1話 お持ち帰り
「きみ……どうしたの?」
学校からの帰り道、俺は雨の中傘をさしながら歩いていると、奇妙なモノが捨てられているのを見つけた。
家までの通り道にある公園のベンチの隣に、それはあった。
段ボールの中で『どなたかご親切な方、どうぞ拾ってあげてください』と書かれた板を首に下げながら、寒そうに疼くまる──少女が。
いやなんでだよと思いながらも俺はその少女の元へ行き、声を掛けた。
「……?」
茶色の長い髪に、ルビーのような赤い色合いのくりくりとした目。
細身の体に、豊満なバスト。
顔は童顔で、非常に可愛らしく、年は俺と同じくらい。
まさに男にとっての理想そのものを具現化したような少女は、安っぽい下着の上に中が丸見えのネグリジェを着ていて、膝を抱えてただただ黙っていた。
だが、俺が尋ねてから数十秒とゆっくり時間をかけながら顔を上げ、俺と目を合わせると。
「……寒い」
少女は泣きそうな顔でそう言った。
当たり前だ。
秋の季節に雨の中裸同然の格好で疼くまっていて、寒くないはずがない。
「大丈夫か?」
俺はそう言うと共に着ていた学ランを脱ぎ、急いで少女に羽織らせる。
「!」
それで俺は少女の体が余りにも冷たい事に気付いた。
この冷たさからして、彼女が捨てられたのはほんの1時間や2時間そこらではないだろう。
よくよく見てみると顔色は真っ青で、小さくて可愛らしい唇は紫色に染まってしまっている。
かなり危ない状態だと思い、取り敢えず少女を傘の中に入れた。
「帰らないのか?」
「……」
俺がそう聞くと、少女は再度俯いて首を横に振った。
「……まさかとは思うが、本当に捨てられたのか?」
「……」
すると今度は首を縦に振った。
「……うーん」
どうしたものかと、俺は後頭部を掻いた。
俺は再度ダンボールに書かれた文字を見る。
『どなたかご親切な方、どうぞ拾ってあげてください』。
やはり、書いてあるのはそれだけだ。
だが、そんなことが、書かれてある。
じゃあ、俺が拾って──
「ッ……!」
俺は、今自分がすごく馬鹿な事を考えているのに気が付いた。
……だが、気付いただけで、止められなかった。
恐らく、この少女が捨てられてから出会った人物は、俺だけだ。
もし仮に見つかっていたら、既に警察が呼ばれている事だろう。
俺は、ゴクンッと生唾を飲み込んだ。
ここで俺が行う事は、もちろん警察に電話することだ。
そんなの、分かっている。
この少女は親に捨てられた。
これはもう間違いなく、警察案件だ。
頭では、分かっている──だけど。
「うちに来るか?」
俺の口は、いつの間にかそんなことを言っていた。
そして俺は、少女に手を差し伸べた。
「うん!」
少女は俺の言葉に驚いたように大きく目を開くと、少しだけ微笑みながらそう短く言った。
そして、俺の手を掴んでくれた。
まるで幼い子供のようだ。
だが透け透けのネグリジェから見える少女の身体はちゃんと女性のモノであり自然と頬が赤くなっていく自分がいたが──今はそんな場合ではないと、俺は頭を振った。
そして俺は少女の首の板を取り、それをバックの中にしまう。
「じゃあ、行こうか」
俺はそう言い、少女を連れて家に帰った。
「やっぱ、これ犯罪だよなぁ……。犬じゃあるまいし」
「?」
帰り道、俺は小さくそうつぶやいた。
これから警察と目を合わせられない自分がいそうで怖い……。