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第三十一話 悪者成敗!

「よし、これで終わり……!」


 なんとか治療を終えた私は、今まで行ってきた治療の中でも、群を抜いて疲れてしまっておりました。

 解毒だけならまだしも、魔力を大量に使って、体に適応する補助魔法を使ったんですもの。もう魔力も体力も残っておりません。


「レナード様、ジェラール様、終わりました……」

「おつかれさま、サーシャ。大丈夫かい?」

「な、なんとか……そちらは……」

「問題無いよ。彼らも実力差がわかっているのか、積極的に来ないのが幸いしてるね」


 目の前で戦っているのを、拝見したことはございませんが、レナード様は魔法の才があると聞いたことがございますし、ジェラール様は、アレクシア様という偉大な魔法使いの弟子なのだから、負ける想像ができませんわね。


「ど……どこかに、グランダール家のお方はいらっしゃいませんか? アレクシア様は治療しましたので、ベッドで休ませてください」

「かしこまりました! お話は後程!」


 先程まで、アレクシア様の車いすを押していた使用人が、急いでアレクシア様を別の部屋へと運んでいきました。


 これで一安心と思ったら、なんだか眠くなってきてしまいましたわね……。


「見ましたか、あのぐったりしたご様子! やはり貴様らのせいで、アレクシア様の尊い命が犠牲となったのだ! あんなに高名な魔法使いだったのに……これは世界の大損出だ! どう責任を取る!?」


 まだ騒いでおられるのですか……さっきからこのお方の仰っていることには、全く根拠が伴いませんし、さすがに面倒になってきました。

 そもそも、私は治したのであって、殺しなんて死んでもやりませんわ!


「なにがしたいのかは存じませんが、あなたのしていることは、関節的に人殺しをしているのですよ!」

「なんだと!? 私に人殺しの罪を擦り付けようとしてるのか!? 誰か~助けて~!」

「ちっ……!」


 三流の道化を演じる彼に苛立ったのか、レナード様は魔法で剣を作ると、そのまま剣を振りかぶって――


「まま、待ってください!」

「止めるな! 俺のサーシャを散々馬鹿にしやがって……絶対許さない!」


 怒りたい気持ちはわかりますが……こんな馬鹿な男のために、レナード様が罪を犯す必要はございません!


「これで怒ったら思うつぼです! 冷静に! こんな奴を斬っても、こちらが不利になるだけです!」

「そう、私に罪はない。だから斬れない! そんなこともわからないなんて、なんと愚かなことか! さて、私は失礼するよ。殺人の証人となるために、色々とすることがあるのでね!」

「待て、あなたには一つ見せたいものがある」


 黙って聞いていたジェラール様は、魔法で出した杖の先を、地面に向かってカンっと振り下ろしました。すると、辺りの景色は、ほんの少しだけ変化しました。


「あれ、これ……つい先程の光景ですわ!」

「これは、義父上の過去投影魔法だ。魔法の対象者が見たものや過去が、周りに投影される」


 相手の過去を投影できるなんて、そんな魔法が存在しているのも、それを使えるというのも、信じられません。魔法のスケールが私とは全然違いますわ。


「これって……」


 投影魔法で映されたものは、衝撃的なものでした。なんと、彼の隣にいた従者が、周りに気づかれないように、アレクシア様のお水に粉薬のようなものを入れておりましたの。


 そして、その光景を……貴族の彼が不敵な笑みを浮かべて見つめておられました。


「な、なんだこれは!? こんなものをでっちあげて、私を悪人に仕立て上げるつもりか!?」

「やれやれ、弱い犬ほどよく吠えるとはよく言ったものだ。レナード、あとは君に任せる」

「義父上……はい」


 親子の間で、どんな思惑があるのかわからない私は、邪魔をしないようにただジッと見守っていると、レナード様が先程作った魔法の剣を魔力の粒子に戻し、貴族の彼の周りにフヨフヨと浮かび始めました。


「これで私を攻撃するつもりか!?」

「そんなつもりはないので、ご安心を。なるほど……あなたは嘘をついていますね」

「う、嘘だって!?」

「俺の魔法で作ったこの魔力球ですが、次々と色が白から黒に変わっているでしょう? これは、とある条件下で色が変わる仕組みになっています」

「条件……もしかして?」

「さすが俺の愛しのサーシャ、感づいたようだね。その魔法は、嘘をついているか見破る魔法だ」


 嘘を見破る……この状況の嘘というのは、貴族の彼が悪人じゃないって証言のことですよね? それが嘘ってことは……やはりこのお方が犯人!?


