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第十六話 瘴気に侵された村

「サーシャ、サーシャ……起きてくれ」

「ふぇ……?」

「少々面倒な問題が起こったんだ」


 まだ半分寝ぼけた状態で、問題が何かを調べようとしましたが、レナード様に動かないようにと、腕をつかまれました。


「端的に説明する。目的地に向かう途中、瘴気に道を阻まれてしまった」

「はぁ……えぇ!? 瘴気!?」


 瘴気とは、異常な魔力の集合体で、紫色の霧のような見た目をしています。

 謎の多い現象で、発生する理由は解明されていないものですが、家畜や食物に影響が出るどころか、これを吸い込んだ人間は、異常な魔力で体の中をメチャクチャにされてしまうことはわかっております。


 その瘴気が、どうしてこんなところにあるのでしょう? いくらこの辺りが国の領土の端っことはいえ、この辺りも聖女の結界によって守られていて、瘴気が発生することは決してないはず。


 それに、もし仮に何か起きたら、国が対処するはずですわ。一体国や新しい聖女であるルナは、なにをしていますの?


「考えている時間はありませんわね……レナード様、村はこの先なんですよね?」

「そうだね。この調子では、瘴気に包まれて……もう……ごほん、きっと今も苦しんでいるだろう」


 レナード様の仰りたいことはわかります。そんなところにいたら、もう助からないと。

 でも、それで諦めますなんて言えるほど、私は諦めのいい性格をしていませんの!


「問題はございません。このままこの先の村に行きましょう」

「正気かい? いくら聖女でも、瘴気を吸い込んだら……」

「大丈夫ですわ」


 私は、馬車の中で聖女の魔法の一種を使い、純白の魔法陣を出現させました。そして、その魔法陣から、眩い光が発生し、馬車を包み込みました。


「これでよし。外をご覧ください」


 レナード様と共に、馬車の窓から確認をすると、馬車は光の膜のようなものに包まれていました。


「簡単な結界魔法の一つです。これがあれば、瘴気は防げるでしょう。あと、この辺りの瘴気を少しだけ浄化して、瘴気の濃度を下げました。とは言っても、事前にしっかりと準備をしたわけではないので、気休め程度ですが……」

「いやいや、凄いじゃないか!」


 私を褒めようと、レナード様が私の頭をワシャワシャと撫でてくださった。


「……なあサーシャ、随分と汗をかいているようだが……」

「聖女の魔法を使うと、とても疲労してしまって……」

「そうだったのか。まら、俺に出来ることがあればなんでもやるから、その間に休んでくれ」

「ありがとうございます」


 いついかなる時も私のことを気にしてくれるレナード様に感謝をしながら、私達は再び馬車に揺れ始める。


 ……動いてからすぐに、また眠ってしまったのは、ここだけの話にしてくださいませ……!



 ****



「ここが目的の村か……」


 無事に目的地に到着した私達は、馬車から降りて村の状況を目の当たりにした。


 やはりというべきか、村は瘴気で完全に汚染されておりますわ。私達は結界があるから何とかなりますが……結界が無い状態でこんな所にいたら……。


 いえ、まだ最悪の状況だと断定するのは早計です。まずは村人と会って、状況の確認をしましょう。


「レナード様、私達に張った結界ですが、あまり長持ちませんので、なるべく私から離れないようにお願いしますわ」

「ああ、わかった。ん? あれは……」

「レナード様、どうかされましたか?」

「今、そこの物陰から誰かが覗いていたような気がしてね」

「きっと村人ですわ。話を聞いてみましょう」


 私はレナード様の案内の元、人影があったとされる所に向かうと、そこには小さな女の子がいました。果実を大事そうに三つ抱える女の子は、涙目で私達の事をジッと見つめております。


