもいいんだね! って……どうしてお舟から逃げようとしてるの?』

『静かに! 良い子だから、大人しくして! 諦めてたまるもんですか! 絶対にこの子だけでも、生き残らせて――』


 幼い私には、自分達の元に来ている船が、敵の船だとは理解できなかったのでしょう。船から逃げようとするお母様の行動が理解できなくて、きょとんした表情を浮かべておりますわ。


 この後に起こることは、なんとなく想像つきます。正直、目を背けたくなる過去ですが……お母様が必死に私を守ってくれた愛に報いるためにも、目を背けてはいけないと思いました。


 そう決意した瞬間、小舟の船頭に小さなつむじ風のようなものが吹き……その中心から、ローブに身を包んだ人間が現れました。


『逃がさん。村の子供は全て我々のもの……さあ、その娘を渡してもらおう。さもなければ、残酷な光景を娘に見せることになる』

『冗談じゃないわ! 誰がリュミエールを、あんたたちのような連中に渡すもんですか!!』

『そうか。貴様に恨みはないが、我が任務を邪魔立てする者は、排除する……シエロ国に栄光あれ』


 魔法使いが片手をあげると、その先に魔力が炎となってどんどんと集まっていき、巨大な火球となっていく。


 こんなものを放たれたら、逃げ場のない私達は確実に灰になってしまうでしょう。


『ママ……怖いよぉ……』

『ごめんね、あなたを守ってあげられなくて……一緒にいてあげられなくて……ごめんね……あなたは生きて、ママの分まで幸せになって』

『えっ……?』


 お母様は最後にそう口にすると、私を海の中へと放り投げた。それとほぼ同時に、お母様に向かって火球が放たれて……そこで辺りが突然、さっきまでの自然豊かな場所に戻っていた。


「すまない、ここから先は君に見せるものじゃないから、強制的に終わらせてもらったよ」

「……お気遣いいただき、ありがとう……ござい、ます……」


 あの先は、きっと私だけが回収されて、お母様は……最後まで私のことを想って、守ってくれて……どうして、あなたのようなお方が犠牲にならなければならなかったのですか……!


「最後の瞬間まで、彼女は母として……本当に素晴らしい人だったよ」

「……お母様は、幸せだったのでしょうか?」

「ああ。あたしは彼女のことを見てきたからわかる。彼女は毎日とても幸せそうだった。そして、今の記録では打ち切ってしまったけど……亡くなる寸前に言ってたよ。リュミエールのママになれて幸せだった……ってね」

「っ……!! あ、あぁぁ……あぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 いくら頑張っても、私はお母様のことを思い出せない。でも、心がお母様のことを感覚で覚えていて、そして……お母様を亡くしたことへの悲しみ、最後まで愛してくれたことへの感謝……色々な気持ちが混ざり合い、ただ泣きじゃくることしか出来なかった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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