第二十一話 お前はバケモノ
「あの~、ちょっとよろしいですか?」
「なんでしょう?」
言われた通りの場所で待っていると、少しだけ見覚えがある男性に声を掛けられました。確か、このお方も瘴気に侵されてしまい、苦しんでいたお方ですわ。
「実は、妹がまだ調子が悪くて……診てもらえませんか?」
「あなたの妹様? あれ、レナード様がまとめてくださったリストには、いなかったような……?」
「ど、どこの誰かもわからないよそ者に、大切な妹のことを知られるのが怖かったんだよ」
このお方が仰っていることは……まあ、わからなくもありません。突然悪魔の子が持つ赤い目の女がやって来て、手当たり次第に手当てをしていたら、怪しまれてもおかしくありませんもの。
「それは申し訳ございませんでした。すぐに治すので、診せてください」
「こちらです」
彼についていくと、そこは村の端の方にある、寂れた場所だった。こんな所に、妹様がいらっしゃるのでしょうか?
「そこの小屋で寝ておりまして」
「わかりました」
がらんとした小屋に入ると、確かにベッドには人間が横たわっておりました。
でもおかしいです。聖女の魔力を持っていると、瘴気に侵されているかどうか、ある程度はわかるのですが、このお方からはそれが感じられません……。
「あの、本当に妹様は治療が必要なのでしょうか?」
「ええ、もちろん……」
「……!? し、失礼します!!」
私は彼から嫌な気配を感じ取り、一目散に小屋から逃げだしましたが、ここ数日の疲れの影響で足をもつれさせてしまい、派手に転んでしまいました。
そんな私の周りに見知らぬ方々が物陰から出て来て、私を取り囲みました。
「どこにいくんだ? 商品が逃げんなよ」
「商品……!? あなたはどなたですの!? この村の人じゃありませんわね!」
「俺達は奴隷商人よ。風の噂で、この村に聖女が来てるって聞いてな。しかも、悪魔の目も持っている。そんなレアものを買いたがる連中もいるもんでな、こうして調達に来たってわけよ」
「私の作戦は大成功でしたね! さあ、早く連れて行ってください!」
私をここまで騙して連れてきた村の男性は、喜びで声を弾ませておりました。
「どうして私を陥れようとするんですか!」
「それ、本気で言っているんですか? この……バケモノ!」
「っ……!!」
バケモノ。このたった四つの文字だけで、私は激しく動揺してしまいました。
改めてバケモノと言われるのは、精神的に来るものがあります。しかし、そんな悪口に負けるつもりはありません!
「諦めて、俺達と一緒に来い」
「お断りです! 私には多くの人を救うという、使命がありますの! だから、あなた達と一緒に行くわけにはまいりませんわ!」
「なら今日から、お前の使命とやらは、買ってくださった貴族に永遠に忠誠を誓い、ご奉仕することだな!」
「さ、触らないで! 離しなさい!」
必死に抵抗してみますが、男性の力に女性の力で勝てるわけもありませんでした。
こういう時に、攻撃魔法の一つでも使えれば良いのですが、私には聖女の魔法しかありません。
このままでは、彼らに連れていかれてしまいます。どうにか逃げないといけないのに、私にはどうすることも出来ません。
「よく見たらかなりの美人だし、これは相当高く売れそうだな!」
「ひっ……誰か、助けて……レナード様……!」
私に向けられた悪意が怖くて、出会ったばかりの頃のマリーちゃんのように怯えながら、ギュッと目を瞑ると、突然私の手首を掴んでいた手が離された。
それから間もなく、再び手を引かれた私は、ポスンっとなにかにもたれこみました。
「なっ……てめえ、どこからでてきた!?」
「えっ……?」
ゆっくりと目を開けながら顔をあげると、そこには私の愛する人が、彼らに向けて鋭い目つきで睨んでおりました。
レナード様、本当に助けに来てくださったのですね……! まるで、本当に聞きに颯爽と助けに来てくれる、王子様みたいですわ……!
「な、何かヤバそうっすよ! 逃げましょうよ~!」
「なにビビってんだ! こんな奴、さっさと口封じをして――」
先程まで私を掴んでいた男性の言葉を遮るように、レナード様はその場で大きく足をあげ、地面を踏みつけました。すると、まるで巨大な岩が辺りに落ちたかのような、大きな地響きが辺りに響き渡りました。
こんな地響きを、普通の人間が出せるはずがありません。きっと今のは、レナード様の魔法だと思います。
「俺の世界で一番大切な人に手を出し、涙を流させるとは……いい度胸だ。本来なら万死に値するが、彼女に惨い光景は見せたくない。だから……十秒だけやる。その間に謝罪をしてこの場を去るなら、特別に見逃してやる」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」
「バケモノのお供も、バケモノだったぁぁぁぁ!!」
私を騙した人と、いかにも悪者の子分みたいな雰囲気の男性は、悲鳴を上げて逃げだしてしまいました。
そんな状況でも、唯一私を掴んでいた男性だけは、震えながらも懐からナイフを取り出し、刃先をレナード様に向けていました。
「こ、こんな金になりそうな女を、見逃してたまるか! ここ、殺されたくなければそいつをよこせ!」
「状況を理解していないのか? 謝罪をして去れと言っている」
いつも私の前ではニコニコしていて、過剰なくらいの愛情表現をするレナード様は、この場にはいない。代わりにいるのは、恐ろしいほどの殺気と魔力を相手に向ける殿方でした。
「あ、ああ……ひぃ……」
「去れ」
「も、申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!!!」
見ていて可哀想なくらい怯えながら、彼もその場から脱兎のごとく逃げていきました。
あれだけの魔力と殺気を向けられれば、怯えてしまうのも無理はないでしょう。婚約者の私でさえ、驚いてしまったくらいですもの……。
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