第三十五話 不穏な動き
「レナード様、今日はこの辺りに行ってみようと思うんです」
アレクシア様のパーティーから戻って来てから二日後、私は机に大きな地図を広げて、とある場所を指差しました。
その場所とは、ここからさほど遠くない町なのだけど……最近、小規模な瘴気が発生してしまい、被害が出ているという情報があるそうです。
そんなの、聖女として見過ごすわけにはまいりませんわ。
「ここも、瘴気の被害が出ているみたいで」
「よし、それじゃあ今回はそこに行こうか! と言いたいところだが……もう体調は大丈夫なのか?」
「はい、問題はございません。疲れなど、ぐっすり寝ればたいてい何とかなりますわ!」
魔法に使う体力に関しては全く自信がございませんが、これは寝ればそれなりになんとかなるので、結構助かってたりします。
「やはり心配だな……そうだ!」
「お姫様抱っこはしません!」
「読まれた!? なら、お――」
「おんぶもしません!」
「なぜだぁぁぁぁぁぁ!!??」
ことごとく読まれてしまったレナード様は、床の上に突っ伏して、目の辺りに涙で水たまりを作っていました。
「お、俺はただ……少しでも疲れないようにするために……サーシャのことを想って……」
「そのお気持ち、大変痛み入ります。して、その本当の目的は?」
「合法的にサーシャに触れる! 熱を感じれる! 世界一綺麗な顔が見放題! 暖かい吐息を感じられる! あとは……」
「も、もういいですわ。とりあえず、なんというか……愛と欲が混ざっているのはわかりました」
こんな問答をしていたら、日が暮れてしまいますわ。早く、目的地の町に向かって、瘴気の問題を解決しなければ。
「サーシャ」
「はい?」
「今日も俺が守るから、俺から離れるなよ」
「~~~~っ!! ひゃい!」
今のはずるい! さっきまでテンション高かったり、ズーンってなってたレナード様が、突然カッコイイ声と顔で、私を守るって……もう少しで私のメンタルが、致命傷を負っていたかもしれませんわ!
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無事に目的地へとたどり着いた私達の前に広がっていた光景は、想定外の物だった。
瘴気に侵されてるなら、対策無しで外に出るのは危険……のはずのに、子供や大人が、普通に町の外に出ています。
それに、この一帯からは瘴気の気配が全然感じません。良いことではございますが、少々驚きですわ。
「あの、少々お聞きしたいのですが」
「はい? って、赤い目!? ひぃぃぃぃ」
「お、お話だけでも! その……この辺りに瘴気があるって聞いたんですけど!」
「瘴気は、国の聖女さんが来てくれて、治療とか浄化とか、全部やってくれましたよ! もういいですか!?」
「あ、はい……」
逃げるように去っていく女性を見送りながら、私は先程の言葉について考えていました。
国の聖女……おそらく、ルナのことですよね? どうしてルナが、こんな裕福じゃない町を助けたのでしょう?
私のように、聖女の使命のために自分から動いているのかしら? いや、さすがにそれは無いでしょう。国が聖女を自由に動かせるわけがありませんもの。
もしかして、国も瘴気の危なさを再認識して、片っ端から治療をしているとか?
仮にそうだとしたら、何かしらの形で莫大な報酬を要求していそうですが……村の方々を見ている限りでは、そのような感じはしません。
「妙だね。どうして国が自分達の利益にならないようなことをしているのだろうか? って……本来ならこれが上に立つ者として、当たり前のことのはずなんだけどね」
「あはは……今までがおかしかったですからね……とりあえず、町を周って情報を集めて――」
「ごほ、ごほ……」
「大丈夫ですか?」
町中を周ろうとすると、苦しそうに咳き込んでいる男性を見つけました。あのお方から、何か嫌なものが残っているのが感じられます。
根拠? 私の聖女の魔力が、彼の体に何かあると叫んでいるからですわ。
「ええ……うわぁ、悪魔の子!?」
「は、はい。ですが私は聖女でもあります! 体調がすぐれないのなら、私に診させてください」
「悪魔の子に? なんでだよ、俺はこの前、国の聖女の治療を受けたから平気だって!」
「それでもです。さあ、そこに座って!」
やや強引だったのを反省しつつ、私は彼の胸に手のひらを当てて、意識を集中する。すると、彼の体の中に、小さな魔力の塊のようなものが見えた。
この嫌な魔力……やはり間違いありませんわね。
「何か見つけたのかい?」
「体の中に、瘴気の残滓がありますね。これが残ってると、宿主の人間から魔力を吸い取って徐々に大きくなっていき、瘴気に侵された時と同じになります。最悪の場合は……」
「は、はぁ!? 俺の病気は治ったんじゃなかったのか!? もしかして、新手の詐欺か!?」
「ご安心ください! まだ初期段階なので、なんとかなります! それに、報酬は一切いりませんから!」
「嘘つけ! あ、わかったぞ! こっそり悪魔の呪いを俺にかけるつもりだな!」
彼は、随分と私のことを警戒しているようですわね……本当に、こんな目が無ければとつくづく思います。
ですが、落ち込んでいる場合ではありません。なんとか説得して治療をしなければ、彼は本当に危ない状態になってしまいます。
その時に、私やルナが近くにいれば対処が出来ますが、そんな保証はどこにもありませんからね。
「お願いします、私を信じてください! 私は聖女として、あなたのような方々を助けたいだけです!」
「……なら、聖女として証拠を見せてくれ。そうじゃなきゃ、あんたを信用できない」
「証拠、ですか……」
そう仰られても、どうやってそれを示せばいいかわからない。力を使うのが一番手っ取り早いけど、このお方に使うわけにもいかないですし……。
「なんだ、それなら簡単じゃないか」
「レナード様?」
私が頭を悩ませているのに、こんなに早く解決方法が思い浮かぶだなんて、さすがはレナード様。
そんな呑気なことを考えている間に、レナード様は魔法で剣を出し、それを自分の腕に深々と突き刺した――
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