第二十六話 愛の力があれば!
瘴気から無事に村を救った私は、三日ほど休息を貰いました。ゆっくり休んだおかげで、私の体調はすっかり回復しました。
体は羽のように軽く、目覚めもバッチリ。お肌もいつもよりツヤツヤしている気がします。
こんなに回復したのは、何日もゆっくり休めたおかげもありますが……休息の三日目に、一日中レナード様と過ごせた日があったおかげもあるでしょう。
「ごちそうさまでした。レナード様といただく朝食は、本当においしいですわ」
「俺もだよ。そうだサーシャ、すまないが今日と明日は、俺に付き合ってくれないか?」
今日からまた聖女の活動を再開したいと、レナード様に申し出ようとしましたが、先にレナード様からお願い事をされました。
「つ、付き合ってくれってそういう意味ではないからな! 俺の用事に付き合ってほしいという意味であってだな!」
「急に早口で弁明されて、どうされたのですか……?」
「いやぁ、愛する人に付き合ってだなんて言ったせいで、変にドキドキしてしまってな!」
「もう、レナード様ってば……」
レナード様がそう思う気持ちは、私もわかりますわ。抱き合ったりキスしたりした仲になった今でも、好きとか愛してるとか言おうとすると、凄くドキドキしてしまいます。きっと、それと同じようなものなのでしょう。
「それで、なににお付き合いすればいいのですか?」
「明日、クラージュ家と古くから付き合いがある、グランダール家がパーティーを開くんだ。そこに、俺と義父上が参加する予定でね」
「パーティー、ですか」
グランダール家……確か、伯爵の爵位を持つ家で、古くから魔法に長けている家だったはずです。
「その家の当主は、昔から俺に良くしてくれていてね。君のことも話していて、いつか君に出会えたら紹介すると約束をしていたんだ」
「なるほど。しかし、私のような人間が参加してもよろしいのでしょうか?」
私は聖女でもあり、悪魔の子でもあります。そんな私がパーティーに参加したら、空気が悪くなってしまうのではないか……そんな懸念が、脳裏に過ぎりましたわ。
「彼女は事情を知っているし、問題無いと仰っていたよ。それに君は何も悪いことをしていないのだから、堂々としていればいいんだ」
「堂々と……はい、わかりましたわ」
……パーティーに参加するのはわかりましたが、どうして今日もレナード様にお付き合いしなければならないのでしょう? もちろん嫌というわけではございませんが……前日から用意することがあるのでしょうか?
「どうして明日だけじゃなく、今日もなのか……そう思っているね?」
「凄い、どうしておわかりになられるのですか?」
「愛する人を理解するなんて、造作もないことだ! なんなら、君の頭の先からつま先まで、全てを網羅しているよ!」
「あ、ありがとうございます?」
きっと事情を知らないお方が耳にしたら、それはどうなのかと思うような発言ですが、こういった過剰な愛情表現を含めて、私はレナード様を愛しているので、問題ありません。
それに、こんなことは私の日常となっておりますので、慣れっこになっております。休息中に丸一日一緒にいた時とか、今思い出しても恥ずかしいくらい、色々と溺愛されましたので……。
「ごめん、話が脱線しっぱなしだったね。君との会話は楽しくて、つい話し込んでしまう」
「私もですわ。それで、何をすればよろしいのでしょう?」
「屋敷の一階に、大きなホールがあるから、一緒に行こうか」
「わかりました」
いまいち全貌がつかめないまま、言われた通りの部屋に行くと、そこにはあったのは、色とりどりのドレスの山と、三人の女性の使用人でした。
……なんだか、以前にも似たようなことがございましたね。おそらく、またここから一着選ぶのでしょう。こんなに数が多いと、選ぶのも大変そう……あ、だから今日一日確保したということですね! 納得しましたわ!
「ふふん、どうだい? 数日でこれだけ集めるのは、とても苦労したそうだ。皆には頭が上がらないよ」
これだけの数を集めるだなんて、本当に大変そうですわ。
それにしても、デザインが違ったり、フリルが多めだったり少なかったり、スカートの長さが少し違ったり……ドレスって奥が深いんですのね。
メルヴェイ家で生活している時も、ドレスを着る機会はございましたが、いつも同じようなドレスを着ていたので、これだけの種類があると目移りしてしまいます。
「この水色のドレスとかいいんじゃないか? 君の愛らしさを表現するのにぴったりだ! ああいや、この白いドレスも、サーシャの心の美しさを表現するのによさそうだ……それとも、もう少し暗めの色で大人っぽさを演出するべきか? ああ! どのドレスもサーシャに似合いすぎるのがわかってしまって選べない! 今ほどサーシャの美しさを恨んだことは無い!」
今日も平常運転のレナード様ですわね。慣れてきたので、以前よりかは恥ずかしくなくなりましたが、代わりに嬉しくて照れてしまいます。
「もう、レナード様ってば……では、とりあえず今選んでいただいたのも含めて、いくつか試着をしてみますわ」
「ああ、わかった」
「…………」
「…………」
試着をするとお伝えしているのに、レナード様はニコニコしたままそこに立っておられました。これでは、着替えることが出来ません。
「どうした、早く着替えるといいよ」
「レナード様がいらっしゃると、着替えられないのですが……」
「……? どうして俺がいると着替え……あっ!!」
一瞬にして私の言いたかったことが分かったのでしょう。みるみる顔をリンゴのように真っ赤にさせたレナード様は、ごめん!! と大きな声で謝罪をしながら、部屋を出ていきました。
いつもの優しくて素敵なレナード様も好きですが、今みたいに慌てているレナード様も、可愛らしくてとても好きですわ。
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いくつも試着をしてみた結果、薄いピンク色を基調としたドレスを選びました。たくさんフリルが付いていて、とても可愛らしくて気にいりましたの。
「レナード様、気に入ってくださるといいのですが……」
レナード様のことだから、似合わないとか別のものにしろとか仰るとは思えませんが、せっかく婚約者としてパーティーに参加するのですから、レナード様に気に入ってもらえる方が良いですわ。
「お待たせいたしました、レナード様」
「ああ、おかえ……!?」
「レナード様?」
先に私達の部屋に戻っていたレナード様の元に行くと、読書をして待っていたレナード様が、私を見て固まっていました。手に持っていた本を床に落としてしまっても、動く気配がありません。
「レナード様、大丈夫ですか?」
「――しよう」
「え?」
「結婚しよう。今すぐしよう」
「レナード様!?」
急に結婚だなんて、いきなり話が飛躍しすぎですわ! 私はレナード様の婚約者ですし、すぐにでも結婚したいのは山々ではありますが、まだ十七歳の私では、国の法によって結婚が許されませんのよ!?
「こんな美しい姿を見せられて、今すぐ結婚する以外の選択はあり得ない! 式場はすぐに手配するから、心配するな!」
「国の法で、十八歳にならないと結婚できないのは、レナード様もご存じでしょう!?」
「そんな法など、俺がぶっ壊してやる! 愛の力があればきっと成せる!」
「物騒なことを言わないでくださいませ!」
結局その後、三十分程かかりましたが、無事にレナード様を落ち着かせることに成功しました。
……こんな調子で、明日は大丈夫なのでしょうか……?
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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