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第二十話 貴族なんて自分勝手で当たり前さ

「はい、終わりましたわ」

「ありがとうございます、聖女様」


 この村の瘴気を浄化し、結界も張り終えてから数日後、私はマリーちゃんの家でお世話になりながら、まだ治療が完了していない村人達の治療にあたっていました。


 残っている方々は症状が軽い方なのもあり、私のことを見る程の余裕があったようで、私の赤い目に気づいて怯える人もいらっしゃいましたが、私が皆様を治してきた実績を知っているので、あまり強く言えなさそうな感じでしたわ。


 とはいっても、そんな反応をするのはごく一部で、たくさんのお方は私に感謝を述べ、とても親しく接してくださいました。


「ふう……レナード様、次の患者の所に参りましょう」

「その必要は無い」

「え? どうしてですか?」

「今の人が、最後の患者だからさ」

「ほ、本当ですか!? やりましたわ……ばんざーい! ばんざーい!」


 ここに来た時は、多くの人が瘴気に侵されてしまっていたのに、今はもうその苦しみから解放された。そう思ったら嬉しくて、レナード様の前で子供のように飛び跳ねてしまいましたわ。


「おお、無邪気に喜ぶサーシャも良い! 俺もつられて、天に届いてしまうほど飛び上がってしまいそうだよ!」

「れ、レナード様もお喜びになられているのはわかりましたから、飛んでいかないでください!」


 普通に考えたらそんなことは不可能ですが、レナード様なら本当にやってしまいそうな、謎の信頼感があるのが不思議ですわ。


「おっと、喜ぶのは良いが、まずは今日までたくさん働いたサーシャを、屋敷で休ませなくちゃな。村の人に挨拶をしたら、屋敷に通話石で連絡して、迎えに来てもらおう」

「わかりました。それでは……」


 真っ先に挨拶をするのに浮かんだ相手は、やはりここに来てからずっと交流をしている、マリーちゃんでした。

 村の皆様が元気になったと伝えたら、きっと無邪気に喜んでくれるでしょう。今からその姿を見るのが、楽しみですわ。


「戻りました~!」

「あっ! おかえり~!」


 レナード様と一緒にマリーちゃんの家に帰ると、マドレーヌ様と一緒に出迎えてくれました。その隣には、見覚えのある男性のご老人も立っておりました。


「おや……あなたは、村長様ではありませんか! もうお体はよろしいのですか?」

「ええ。おかげさまで、歩けるほどには回復しました」


 このご老人は、この村の一番の年長者であり、長を務めているお方だ。瘴気のせいでとても具合が悪くなってしまい、治療が終わっても動けずにいたのですが、どうやら歩けるくらいには回復したようですね。本当に良かったです。


「ご無理はされないでくださいね。私の魔法で治療をしたとはいえ、体力を回復することはできませんから」

「心配いりませんぞ。衰えたとはいえ、まだまだ若い者には負けるつもりはありませんからな」


 どうやら嘘とかではなく、本当に元気みたいでよかったですわ。


「今日はね、ママと一緒に栄養たっぷりスープを作ったの! 村長さんも食べていって!」

「ワシもいいのかね?」

「ええ。快気祝いということで……どうでしょうか、サーシャさん、レナードさん」


 断る理由なんて何もないので、快く了承し、五人で食卓を囲むことになりました。

 食事なんて、パーティーとかじゃなければ、いつもレナード様と二人だけだったので、とても新鮮ですわ。


「ふう、おいしい」


 いたって普通の野菜スープなのですが、マドレーヌ様が愛情を込めて作ってくださったのか、とってもおいしいですわ!


「……村長、聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「もちろんですぞ」

「今回は、我々がここに来たから良かったですが……国には救援要請は出さなかったのですか?」


 レナード様の質問を聞いた村長様は、どこか不機嫌そうに表情を曇らせながら、レナード様の質問に答え始めました。


「出しました。しかし取り合ってもらえませんでした。そんな辺境の村に裂く人員も費用も無いと、断られてしまいました」

「…………」


 国のお抱えの聖女に診てもらえるのは、権力のある人間や大金を払った人間だけなのは、嫌というほど知っていますが、村一つが被害にあっているのなら、助かるのが国としてのあり方のはずなのに……。


「しかたなく、我々はこの村を捨てて逃げだそうとしましたが、瘴気の境目の所で見張りをしていた国の兵に追い返されてしまいました。無理に逃げれば、その場で処刑するとまで言われましてね」


 国からしたら、瘴気を抱えた人間なんて、村から出したくない……その気持ちはわからなくもありません。


 しかし、元はといえば、瘴気が領土に発生することがあり得ません。なぜなら、国のお抱えの聖女がそれを管理し、維持しているからです。それが何かしらの理由で不備が出たから、こうなったのではありませんか。


 仮に国に落ち度がなくても、助けてあげるのが当然ではありませんか!


