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第二十八話 黒い思惑

「すまなかった、サーシャ。随分と迷惑をかけてしまった」


 そろそろ目的地に着くかなと考えていた頃、レナード様は無事に目を覚ましました。自分のしたことを深く反省しているようで、先程から何度も謝罪をされています。


 しかし、私はプクーっと頬を膨らませながら、そっぽを向いていました。


 先程はレナード様の可愛さに負けて、それ以上お小言を言うつもりはありませんでしたが、起きた以上は少しくらい言わなければ気が済みません。

 だって、目の前であんなことをされたら、心配ですもの。


「レナード様はやりすぎですわ。どんな事情があっても、自分で自分を傷つけるような人は、私は嫌いです。もう少し自分の体を大切にしてください」

「自分の体、か……そうだね。肝に銘じておくよ」


 どこか寂しそうな反応が引っ掛かりましたが、ちゃんと反省しているようなので、今回は許してあげましょう。これ以上拗ねているのも、大人げないですしね。


「わかってくださって嬉しいです」

「レナード様、サーシャ様。間もなく到着いたします」


 御者の報告から数分もしないうちに、私達は目的地であるパーティー会場へと到着しました。


 一応貴族とはいえ、聖女の仕事を優先していたので、社交界に参加するのは、随分と久しぶりな気がします。

 レナード様に恥をかかせないためにも、しっかりしないといけませんね。


「今日は小規模なパーティーだから、そんなに肩肘を張らなくても大丈夫だよ」

「そういうわけにはまいりませんわ」


 少しのミスでもすると、これだから悪魔の子は……と、性格の悪い貴族達が、こぞって私の陰口を言ってくるのは、経験上わかっております。


 その被害が自分だけなら全然良いのですが、レナード様やジェラール様がいるなら、話は違います。お二人にご迷惑をおかけするわけにはいきませんからね。


「ジェラール様、レナード様、サーシャ様。お待ちしておりました。中へどうぞ」


 受付をしていた男性に案内をされて、会場の中に入ると、豪華な装飾をされた大広間で、貴族の方々が談笑を楽しんでおられました。


「……え、あれって……サーシャ・メルヴェイ!? どうして悪魔の子がここに……たしか、行方不明になったんじゃ?」

「ご存じありませんの? 最近、クラージュ家に住み着いているとの噂を」

「知らなかった……悪魔の子と一緒のパーティーとか、冗談じゃない……呪われてしまわないだろうか……」


 ひそひそと、私への陰口が聞こえてきます。これを聞くと、社交界に参加したなって強く感じますわね。


 この程度は慣れっこの私ではありますが、それはあくまで私の話……隣ではレナード様が、それこそ悪魔のような恐ろしい形相を浮かべておりました。


「れ、レナード様。落ち付いてくださいませ」

「君が怒っても、何の解決にもならん。むしろ、サーシャの立場をより悪くするだけだ」

「サーシャ……義父上……くっ……わかり、ました」


 私達の言葉で止められはしましたが、レナード様の怒りは収まっておりませんでした。ギリっと歯が鳴り、握り拳からはポタポタと血が滴り落ちておりました。


 そんな手を、私はそっと握り、治療を始めました。


「サーシャ、これくらいは大丈夫だから」

「私のために怒ってくたお礼です」


 かなり軽症だったので、ほとんど疲れずに治療は終わりました。これで疲労で倒れていたら、笑い話にもなりません。


 ――なんて思っていたら、この国では珍しい、真っ暗な髪の若い男性がやってきました。


「これはこれは、お久しぶりですねサーシャ嬢!」


 このお方は……えっと、名前は何でしたっけ……社交界以外でも、メルヴェイ家の屋敷でお見かけしたことはあるので、顔は存じているのですが……名前が思い出せませんわ。


 仕方がありませんので、それとなく対応をして誤魔化しましょう。


「お久しぶりですわ。息災でなによりです」

「あなたも、家を飛び出した割に元気そうでなによりですよ。そうそう、聞きましたよ。最近、瘴気が発生した村を救ったそうですね」

「ええ、まあ……」


 私に用があるのはわかりますが、だからといってどうしてレナード様やジェラール様には挨拶をしないのでしょうか。失礼なお方ですわね……。


 文句を言うのは簡単ですが、この場は丸く収めた方が良いでしょう――そう思い、レナード様とジェラール様に目で合図を送ると、小さく頷いてくださいました。


「どうしてそのことをご存じなのですか?」

「知り合いの商人から聞きましてね。今後も、苦しんでいる人を救うとか。大変ご立派なことです。しかし……」


 彼はそこで一旦言葉を区切ると、私達にしか聞こえないよう、小声で話し始めました。


「あなたが活躍しすぎると、現聖女のルナ様の仕事が少なくなります。そうなれば、少々困ったことになってしまうのですよ。そもそも、聖女はルナ様お一人だけで十分なのですよ。勝手なことをしないでいただきたい」

「お言葉ですが、ルナや国がやらないから、代わりに私がやっているご自覚はありますか?」


 あまりにも身勝手なことを仰っていたので、思わずムッとして少し嫌味なことを言ってしまいましたわ。


「とにかく、その高い志は結構ですが、患者を紹介する我々にも迷惑なのです」


 なるほど、私が自由に行動していると、本来ならルナに治療させて紹介料を取れたのが減ってしまうから、こうして釘を刺しに来ているのですね。


「ですので、これ以上活動するのはお控えください。さもなければ……」


 そこで話を区切らせるところが、なんとも嫌らしい。このタイミングで、私の身に何かあるかもしれないという、不安に思わせる時間を作ってきているのでしょう。


「その言葉、サーシャを脅していると受け取っても?」

「ちっ、あなたと話しているのではないのですが……まあいい。私はただ、サーシャ様を心配しているのですよ。ご活躍をして目立てば、今以上に呪われた血が流れていることが広まることになるでしょう? そうすれば、いずれは彼女を恐れた人間が、彼女を始末するかもしれません」


 確かに、私の血を恐れて、よからぬことを考えるお方はいらっしゃるでしょうね。現に村では危ない目にありましたし。


 しかし、このお方は私の心配をして仰っているわけではありません。その実態は自分達の利益のためなのが丸わかりですわ。


「なるほど。ご心配くださり、ありがとうございます」

「わかってくださいましたか、サーシャ様。あなたが聡明なお方で安心しました」


 にっこりと笑う彼に対して、私も同じように微笑み――


「そのご提案、謹んでお断りさせていただきますわ」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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