「や、やめて……あたしをいじめないで!」

「大丈夫。私達は、あなたを虐めに来たわけじゃありませんの」

「…………」


 どうやら私達を信じられないみたいで、女の子は怯えたままでした。


 こんなに怯えて、かわいそうに……なんとか信用してもらって、この子にはもう大丈夫だって安心してもらいたいですわ。


「私は聖女のサーシャ。こちらのお方はレナード様。私達は、ここの人達が苦しんでいると聞いて、助けに参りましたの」

「せ、聖女様? でも、こんな貧乏な村に、聖女様が来てくれるわけないもん……」


 確かにこの子の言う通り、聖女に診てもらえる人は、権力やお金がある人でないと不可能です。

 運が良ければ、国の管理下に置かれていない聖女が偶然来るかもしれませんが……この様子だと、そんな偶然は起きていないようです。


「大丈夫、私はお金なんて必要としておりませんから」

「…………」

「信用できないなら、証拠をお見せしますわ」


 私は女の子の頬をそっと撫でると、彼女の顔を覗き込む。

 瘴気のせいで見にくいですが、女の子の顔には、黒いアザのようなものがあるのが確認できましたわ。


 これは、瘴気に侵された患者の症状です。まだ国のお抱えの聖女として活動している時に、瘴気の被害にあった方を何人も診ましたが、このアザが出ることがとても多いです。


「落ち着いて、深呼吸をして……大丈夫、私に身を任せてください」


 治療の邪魔にならないように、女の子に結界を張ってから、聖女の魔法を行使します。すると、彼女の頬に振れている手がほんのりと光り始め……光は女の子の体に広がっていきました。


「あたしの体、ピカピカ光ってる!?」

「私の魔法が、あなたの体を治しておりますの。だから、もう少しだけそのまま……」

「こ、こう?」

「ええ。とっても上手ですわ。そのままリラックスして……」


 治療を始めてから、ものの数分で無事に治療を終えると、女の子の体からアザが綺麗に無くなりました。


 無事に治療できてよかったですわ。この子の症状はとても軽かったので、瘴気の浄化と治療を同時に行っても短く済ませられたのは、不幸中の幸いでした。


 基本的に、聖女の魔法を使えば怪我や病気をすぐに治せますが、症状が酷いお方は、聖女の魔法を使ってもすぐに治らないお方もいらっしゃいます。


 こんな瘴気の中での生活を余儀なくされていたので、すぐに完治出来ないと覚悟していたので、本当に良かったです。


「凄い、体が軽いよ! って……お姉ちゃん、どうしたの?」

「な、なんでもありませんわ……」


 聖女の魔法を使った代償……酷い疲労に襲われた私は、その場で両膝を地面についてしまいました。


 相手の症状が軽ければ、疲労も少なくなるのは確かですが、それでもこの代償は重いものです。しかし、こんな所で休んでいる暇は、一秒たりともありません。


「あたしの病気を治してくれてありがとう、聖女のお姉ちゃん! あ、そういえば名前を言ってなかったね! あたしは、マリーっていうの!」

「マリーちゃんですわね。とても良いお名前ですわ」

「それでね、お姉ちゃんにお願いがあるの!」

「なんでしょうか?」

「あたしのママね、凄く具合が悪いの。だから、お姉ちゃんに治してもらいたいの。お礼にこの果物をあげるから、ママを治して!」


 こんな幼い子に必死にお願いをされたら、断るなんて出来ませんわ。元々するつもりもございませんが。


「ええ、もちろんですわ。私は、そのためにここに参ったのですから」

「ありがとう! こっちだよ!」


 マリーちゃんは、パーッと表情を明るくさせると、元気よく走りだしました。


 私もその後を追いかけたかったのですが、疲労のせいで思うように足が動きませんわ。


「サーシャ、無理はしない方が……」

「心配してくださって、ありがとうございます。しかし、私が立ち止まっていては、この村で犠牲者が出てしまいます。大丈夫です、こんな疲労はいつものことですわ」

「……なら、せめて少しでも休めるように、俺が君を運ぼう」

「えっ?」


 私がなにか言う前に、レナード様は私をお姫様抱っこでひょいっと持ち上げると、早足でマリーちゃんが向かった方向へと向かいました。


 ま、まさかこんなところでお姫様抱っこをされるだなんて……恥ずかしさと嬉しさが同時に……って、私は何を不謹慎なことを考えておりますの!?


「あ、来た! あれ、どうしてお兄ちゃんが抱っこしてるの?」

「お姉ちゃんが疲れちゃったみたいだから、俺が運んであげたのさ」

「そうなんだ! 二人はとっても仲良しさんなんだね!」

「そうよ。ところで、マリーちゃんのママは、この家の中にいらっしゃるの?」

「そうだよ。この紫色の霧が出てから、ママは……お姉ちゃん、ママを助けて!」


 マリーちゃんの仰る感じだと、彼女のお母様はとても症状が悪そうです。


 治療が間に合えばいいのだけど……そう思いながら、年季の入った家の中に入ると、そこには一人の若い女性が、息も絶え絶えな状態で眠りについていました。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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