「まあ、そうでしょうね。彼らがやるはずが無い。権力者なんて、自分達以外の人間など、どうなってもいいと思っている連中ばかりですからね。別に驚く程のことでもありません」


 そんなことはないと言いたいですが、その通りすぎて何も言えませんわ……。


「辺境の村なんて、あっても無くてもいい、それよりも重要なのは、瘴気を外部に持ち込まれないようにすること。そして、自分達の管理不足を外部に漏らさないようにすること。だから村人を隔離した。俺達が来た時に兵がいなかったのは、村人にはもう助けを呼ぶ力も、逃げる力も残されていないと判断した……全て憶測ですが、そんなところでしょう」


 それが正しいとすると、国の上層部は自分達のミスは隠して、罪もない村人を見殺しにしようとしてたってことですの!? 最低すぎて、吐き気を催してしまいそうですわ!


「考えたって仕方がないさ。彼らがやらないなら、俺達がすればいい……そうだろう?」

「……はい、その通りです!」

「さて、馬車が来るまで少し時間がかかるようだが、何をしていようか……そうだ、互いに愛を囁き合うのはどうだろうか!」

「皆様の前で、何を仰ってるのですか!? それはまたの機会に!」

「またのってことは、今じゃなければいいんだな! くぅ……! 今から楽しみすぎて、眩暈がしてきたよ!」


 瘴気という重圧から解放されたからなのか、レナード様の調子が以前のようになっているのは、きっと気のせいではないでしょう。


「その~……そうですわ! このままジッとしているのもあれですし、調子が悪くなった人がいないか、最後にもう一度見回りをしましょう!」

「その心がけは素晴らしいが、この数日で相当疲れただろう?」

「そうだよ、休んだ方がいいよ〜!」

「今は時間に追われていませんから、大丈夫です。それに、おいしいスープのおかげで疲れなんてどこかに行ってしまいましたから! では皆様、行ってまいります!」


 私はレナード様の手を引っ張って、マリーちゃんの家を後にしました。


 仮にも私達は、この村に治療をしに来ているのだから、観光気分のような発言は適切ではないでしょう。でも、こう言った方が、きっとレナード様が納得してくれると思ったのです。


「……全く君という人は。わかった。君がそう言うなら、一緒に村を――うっ!?」

「れ、レナード様?」

「すまない、少し用事を思い出したから、席を外すよ。すぐに戻ってくるから、ここで待っててくれるか?」

「わかりましたわ。あの……私も一緒の方が良いですか?」

「いや、むしろ俺一人の方が都合がいいかな。それじゃあ、また後で」


 家を出てから間も無く、まるでその場から逃げるように、レナード様は私の元を早足で去っていきました。


 どうかしたのかしら……もしかして、私の発言が気に障ってしまったのでしょうか? もっと適切な言葉があったかもしれません……こんなことなら、もっと会話の練習をしておくべきでしたわ……。





「くくっ、あれが噂の聖女とやらか。ここにいるという噂を聞いた時は半信半疑だったが、本当だったとはな」

「アニキぃ、ホントにやるんすか? 瘴気が無くなってて、楽々潜入できたとはいえ……あいつ、例の赤い目を持ったバケモノですぜ?」

「馬鹿野郎、なにビビってやがる! こっちには、現地人の仲間がいるんだぜ!」

「へへっ、お任せください。あんな赤い目のバケモノを村から連れてってくれるなら、いくらでも協力しますよ」

「ありがてぇ。聖女で悪魔の子なんてレアな人間、物好きに高値で売れるに決まってるからな。さっさと行くぞ!」


ここまで読んでいただきありがとうございました。


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