第二十七話 夢じゃない……?
翌日の夕方、私は先日選んだドレスを着た後、屋敷の外で先に待っているレナード様の元へと向かいました。
「レナード様、お待たせいたしました」
「全然待っていないから、気にしなくていいよ。君に美しい姿を想像しながら待っていたら、時が経つのなんてあっという間だからね!」
昨日も見ているはずなのに、相変わらず私のことを沢山褒めてくださるレナード様を見て、私は思わず見惚れてしまいました。
以前一度だけ見た、社交界に参加する時にレナード様のお姿は、本当にカッコいいんですの。いつもと着ている服が違うのと、髪をきっちりセットしているだけなのですが、それがとても良いんですのよ。
「サーシャ、どうかしたのかい?」
「カッコイイ……結婚したい……」
「な、なんだって!? 俺は夢でも見ているのか……試しに頬をつねって……い、痛い……夢じゃない! ああ、君もその気になってくれて、俺は嬉しいよ! そうと決まれば今日の予定はすべてキャンセルして、一緒にこの国の法を変えるために奮闘しようじゃないか!!」
「あっ……い、今のは違うんです!」
「ち、違うのかい……? そうか、俺は君への愛が深すぎて、幻聴を聞いていたのか……結婚したいと思っていたのは、俺だけだったのか……」
レナード様は、まるでこの世の終焉が目の前で起こったかのような、絶望的な表情を浮かべました。
咄嗟に言ってしまった内容が、レナード様を落ち込ませてしまうのはわかっていたのに、恥ずかしくてつい……わ、私の馬鹿っ!!
「……君達、屋敷の前で何をしているのかね」
「ジェラール様! その、レナード様が……」
「話は聞いていた。レナード、しっかりせんか。サーシャが本当に拒絶するようなことを言うと思っているのか、大馬鹿者め」
「はっ……義父上……確かにその通りです!」
「きゃっ!」
先程まで暗い顔をしていたのに、突然いつものような明るい表情に戻ったレナード様に、私の両手をギュッと握られました。
うぅ、いつもこんなことが可愛く思えるくらい、過激なことをされたり言われたりしているので、耐性が付いたはずなのですが、未来のお義父様の前だと、凄く恥ずかしいです。
「やれやれ、全く困った義息子だ。話が終わったなら、出発するぞ。私は別の馬車に乗って向かうから、君達も早くもう一つの馬車に乗りなさい」
「はい。さあ行こう、サーシャ」
「は、はい」
私はレナード様に手を引かれて、玄関の前で待っていた馬車に乗りこむと、ガタガタと音を立てながら馬車が動き始めました。
「目的地までは、そんなに時間はかからないはずだ」
「そうなのですね」
短く答えながら、ジッとレナード様のことを見つめる。
やっぱり何度見ても、とてもカッコイイですわ。少しいつもと違うだけで、こんなに印象が代わり、キラキラと輝いて見えるのですね。
「どうした、俺の顔に何かついているか?」
「そういうわけではございません。その……今日のレナード様、やっぱり凄くカッコイイなと思いまして……あ、決して今日だけというわけではございません! いつもとてもカッコイイと思っておりましてよ!」
「…………」
「レナード様……?」
何を考えているかわからない、無というのが一番しっくりくるような表情をしたと思ったら、突然キャビンの壁に、思い切り頭を打ち付けました。
それも、軽くコンッとぶつけるのではなく、容赦なくぶつけたので、鈍い音がキャビンの中に響きました。
「ははっ、痛い……夢じゃ、ない……ああ、幸せだ……」
「え、ちょ!? レナード様!?」
「何事ですか!? 何か大きな音が聞こえたのですが!?」
「大丈夫ですわ! もう、夢かどうか確かめるために、思い切り頭を壁に打ち付けるなんて! もう、すぐに治してさし上げますから!」
頭から血を流しているのに、痛がるどころか幸せそうなレナード様に少しの呆れと沢山の心配をしながら、私はレナード様の怪我の治療をしました。
さほど酷い怪我ではなかったので、治療自体はすぐに終わりましたし、私の疲労もそこまで溜まらなかったのは、不幸中の幸いでしょう。
「いくら私のことを想ってくれているといっても、少しやり過ぎですよ……もう、わかってるのですか?」
私の気も知らず、傷が治ったおかげで気持ちよさそうに眠るレナード様の鼻を、ツンツンとつついてみました。
すると、レナード様は小さな声でサーシャ……と言いながら、私の手を握ってきました。
「夢の中にまで私が出てきているのですか? もう……これでは怒るに怒れませんよ。もしかして、わかってやってませんか?」
お小言を言っても、レナード様から返事は返ってきません。ただ静かな寝息を立てるだけです。
でも、なんだかこのお顔を見ていたら、お小言を言う気が失せてきました。それどころか、母性がくすぐられるといいますか、可愛く見えて仕方がありません。
……我ながら、何とも甘いなーと苦笑しつつも、目的地に着くまでこのまま手を握っていようと思うのでした。
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