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第二話 全てを奪われた日

「……はい? え、ルナは私の補佐になるのでは……??」


 久しぶりにお会いしたルナの口から出た言葉は、すぐに理解するのは不可能なくらいの衝撃がありましたわ。


 正直に申し上げると、私とルナの関係は、昔から良いものとは言えません。


 神聖な教会にいたというのに、ルナは他のお方がいないところで、私を悪魔の子として虐げ、様々な嫌がらせをしてきましたの。


 とはいっても、他のお方も実はそれを知っていて、わざと見逃していたというのを、私は存じておりますが。


「お義父様、一体どういうことですの!? 私、国と民のために、毎日身を粉にして働いておりましたわ!」

「そんなもの、聖女として当然だろう。私の可愛いルナは、お前よりも聖女として優秀な力を手に入れたのだ。それにお前と違い、容姿端麗で社交性も高い。なによりも、悪魔の血が流れていない」


 彼女の聖女の力については存じ上げません。容姿に関しても、とても素晴らしいものでしょう。


 ですが、社交性に関しては、全く理解できません。普段は猫を被っているだけで、本性は最悪と言っても過言ではありませんもの。


 ……醜い性格は私といる時にしか出しませんので、お義父様や他のお方がご存じないのは、無理もありませんが。


「それと、エドワードについてだが……前々から、お前の悪魔の血について恐れていると相談を受けていてな。婚約は無かったことにしたいという話も出た」


 エドワード様が、そんなことをお考えだったなんて、今まで一度も聞いたことがありません。基本的に、あのお方は私に対して、全く関心がありませんでしたのよ?


「しかし、我々としても、ライエン家との結婚は破談にしたくなかった。そこで、お前の代わりにルナを結婚させようと考えた。本人達もライエン家の連中も、快く引き受けてくれた。それも当然だろう、誰が好き好んで悪魔の子を家に引き入れたいと思う?」


 私は、好きでこんな目を持って生まれてきたのではありません。皆様、口をそろえて私を悪魔の子だと仰りますが、なにか悪いことをしたわけでもありません。


 私はただ……聖女として、一人でも苦しんでいる人を助けたいだけなのに……!


「これは決定事項だ。そうだ、言い忘れていたが……お前が聖女として活動できるのは、三日後までだ。わかったら一秒でも早く消えろ。お前と同じ空気をルナが吸ってると思うと、寒気がする」

「ごめんなさいお義姉様。突然のことで驚いたと思います。わたしも心苦しいですが……聖女のことも、エドワード様のことも、わたしにお任せください!」

「ルナ、こいつは悪魔の子なのだから、優しくする必要は無いのだぞ」

「そういうわけにはまいりませんわ、お義父様!」


 私の気持ちなどつゆ知らず、ニコニコと笑顔を浮かべるルナは、私の両手をギュッと掴むと、一瞬だけ嫌らしい笑みを浮かべ……。


「だ・か・らぁ……さっさと消えろよ、バケモノ」


 ルナは私にしか聞こえないくらいの小声で、私を罵ってきた。


 こんな次元の低い悪口など、散々言われてきた。だから、いつもなら全然気にしないことなのですが……流石に状況が状況なだけに、苛立ちを隠せなかった。


「ルナ……! あなたって人は……!!」

「きゃ~こわ~い! お義父様、お義姉様が急にお怒りになりましたわ!」

「……なに? 未来の聖女に、なんという狼藉だ。おい、誰かこのバケモノを部屋に連れて行け!」

「は、離してください! お義父様、もう一度考え直してくださいませ!」

「考え直す? 馬鹿が、この際だからはっきり言っておく。所詮お前は、ルナが聖女として働けるようになるための、繋ぎにすぎん!」


 部屋の中に入ってきた人達の手を、なんとかして振りほどこうとしていた私でしたが、お義父様の言葉に、思わず固まってしまった。


「貴様とルナは、幼い頃から秘められた聖女の力は素晴らしく、その差もほとんど変わらないことはわかっていた。唯一違っていたのは、貴様が驚くほど早熟だということだけ。本当なら、ルナだけを聖女にすればいいのだが、当時の聖女は高齢で、すぐにでも後釜を見つけないといけなかったから、貴様が先に聖女になったのだ」

「まさか……それが先ほどの繋ぎという言葉の意味ですか!?」

「そうだ。だから、バケモノの貴様を養子として迎え入れ、国の聖女の立場に置かせてやっていたのだ!」


 ……言葉が出ませんでしたわ。昔から嫌われていることはわかっておりましたが、それでも耐えて、前向きに頑張っておりましたのに……こんな結末になるだなんて……。


「わかったら、さっさとここから消えろ! 明日からは、ルナの補佐の他にも、バケモノらしい仕事の数々を与えてやるから、覚悟しておくのだな!」


 結局私はなにも反論を許されないまま、部屋を追い出されてしまいました。


「ふう、奴がいないと清々しい気分になるな。さあルナ、お前のために用意した部屋に案内しよう。最高級の家具と、多種多様のドレスを用意させてもらったよ」

「お義父様、ありがとうございます! わたし、とっても嬉しいです! そうだ、わたし一つお願いがございまして……よろしければ、一緒にお食事でもどうですか?」

「……ああ、もちろん。義娘と食事が出来るなんて、私は幸せ者だ」


 先程までいた部屋の中から、お二人の仲睦まじい会話が聞こえてくる。


 私には、最初からそんな好待遇なんてしてくれませんでしたし、一緒に食事なんて、話題にすら上がりませんでしたのに……よほどルナのことを贔屓したいようですわね。


「…………」


 部屋の外に連れ出した人達に引っ張られて、屋敷の外まで連れて来られると、敷地内の隅っこにある、小さくてボロボロの小屋に押し込まれました。


 こんな所に連れて来られたのは、お義父様の罰かと思うお方もいるかもしれませんが……ここは、私が生活をしている家ですの。


 聖女として、国や民のために必死に働いているというのに、この目のせいで幼い頃から屋敷の中で住むことを許されず、一人でここで生活しております。


 食事は屋敷のお方が食べ残したものだけ、お手洗いもボロボロで、入浴に至ってはわざわざ屋敷の人に頭を下げて、バケツ一杯分の水と小さな石鹸一つを分けてもらってなんとかしております。お召し物に関してだけは、聖女の仕事中だけは綺麗な物を用意してもらえてますの。


 今日帰ってきたばかりのルナと比べて、正反対な待遇を受け続けておりましたが、聖女として働けるなら、我慢は出来ました。私が我慢をしていれば、一人でも多くの人が救えると……。


「でも、もう私は聖女として活動できなくなる……」


 これからのことは、詳細は聞いておりませんが、良いものになるとは到底思えません。少なくとも、誰かを治療させてもらうことは不可能でしょうし、ルナには毎日のように虐げられ、彼女を贔屓するお義父様には、理不尽な扱いをされるでしょう。


「私がどれだけ理不尽な目にあっても構いませんが、聖女として活動できないのでは、なんの意味も……」


 聖女の使命を果たすため、そして記憶の彼方におられる、あのお方との誓いを果たすため、これ以上ここにいる意味はないでしょう。


「……元々、私の治療を受けられるのが、権力を持った貴族や、お金をたくさん払ったお方だけというのは、おかしいと感じておりましたし……ちょうど良い機会かもしれませんわ」


 決めましたわ。最後まで国のお抱えの聖女としての役目を全うしたら、この屋敷をこっそり出ていきましょう。そして、聖女として苦しんでいる人を一人でも救うために、頑張って活動しましょう!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、モチベーションに繋がりますので、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


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