第四十三話 牙をむく病
「なっ……!?」
私達が驚いている間に、村の方々がどんどんと集まっていき、私達を取り囲んでしまいました。
「聖女様を襲うだって!? なんて奴だ!」
「あの女、赤い目のバケモノらしいぞ!」
「オラ達の恩人を守れ~! バケモノはぶっ殺せ~!」
「くっ……一般人に手を出すわけには……サーシャ、ここは逃げよう!」
「でもっ!」
ここで逃げたら、もうこの方達に私の治療を受けてもらうことは叶わないでしょう。そうなったら、残滓を取り除けませんわ!
「うらぁぁぁ!!」
「死ねバケモノー!」
「きゃー!!」
私に向かって、斧やクワを振りかぶり、そのまま一直線に降ろしてきました。
こんなのが当たれば、大怪我どころか、命を失ってもおかしくありません。そう思ったら、私は思わず目を瞑ってしまいました。
その瞬間、甲高い金属音と共に、ガラガラ! と、金属が地面を転がる音が聞こえてきました。
「……レナード様?」
ゆっくり目を開けると、そこでは私を庇うように立つレナード様の姿がありました。その手には、以前アレクシア様のパーティーで襲われた時にも持っていた、あの剣が握られていました。
「怯むなあ! 数で押し切れー! 田舎もんの底力、みせてやんべー!」
今度は一斉に襲い掛かってくるのに対して、レナード様が剣を自分の前で真横にするように構えると、剣から光の刃が現れ、村の人達の武器を全て叩き落としてしまいました。
「凄い……!」
「ルナ様、なにごとですか!?」
「あの兵士達は……?」
「聖女を守る特殊部隊ですわ! 近くでルナを守るために見張っていたのでしょう!」
「それは面倒だな。出来ればこれ以上は大事にしたくない……さっさと逃げよう!」
村の入口に、ここに来た時の馬車が止まっているはずです。それに乗れば、ここから逃げることは可能でしょう!
「お、追ってきてますよ!」
「よほど逃がしたくないようだね。このままじゃ、馬車につく前に追いつかれる……ならば!」
レナード様は、私のことを軽々とお姫様抱っこをすると、全速力で走りだした。
「れ、レナード様!? 私を抱えながら走って大丈夫なんですか!?」
「もんだい……ない! ほら、馬車が見えた!」
「れ、レナード様? 何か村が騒がしいようですが、なにかあったのですか?」
「事情は後だ。早く出してくれ!」
「か、かしこまりました!」
いつも優しいレナード様が取り乱しているのだから、よほどのことが起きているとわかってくれたようで、御者は私達を乗せると、急いで馬車を出してくださいました。
「よかった、これで安心ですわね……レナード様」
「うっ……はぁ……はぁ……」
「レナード様……?」
息がとても荒いですわね……私を抱えて走ったんですもの。疲れるのは当然ではあるのですが……疲れ方が少し変なような……?
「ぐふっ……ごほっ! ごほっごほっ!!」
「レナード様!?」
レナード様は、突然苦しそうに咳き込みました。それだけにとどまらず、苦しそうに丸くなった状態で痙攣し、咳をするたびに吐血していました。
明らかに疲労だけではこんなことにはなるはずがありません。レナード様は、何かのご病気なの……!?
「さ、さすがにこの体で無理をし過ぎたか……!」
「レナード様、しっかりしてください! これから治療しますわ!」
「いや、いい……」
「どうしてですか!」
「これはただの風邪だからさ」
「風邪で吐血なんてするはずがありません! いいから診せてください!」
ここでレナード様に嫌われたとしても、レナード様の不調の原因がわかり、治療できればいい。そう思って魔法で調べたら……想定外のものが出てきた。
「そんな、嘘でしょ……!?」
これは瘴気の残滓……それも、こんなに大きくて、体中に広がっているのは、見たことがない……!
「……はい……ただいまルナが治療をしている際に、サーシャがやってきました。サーシャは追い出せたのですが、村人が完全にサーシャに敵対を……はい……おそらく、村人に残滓は残っているでしょう……はい……このままでは、村人は瘴気の残滓で……やむを得ませんね。反乱の芽を摘むために、村人の抹殺、および村の破壊作戦を実行に移します」
****
急いで屋敷に帰ってきた私は、レナード様をベッドに寝かせて、しっかりと体の隅々まで調べさせてもらいました。
その結果、レナード様の体は、残滓でボロボロになっていました。
残滓の規模から考えて、レナード様は何年もの間、残滓が体の中にあった状態で生活をしていたのでしょう。その間に、残滓は大きくなりながら、体の奥深くに入るようになり、宿主の魔力を吸収したり、体のあちこちを破壊したのでしょう。
こんな酷い状態は、初めてみました。こんな状態で、私と一緒に行動をしていたのですか……!?
「……終わりましたよ」
「ああ、ありがとう」
「…………」
「ははっ……薬である程度抑えられるから、問題無いと思ってたんだけどね……まさかこんな形でバレるとは。何とも間抜けな話だ」
ベッドに横になるレナード様は、明らかに無理して笑っているようにしか見えませんでした。
「おかしい……いつもなら、瘴気の残滓があれば、気づくはずなのに……」
「おそらくだけど、いつも服用している、瘴気の症状を抑える薬の影響だと思う。症状を抑えると共に、サーシャの魔力で感知が出来なくなったんだ」
「そんな……どうして……言ってくださらなかったのですか?」
「君に悲しんでほしくなかったし、負担になりたくなかった。刻一刻と近づく俺の死に怯えさせるよりも、一日でも多く、君に幸せな日々を送ってほしかったんだ」
「そんなの……」
間違っている。そう言いたかったのですが、レナード様がどんな気持ちでその決断をしたのかと思うと、そこから先は言えませんでした。
「いつもあなたは、私のことを第一に考えてくれます。ですが、自分の体も大切にしてくださいと、あれほど……」
「……ああ、そうだね。でも、もうそんな心配をする必要も無い」
「えっ……?」
「俺の体は、君でも治せないんだ。君ほどの聖女なら、わかるだろう?」
「…………」
レナード様の仰っていることは、悔しいですが間違っておりません。今のレナード様の体には、残滓が体の奥底に入り込み、その根を体中に伸ばしている状態です。この状態で残滓を消せば、残滓が消滅する際に、体の器官を巻き込み……レナード様は……。
「……いえ。私が、治します」
「君ならそう言うと思ってたけど、今回ばかりは無理なんだ。多くの人に診てもらったが、全員がもう治らないと言っていた」
「治る、治らないではございません! 必ず治します! だって、私は聖女で……あなたの未来の未来の妻ですから!!」
「サーシャ……」
「絶対に諦めませんわ! ご安心ください、レナード様! 私が絶対に治してみせます!」
私は、聖女として一人でも多くの人を助けると、レナード様と誓いました。それはレナード様だって例外ではございません。そして、レナード様と永遠の愛だって誓ったのです。
だから、今回も絶対に諦めません。誰がなんと言おうと、絶対にレナード様を助けてみせますわ!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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