中身がおっさんの息子と、中身が子どもの僕
僕には九歳になる息子がいる。普通の小学三年生。
しかし、たまに息子の中に、おっさんが入っているのではないか? と疑ってしまうことがある。
例えば、家族三人で近所のファミレスに行った時。
僕が意気揚々とハンバーグセットを注文する傍らで、静かに鯖の塩焼き定食を指差す。定食に付いている味噌汁を一口啜り、「あぁ」と満足気に息を吐く。
思えば、お子様ランチとかキッズプレートとかを頼んでいるのを見たことがない。
そして、テレビ。
なぜか時代劇ばかり見る。子どもに人気のアニメも見ているけれど、嫌々見ているのがわかる。
「興味ないんだけどね〜。ほら、話、合わせないとマズイでしょ」
まるで、上司が部下に合わせるような口調で、湯呑みに入った玄米茶を啜る。
風呂上がり。
僕はなぜだか牛乳を飲みたくなる。ビールよりは健康だろうけれど、なんだか自分でも恥ずかしくなる時がある。
息子は水道からグラスに水を注ぎ、一杯を飲み干す。妻が冷蔵庫に入っているミネラルウォーターを勧めるけれど、
「水道水で十分!」
と、言い放つ。
そして、今日。
新たに息子の中に、おじさん混入の疑いが強まった。
先月から、この週末は電車で一時間程離れた場所にある某テーマパークに行く予定にしていた。
僕はガイドブックを買ってきて、どのアトラクションに乗るか、どのショーを見るか具体的に考えては、わくわくしていた。
仕事を終える度、テーマパークに行く日が一日近いた、と内心小躍りしていた。
息子も楽しみにしていたはずだ。それが前日になって「行けない」と言い出した。どうしてかと問うと
「友達にサッカーしようって誘われた。付き合いの方が大事だからね」
と深く頷きながら言う。まるで、接待ゴルフだ。
「智君、あんなに楽しみにしてたじゃない! ローリングコースター乗るんでしょ⁈」
妻が必死に説得するが、息子は首を横に振るばかり。
「ローリングコースターはさぁ、今後も乗るチャンスあるじゃん。でも、友達とのサッカーは今しかできないんだよ」
次は大きなプロジェクトに関わっている、サラリーマンのようなことを言う。
「だから、パパとママ、二人で行ってきなよ」
それって本来、よくあるシチュエーションでは、父親が「お前とママで行ってきなさい」って言うんじゃないか?
「じゃ、おやすみ」
息子はそう言って自分の部屋へと入っていく。
ダイニングテーブルの上には、テーマパークのチケットが三枚置かれていた。
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