表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/69

第十九話 愛する人が一緒なら

 私はマドレーヌさんとマリーちゃんからいただいた果物を食べ終わった後、言われた通り休息をしていると、レナード様が家に帰ってきました。


「おかえりなさい、レナード様。見回り、ありがとうございました」

「礼には及ばないよ。こうしてサーシャに迎えられるだけで、見回りに行った甲斐があるってものだ」

「も、もう。またそういうこと……」

「ははっ、冗談だよ。出迎えてもらうためだけに、見回りなんてするわけがないだろう? 出迎えが心の底から嬉しいのは本当だけどね。だってそうだろう? こんな美しくて愛らしい婚約者が出迎えてくれるんだよ?」


 この数日がとても忙しかったからなのか、レナード様の過剰な愛情が、少し懐かしく感じられますわ。嬉しくもあり、恥ずかしくも思うのは、全然変わりませんが!


「そうだ。この嬉しさを表現するために、村を百周ぐらい走り回って、この愛を叫んでこよう!」

「百周!? や、やらなくていいですから! レナード様の気持ちはよくわかりましたから!」

「あははっ! 二人って本当に仲良しさんだね! あたしも、お兄ちゃんみたいな素敵な男の子に出会えるかなぁ?」

「会えるさ。だって、君はとても素敵な女性だからね」

「本当!? やった~! ママ、あたしもお兄ちゃんみたいな素敵な男の子に会えるって!」

「よかったわね~」


 母娘で交わされる、とても暖かくて平和な会話。きっと、こんな光景が毎日繰り返されていたのに……瘴気のせいで、危うくそれが壊されてしまうところだったと思うと、背筋が冷たくなりますわ。


「それで、症状が悪化したお方はいらっしゃいましたか?」

「大丈夫だったよ」

「それはなによりですわ。では、そろそろやりませんとね」

「もうやるのか? まだ休み始めてから、半日も経ってないじゃないか」

「大丈夫ですよ。沢山休ませてもらいましたし、おいしい食事もいただきましたから」


 この言葉には、嘘は一切ありません。屋敷にいた頃なら、休憩なんて基本は貰えず、食事も本当に簡素なものだけでしたのに、これだけ良くしてもらえたのですから、体力だってバッチリ……だと思いますわ!


「……わかった。何が出来るか、皆目見当もつかないが……俺の一緒に行かせてほしい」

「もちろんですわ。この村の中心が、丁度広場になっているようなので、そこで行いましょう」


 私は、レナード様と手を繋いで村の中心に行くと、そこには何もない広場が広がっていました。


 広くて何もない場所……とても最適な条件ですわ。ここでなら、これからやる魔法の邪魔にはならなさそうですわ。


「浄化と結界をするのはいいが、まずは何からするんだ?」

「浄化と結界を同時に行う魔法陣を作ります」

「同時だって!? 聖女の力は、本当に凄いんだな……」

「同時にする聖女は、あまりいませんけどね。私は体力がないので、なるべく一度で終わらせたいのです」


 簡単に解説をしながら、私は体から魔力を放出し始める。すると、服や髪が風でなびくようにサワサワと動き出した。


「すー……はー……」


 意識を集中させて、私の中にある魔力を集め、出力をどんどんと高める。すると、地面に一筋の光が現れ、ゆっくりと魔法陣を描き始めた。


 これからやることは、聖女の魔法を同時に二つ使う、高等な魔法です。もちろん失敗のリスクもある……こんな状態で、緊張しないわけがありません。その証拠に、私の両手が小刻みに震えておりますわ……。


「サーシャ……」

「レナード様……」


 レナード様は、黙って私の両手を包み込むようにしてくださりながら、私に全幅の信頼を込めた、まっすぐな瞳で私を見つめてきました。


「大丈夫。君ならできるさ」

「大丈夫……大丈夫……」


 ……いくら自分に言い聞かせても、手を握ってもらっていても、震えが止まりません。


 どうして震えるの? 失敗を恐れている? いえ、これでも私は小さい頃に住んでいた教会で、たくさん勉強をしましたし、元々の素質もあると言われております。普通にやれば、失敗はない……はずです。


「どうして……そうか」


 私は、治療をする過程で、この村に住む多くのお方と交流をして、愛着が湧いたのでしょう。だから、失敗して失うことを恐れているのでしょう。

 今までは、患者とお会いしても、すぐに別れてしまうので、愛着が湧くことはないのです。


 原因がわかったところで、じゃあそれを考えないようにするには、どうすれば……。


「レナード様、私……万が一の失敗が怖いみたいですわ。失敗した時のことが、頭から離れない……」

「誰だって、重要な時は怖いものさ。そうだ、君が良ければ……絶対に成功するおまじないをしてあげるよ」


 そう仰ったレナード様は、私の両肩に手を乗せると、少しだけ赤らめた顔を私に向けた。

 それだけで悟った私は、緊張で顔を赤くしながら目を閉じると、唇に柔らかいものが押し当てられた感覚を感じた。


「……助手の俺には、今はこの程度のことしか出来ないが……君の勇気を支える手助けになれば嬉しいよ」


 そのキスは、安心感と共に、私なら大丈夫という絶対的な安心感を私に与えてくれた、とても温かいキスでしたわ。


「ありがとうございます、レナード様。おかげで、私はもう大丈夫です!」


 最後の仕上げとして、私は魔法陣の中心で右手を掲げると、魔法の発動に必要な詠唱を、高らかに読み上げる。


「我が身に宿りし聖女の力よ、我が声に応えよ。我が願いに応えよ。民を苦しめる悪しき魔力を、汝の光にて打ち払い、永遠の安寧をもたらせ!」


 私の声に応えるように、右手から空に向かって光の柱のようなものが伸びていき……空中で眩い光となって辺りを照らしました。

 その衝撃で、この辺りにあった瘴気は全て浄化され、跡形も無く消え去りました。


 まずは第一関門は突破ですわ――そう思ったのも束の間、今度は地面に描かれた魔法陣が、どんどんと広がっていきます。その大きさは、既にこの村全てを覆っております。


 そして、魔法陣の一番外側にある円の部分から、一直線に空に伸びていき、村を覆う結界となりました。


「やりました……成功です!」

「ああ、空があんなに綺麗に見える! 瘴気は完全に浄化できたんだな! サーシャは本当に凄いよ!」


 私の体が限界になるのをわかってたレナード様は、私の体を支えて座らせると、そのまま優しく抱きしめてくださった。


 ……レナード様の仰る通り、青い空がとても綺麗ですわ……綺麗な空を見ていなかったのは、たった数日程度でしたが、こんなに空は美しく、大切なものなんだと、改めて気付かされました。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、モチベーションに繋がりますので、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【★★★★★】から出来ますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