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第三十六話 体は大切に!

「れ、レナード様!?」

「なにやってんだあんた!? 正気か!?」


 あまりにも突拍子もないレナード様の行動に、私や彼どころか、通りすがりの方々も驚いております。中には、悲鳴を上げているお方もいらっしゃるくらいです。


 急に町中で自分の腕を刺している光景を見たら、誰だって驚くでしょう。当事者の私でさえ、驚きで体が震えておりますもの。


「レナード様、大丈夫ですか!?」

「うぐっ……サーシャ、君の魔法を彼に見せてあげるといい」

「私の力って……まさか、私に魔法を使わせるために?」

「ああ。今の俺に出来るのは、これくらいだからね」


 とんでもない激痛に襲われているはずなのに、レナード様は私に心配をかけないように、優しく微笑みました。


 本当に、レナード様って人は……! いいえ、話は後にしましょう。まずは傷の手当てをしないと、レナード様が体を張ってくださった意味がありません!


「…………」


 全神経を集中させて、聖女の魔法を発動する。すると、レナード様の怪我した腕が淡い光に包まれていくと同時に、みるみると傷が塞がっていきました。


「ふう……終わりましたわ」

「おお、さっきまでの痛みがまるで嘘のようだ! サーシャに治療してもらったのは初めてだが、改めてその素晴らしさがわかったよ!」


 レナード様は、先程まで怪我していた腕を、無邪気にブンブンと振り回しました。


 まるで、怪我なんて無かったかのようですが、腕から流れ出た赤い液体が、先程の怪我が本当だったということの証明になっております。


「どうです? 彼女の聖女の力は本物です。だから、あなたの治療もさせていただけないでしょうか?」

「……はあ、わかったよ。あんたらを信じることにする」

「あ、ありがとうございます! すぐに終わらせますので!」


 私は彼に頭を下げてから、再び聖女の魔法を使って瘴気の残滓を取り除きにかかります。


 瘴気によって体調を崩したお方よりも、残滓を取り出す方がとても楽ですわ。おかげで、ほとんど魔力と体力を使わずに済みました。


「終わりました。どうでしょう、まだ咳は出ますか?」

「んー……あれ、さっきまでは胸の奥が少し苦しくて咳が出ていたのに、今は全然ない!」

「それはよかったですわ」

「治してくれてありがとう。それと、さっきは信じてなくて申し訳なかった。お詫びに、町の連中に新しい聖女が来て、不調な人を治してくれるって伝えてくるよ」

「おお、それはありがたい。では、俺達はその間に少し休むとしよう」

「そうですね」


 元気になった彼を見送った私は、疲れているのにも関わらず、レナード様の手を力強く引っ張って、人通りが少ない場所に連れ込みました。


「急にこんな所に連れ込んで、どうかしたのかい?」

「静かなところでお話がしたくて。レナード様、どうしてあのようなことをされたのですか?」

「ああでもしないと、信用してもらえなかったからね。なに、あの程度の痛み、君が信用されないことや、願いを成就できないことに比べれば、足元にも及ばないさ」


 私に心配をかけないように、レナード様がははっと笑ってみせてから間もなく、バシンッと乾いた音が辺りに聞こえてきた。


「さ、サーシャ?」

「なにを仰っておられるのですか!! もっと自分の体を大切にしてと、お伝えしましたよね!?」

「サーシャ……」


 私は思い切りレナード様の頬を叩くと、目じりに沢山の涙を溜め込みながら、レナード様に強く抱きつきました。


 ……私のために、色々としてくれるのは、とても嬉しいです。ですが、自分のことを蔑ろにするのは許容できません。レナード様には、私を大切にするだけではなく、ご自身の体も大切にしてほしいのです。


「ごめん、俺が間違ってたよ。だからもう泣かないでおくれ」

「もうこんなことをしないって、約束できますか?」

「ああ、約束する」

「……わかりました。叩いてしまってごめんなさい……」

「俺こそ、君を傷つけるようなことをしてしまって、すまなかった」

「レナード様……」


 仲直りの抱擁、そしてキスをしてから大通りに戻ると、先程の彼が走って私達の元へとやってきました。


「近くにいて良かった。今、何人か治療をしてもらったのに体調が戻らない連中を連れてきたんだ!」

「本当にこの人に診てもらうの……? 悪魔の子に見られるとか、恐怖でしかないんだけど……」

「バッカヤロウ! 俺はこの人に治してもらったんだぜ!」

「はい、お任せくださいませ!」


 私は、彼が連れて来てくれた患者を一人一人調べると、やはりと言うべきか、瘴気の残滓が残っておりました。


 取り除くのは簡単で、患者にも負担がかからないのが、本当に助かりますわね。


「終わりました。では次のお方~!」


 ――こうして次々と何かしらの不調を抱えている方々を診ていったら、いつの間にか夕方になっておりました。


「これで全員でしょうか? さすがに疲れましたわ……」

「本当にお疲れ様、サーシャ。ほとんど役に立てなくて済まなかった」

「なにを仰ってるんですか。私のごはんの準備をしてくれたり、集まる患者が混乱しないように誘導してくださったではありませんか」


 レナード様からしたら、その程度のことでって思われるかもしれませんが、私にとってはとてもありがたく、なによりも嬉しいのです。


「それならよかった。ところで、どうしてこのような状況になったのだろうか?」

「あくまで予想ですが、ルナはここに来て、確かに聖女の仕事をしたのでしょう。ただ、仕事が適当だったのでしょう。だから瘴気を完全に消しきれず、残滓となって残った……聖女として論外ですわ」

「なるほどな。なら、俺達はこれから困っている人を助けつつ、ルナの尻拭いをしないといけないということか。あまり良い気分ではないね」


 気持ちは痛いほどわかりますが、これも聖女として生まれた者の使命、そしてレナード様と誓ったことですからね。尻拭いだとしても、しっかりやりませんと。


「苦しんでいる方々を救えるのなら、これくらい当然のことですわ」

「サーシャ……ああ、それでこそ俺が世界で一番愛する女性だ! 俺も、世界の果てまで君と共に行き、君を守ろう!」

「ちょっ、レナード様! 嬉しいですけど、周りの方々に見られてますから!」

「何の問題も無い! ただ仲良くしているだけなのだから! むしろ、俺達の仲の良さをもっと見せつけようじゃないか!」

「きゃあぁぁぁ!! もう、レナード様のバカバカバカー!!」


 とても疲れている私に、レナード様を振りほどく力なんてあるはずもなく……迎えの馬車に乗りこむまで、ずっとお姫様抱っこをされましたわ。


 うぅ、恥ずかしすぎて死んでしまいますわ……もうお嫁にいけない……あ、もう婚約してましたわね……疲れすぎて、頭が働いておりませんわ……ちょっとだけ、休ませてもらいましょう……。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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