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第一話 悪魔の子と呼ばれし聖女

「もう治療は終わりましたか? では、失礼いたします。ほら、行きますよ。早くしないと、呪われてしまうかもしれませんもの」

「ああ。まったく、悪魔の子に治療をされてしまうなんて……ああ気持ち悪い」


 私の治療が終わったのを機に、部屋の隅で治療を見守っていた、派手な服を着た女性は、自分の旦那様を連れて、部屋をそそくさと後にしました。


 ここに来られた時の旦那様は、随分と調子が悪そうでしたが、あれだけ急いで歩けるのなら、もう大丈夫でしょう。本当に良かったです。


「これで外回りの三組が終わりましたね。あとは、我が家にお越しになられる、三組の治療……頑張りましょう」


 無駄に広い部屋にポツンと残された私は、やや頼りない足取りで、部屋を後にしました。

 すると、長い廊下で掃除をしていた二人の女性が、私のことをチラチラと見ながら、何か内緒話をしておりました。


「やだ、聖女の皮を被った悪魔の子が出てきたわよ……」

「恐ろしいわねぇ。前髪も伸びてて気味が悪いし、まさに悪魔の子ね」


 内緒話と言うには、あまりにも大きな声で話す女性達に、私は特に怒ったり悲しんだりはせず、ただ深々とお辞儀をしてから、その場を後にしました。


 あのような陰口を言われるのは、なにも今に始まったことではございません。なので、もう慣れてしまっております。


「こんなことで悲しんでる暇があったら、聖女として一人でも多くの人を救いませんと」


 私は自分で自分を鼓舞するように、ふんっと小さく握り拳を作ると、今いた建物を後にして、次のお方がいる所に向けて、馬車に乗りました。


 予定では、屋敷に帰るまで三十分くらいはかかるはず。その間に、少しでも疲れを取っておきませんと。


「…………」


 キャビンの窓から外をボーっと眺めていると、うっすらと窓ガラスに自分の顔が映りました。

 背中まで伸びる銀色の髪と、前髪で片目が隠れている私の顔からは、少々疲れが見て取れます。


 こうして改めて自分の顔を見てみると、彼女達が私を気味悪がるのも無理はありませんわね。だって、こんなにわざとらしく片目だけ隠しているのなんて、違和感しかありませんもの。


 でも、この髪の下には……悪魔の子の象徴とされる、真っ赤な目が隠されております。


 こんなものを晒していたら、皆様は更に私のことを恐れるでしょう。それは、私の望むことではありません。


「……ふぅ。こんな疲れた顔、聖女として相応しくありませんわ。私は聖女として、そしてあの誓いを果たすために、苦しむ方々を救う立場なのだから、もっとしっかりしなければ」


 ――私は幼い頃から、聖女の魔力という特別な力を持っています。


 聖女の魔力とは、私が住むシエロ国を作ったとされる、初代の聖女様の力を強く受け継いだ女性のことを指します。


 聖女は主に怪我や病気の治療を行い、苦しむ人々を助かるほか、瘴気と呼ばれる、生命体に対して有害な魔力を浄化することや、瘴気から国を守る結界を維持するのが、聖女の大切な役目です。


 中でも私は、数少ない聖女の中でも強い力を持っているそうで、国家のお抱えの聖女として活動しておりますわ。


 そんな聖女である私が、どうして治しても感謝どころか、恐れられているのか。それは、私の隠している目によるものですの。


 私の目は、鮮やかな鮮血のように赤く染まっております。この目は昔から、恐ろしい悪魔の血を受け継いだ人間と言われていて、迫害されてますの。


 本来なら、私も迫害されてもおかしくありませんが、聖女の力も持っていることから、なんとか今日もこうして過ごせておりますの。酷く嫌われてはおりますけどね。


「あら?」


 治療で失った体力を少しでも戻そうと、ゆっくりと過ごしていると、キャビンに備え付けられている魔力を帯びた宝石――通話石が光っていた。それをコンっと優しく叩くと、通話石から声が聞こえてきた。


「はい、サーシャでございます」

『私だ。先程から、先方が早く戻ってこいと喚いている。全く、何をグズグズしているのだ』

「……? お義父様、お言葉ですがまだ約束の時間にはなっておりません」

『バケモノの分際で、偉そうに意見をするな! 貴様は黙って聖女としての役目だけを果たせばいいのだ!』


 通話の相手である私のお義父様の怒鳴り声が、狭いキャビンの中に響き渡る。


「……はい、出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ございません」

『ふん、生意気にも意見した罰として、今日の夕食は与えん。それと、私の貴重な時間を二十秒も奪ったことも、覚悟しておけ』


 その言葉を最後に、通話石から何の声も聞こえなくなりました。


 ……事情を知らない他人から見たら、完全に理不尽な場面に見えるかもしれないが、このようなことは、私にとって、日常でしかありません。気にしていたら、命がいくつあっても足りないでしょう。


