第十三話 なにごとも諦めません!
「…………」
視線の正体は、この屋敷で働く使用人達のものでした。全員がというわけではありませんが、私のことをよくないように思っているようです。
……そうですわよね。いくらレナード様が迎え入れて、安全を伝えたところで、私の悪魔の子の血が消えるわけではありません。嫌われ、恐れられるのも無理はありません。
「はぁ、まったく……まさか私達が、あの人の身支度の手伝いをやらされるなんて、思っても無かったわ」
「ほんとにね~」
「この声は……」
なるべく周りの視線を気にしないようにしていると、開けられた廊下の窓から、聞き覚えのある声が聞こえてきました。
その声のした所を見ると、中庭で洗濯物を干しながら、談笑をしている使用人達が見えました。
「レナード様には困ったものね。まさか、あんな人間を屋敷に連れて来るだなんて」
「もしかしたら~、悪魔の子の特殊な魔法とかで~、レナード様を操っているとか~?」
「魔法に精通してるレナード様が、そんな手に引っ掛かるか?」
「可能性は低いと思いますが……なんにせよ、あのようなバケモノが屋敷に住んでいたら、気が気ではありませんわ」
「…………」
彼女達の会話を一部始終聞いた私は、見つからないように、静かにレナード様の部屋に戻ってきた。
あのような陰口をたたかれるなんて、いつものことなので、傷ついたりとかはしませんが……もしあのような会話がレナード様のお耳に入ったら、きっと悲しい想いをされるでしょう。
もしかしたら、陰口をたたいていたことに激昂し、彼女達を解雇してしまうかもしれません。
そんな話をしてる方が悪いと思う方も、一部いらっしゃるかもしれませんが、私がいなければ起こらなかった事態に発展するのは、あまりにも申し訳なく思ってしまいます。
「それなら、やることは一つ……私が悪魔の子の血があっても、害なんて無いとわかってもらうために、真面目に活動をするだけですわ。そうすれば、ここに来る前にたどり着いた村の方々のように、わかってくださるはずです!」
ここでも受け入れてもらえなかったと悲しむことも、立ち止まることも簡単です。むしろ、そうした方がきっと楽でしょう。
しかし、私は何事も諦めるということはしたくありません。それが、直接的に聖女の使命やレナード様との誓いに繋がらないものだとしても。
「とはいったものの、今の仕事は休むことなのですよね……こうして休むことに集中したことなんて初めてなので、とても手持ち無沙汰ですわ」
一瞬、私が危ない人じゃないとわかってもらうための一環として、屋敷の仕事の手伝いをしようと思いましたが、警戒している人間が急に手伝いを申し出たら、余計に警戒させてしまうと思い、踏みとどまりましたわ。
「うーん、この部屋のお掃除をするとか? でも、掃除の余地なんて一切無いくらい、ピカピカな部屋ですし……あら?」
どうしたものかと頭を悩ませていると、机の上に置かれた通話石がピカピカと光っておりました。
もしかして、レナード様からの連絡でしょうか? なにかあったら連絡すると仰っておりましたわね……まさか!?
「はい、サーシャです!」
『サーシャ、俺だよ』
「レナード様、どうかされましたか!? もしかして、なにか問題でも起こったのですか!?」
『いや、特に問題は無いよ。まだ目的地に向かってる途中なんだが、もう君が恋しくなってしまったから、連絡したんだよ』
心配する私などよそに、レナード様は至って普通にお話をしておられます。
何事も無くて良かったですし、私も寂しいので話せるのは嬉しいですが、変な誤解をしてしまうようなことは、控えていただきたいですわ……。
「それならよかったですわ。私も、レナード様の声を聞きたかったので」
『な、なんだって!? 俺達は、離れていても考えていることが一致するほど、愛し合っていることが証明されてしまったか……嬉しすぎて、目の前にサーシャがいるように見える……』
「いませんから! それは幻ですわ!」
『幻? 幻でも、サーシャなら愛せる自信があるぞ!」
「あ、愛するなら本物の私にしてください!」
「ははっ、それもそうだな! ところでサーシャ、なにかあったのかい?』
「えっ?」
『声に少し元気がないように聞こえてね』
「…………」
一瞬だけ、先ほど言われた陰口のことを報告しようという考えが、脳裏に過ぎりました。
しかし、レナード様に心配はかけたくありませんので、グッとこらえました。
「心配しすぎですわ、レナード様。私はのんびりとお休みをいただいております」
『それならいいんだが……用事が終わって帰れそうになったら、また連絡するよ』
「わかりました。頑張ってくださいね」
『ありがとう。サーシャの応援があれば、一ヶ月は無休で動けそうだな!』
「そんなの駄目ですわ。ちゃんとレナード様もお休みくださいませ」
『冗談だよ。それじゃ、また後で。愛してるよ』
愛の言葉を最後に、通話石からレナード様の声は聞こえなくなりました。
不意打ち気味にそんな言葉を仰るなんて、ずるいですわ……ほら、化粧台の鏡に映る私の顔、こんなに真っ赤になっております……。
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