「ふ、ふふ、ふざけるな! この者達は、私を陥れようとしている! 私が何もしていないというのは、ここにいる会場の皆様がわかってくださっているのだ!」


 突然話を振られた会場の方々は、私を見ながらヒソヒソと何かを話しておりました。


 こういう時に、私の悪魔の血はあまりにも不利に働いてしまいます。これがあるだけで、私が悪くないのに悪者にされてしまうんですもの。


 でも、黙ってそれを受け入れるつもりはございません。まだ、この状況を打破する鍵がありますわ。


「…………」

「どうした、黙ったままこちらに来て! ようやく罪を認める気になったか!」


 貴族の彼の話など全て無視して、隣に立っていた従者の前に立ち、その肩にそっと手を置きました。


「ひっ!」

「私にはわかりますわ。私もずっとつらい境遇にいた経験がありますの。その時の目と、似ておりますの。大丈夫、つらかったでしょう? あなたは悪くありませんから……だから、素直に話してくださいませんか?」

「う……うぅ……わたしぃ……」


 従者は泣き崩れながら、事情を説明してくださいました。


「わたし、あの人に脅されて……言われたことをやらないと、わたしの家族を殺すと……だから今回の暗殺も、断れなくて……本当に申し訳ございません!!」

「……決まりだな。義父上! 彼は!」

「外に逃げたようだ」

「外に? それは愚かなことですね」

「どういうことですの?」


 私が聞いた刹那、会場に国を守る騎士団たちが入ってきて、貴族の彼を取り囲みました。

 同時に、従者の彼女も実行犯として先に連れて行かれたのですが……きっと彼女は許されると信じております。


「くそっ! 離せ! 俺を誰だと思ってるんだ!? その気になれば、全員を一瞬で灰に……!」

「その前に、私の魔法で、あなたの体をバラバラにしますわよ」

「あ、悪魔の子……! ひいぃぃぃぃい! いやだ、もうこんな所にいたくない! 私の知っていることを全て話しますから! だから、この悪魔から逃がしてくださいぃぃぃぃ!!」


 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした彼は、そのまま騎士団に連れていかれました。


「これで一件落着だな」

「さすがの手腕ですね、義父上」

「君こそ、私の思惑を素早く読み取った。お手柄だったぞ」

「思惑とは?」

「彼は嘘をついて、我々を罪人にしようとした。だから、嘘に嘘を重ねて反撃をしたのだ」


 嘘に嘘って……え、どういうことですの? もしかして、私だけがわかってない?


「まず義父上の投影魔法、あれは本当だよ。でもそれだけで認めるわけがない。だから俺が芝居を打った」

「芝居……あの魔法球!」

「大正解! 実はあの魔法には、嘘を無抜く力なんて無いよ」

「え、えぇ!?」

「正確に言うと、あれは好きな色に変えられるシャボン玉を作る魔法だね」


 な、内容が凄く可愛らしいもの過ぎて、思わず笑ってしまいそうになってしまいました。でも、そんな魔法が起死回生の一手になるのですから、物は使いようですわね。


「サーシャ、君も嘘をうまく使っていたね」

「あ、やっぱりわかりますよね。私の魔法では、バラバラなんて出来ないですわ」

「彼は俺達の全ての嘘に引っ掛かり、捕まったと……なんとも滑稽な話だ」


 なんか、レナード様の仰る通り、滑稽というか、情けないというか……あんな人間にはならないように、強く思いました。


「さあ、アレクシア様の部屋にお見舞いに向かいましょう」

「そうだね。ただサーシャはとても疲れているから――」

「なんか嫌な予感が――やっぱりですのー!?」


 気づいた時には、私はレナード様にお姫様抱っこをされてしまいました。

 これ自体は好きですが、急にされると驚いてしまいますからー!


「失礼、ジェラール様にも少しお話伺いたく……」

「わかった。二人共、お師匠様のことは任せた」


 私達は大きく頷いてから、結局お姫様抱っこのまま、アレクシアのベッドがある部屋を目指して、少し急ぎめに向かいました。



ここまで読んでいただきありがとうございました。


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