 今日はもう食事をいただけなさそうですし、なおさら体力を消耗しないように、ゆっくりと過ごさないといけませんわね……。



 ****



 無事に屋敷へと帰ってきた私は、患者のいる部屋へと向かう途中、中庭で見覚えのある人影を見つけました。


「あら、あれは……エドワード様ではありませんか」


 彼の名前は、エドワード・ライエン様。我がメルヴェイ家と同じ伯爵の爵位を持つ家の長男で、私の婚約者です。

 婚約者といっても、両家の家長が決めた婚約者で、お話したこともほとんどありません。なので、正直に申し上げると、彼に特別な感情は持っておりませんの。


 それにしても、メルヴェイ家の屋敷にお越しになられるなんて、珍しいですわね……私に何かご用でもあるのでしょうか? でも、そのような話は全く聞いておりませんし……。


「よく見たら、女性と一緒にいらっしゃるようですわね……あの女性、どこかで見たような……?」


 一緒にいた女性に対して考えていると、二人は抱き合いながら、そのままキスをしました。


 もしかしたらと思っておりましたが、どうやらエドワード様は、また見知らぬ女性と親しくしておられるようですね。


 エドワード様は筋金入りの女性好きで、私の知らない女性とお会いしているという話は、何度も耳にしたことがございます。これもその一部でしょう。


 まさか、私の家で別の女性と会っているのは少々驚きましたが、裏切られて悲しいとか、腹立たしいとか、そういった感情は湧いてきません。


「さて、早く行きませんと」


 まだ女性と仲睦まじく過ごしているエドワード様を尻目に、私は約束している部屋へと向かいました。


 その後――日が暮れる頃には、三人のお方には元気になってもらえましたが、私は既に聖女の力を使った疲労でフラフラになってしまいました。


「今日も疲れましたわ……どうして私は、聖女の力を使うと、こんなに疲労してしまうのでしょうか……?」


 他の聖女の話を聞いている限りでは、私のように疲労するとは聞いたことが無いのですが……とにかく、早く部屋に戻って休みましょう。


「サーシャ様、お疲れのところ申し訳ありませんが、ヴァランタン様が大至急で私室に向かうようにとの事ですわ」

「お義父様が……? わかりましたわ」


 今日は夕食がいただけないので、早く休みたかったのですが、お義父様の呼び出しを無視したら、後で何を言われるかわかったものではありません。早く向かいませんと。


「ふぅ……ふぅ……お義父様、サーシャです」

「入れ」


 息を切らしながらも、なんとか屋敷の三階にあるお義父様の私室に到着した私を出迎えたのは、少々髪が薄くなってきた恰幅のある男性と、先ほどお見かけした女性でした。


 先程は遠目だったのでよくわかりませんでしたが、こうして改めて見ると、少々幼さを残した可愛らしい顔立ちに、ゆるくフワッとした金色のセミショートな髪が良く似合っています。とても小柄なのも相まって、小動物のような愛らしさです。


「お久しぶりですわ、サーシャお義姉様!」

「……え、もしかして……ルナ?」

「はい!」


 私をお義姉と呼ぶ彼女の名は、ルナ・メルヴェイ。私がこの家に来る前に、お世話になっていた教会で一緒に過ごしていた、同年代の女の子ですの。


 まだ私達が幼かった頃、聖女の力を評価されて、大きくなったらメルヴェイ家に引き取られることが決まった日から、私達は義理の姉妹になりましたの。一応私の方が誕生日が早いので、お義姉様と呼ばれておりますわ。


 まさか、ルナが急に来るとは驚きですわ。なにせ、私が本格的にこの屋敷に住むようになった七年前から、一度も会っておりませんでしたのよ。おかげで、すぐにルナだと気付けませんでした。


「聞いてお義姉様! わたしも聖女の力がちゃんと扱えるようになりましたの!」

「まあ、おめでとうルナ。では、これからは予定通り、私の補佐として働きますのね」


 実は、以前からルナは私を支える補佐の聖女になることが決まっておりました。あまり気乗りはしませんが、決定事項だから仕方がありません。


「いえ! 新しい国の聖女として、ここに住むことになりましたの!」

「え、国の聖女って……?」

「ふふっ! わたし、お義姉様の聖女の座に就くことになりましたの! それと、お義姉様の婚約者の、エドワード様とわたしが、改めて婚約を結ぶことになりましたの!」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、モチベーションに繋がりますので、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


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