45.愚かなリンウッド
リンウッドが家へ帰ると、部屋は薄暗かった。陽が伸びたと言っても17時を過ぎれば室内は暗い。暮らせない明るさでは無いが、何か作業しようと思えば暗いと思える。
リンウッドは違和感を覚えながらも部屋の明かりをつけた。灯る暖色の光は部屋全体を照らし、リンウッドの中にある違和感を大きくさせた。
モニカが居ないのだ。
いつもなら居るであろう場所にモニカがいない。居ない時はメモがあるのにそれもない。
シンと静まり返った部屋にはうさぎもいなかった。
「モニカ……?」
リンウッドは部屋の中を歩きながら、モニカの姿を探した。そんなに広くはない部屋だ。ひと目見ても居ない事はわかる。
どこにいったのだろうとリンウッドは立ち止まり、2階へと続く短い階段を見た。
リンウッドは基本リビングで過ごしているが、モニカは家主の為部屋がある。しかし、年頃の女性の部屋だ。リンウッドは入った事が無かった。
「モニカ?」
リンウッドは名を呼びながら階段を登る。そして初めてモニカの部屋の扉をノックした。
「モニカ、いる?」
リンウッドの呼びかけに部屋から応答は無い。だが耳を澄まして、扉の前に居れば中からギシ、と音がした。まるでベッドが軋むような音にリンウッドはもう一度声を掛けた。
「モニカ?」
再度呼び掛けられた声に反応するように動作音が聞こえてくる。タシンという音も聞こえ、うさぎも部屋にいるであろう事が分かった。
リンウッドはモニカが部屋にいる事に確信し、返答を待つ。いつもならば直ぐに返ってくる返事だが、寝ていたのだろう、とても反応が遅い。
それでも苛立たずにモニカの返事を待てたのは家に居たという安心感からなのかもしれない。
「リンウッド、帰ったの?」
のんびりとした足音と共に聞こえた声にリンウッドは安心した。そして扉を開け、現れたモニカの姿を見てあからさまにほっとする。
「寝てた?」
「少しね」
モニカは赤い目を擦りながら、そう答えた。寝起きだからと言えばそうなのかもしれないが、いつもより元気がない様子が少し気にかかる。
(ボクがいない間に何があった?)
気にはなったが、聞くのは気が引ける。リンウッドは少し間を置いてから「そう」と返事をした。
モニカの足元からぴょこぴょことうさぎが出てくる。うさぎはリンウッドを黒く丸い目でじっと見た後、リンウッドの足をわざと踏み付け下へと降りていった。いつもならしない行動だ。寧ろうさぎもといホーンラビットは一応リンウッドの使い魔である。主人の足を踏んでいくなど考えられない事だ。
リンウッドは信じられないとばかりに目を見開き、うさぎの遠ざかる尻を見る。
全く今日はモニカといい、使い魔といい様子がおかしい。
「何かあったの?」
リンウッドは自分を通り過ぎ、階段を降りるモニカを追いかけながらそう訊ねた。モニカは階段の途中でぴたりと動きを止め振り返るとぎこちなく微笑んだ。
「聞きたい事があるの」
「聞きたい事?なに?」
リンウッドはモニカが自分の事で悩んでいた事に少しだけ嬉しくなる。その胸が躍ってしまう理由は分からないが、居ない間も考えてくれている事実にモニカの中で自分の存在が大きくなっている事は間違いない。
片方の口端だけニヤリと上がり、目元も緩む。リンウッドはじっと見てくるモニカの瞳が冷たい事にも気付かず、笑みを浮かべた。
モニカはそんなリンウッドの様子を見ても、一度ゆっくり瞬きをしたのみで直ぐに歩き始める。そして「来て」とリンウッドへ言うとリビングにある小さめなソファーへと足を向けた。リンウッドは少し浮かれた気持ちのまま、言われた通りにモニカの後ろをついていく。
モニカの表情は前を歩いている為、リンウッドからは見えない。だが、この時少しでも見えていればリンウッドはそんな浮かれた気持ちではいれなかった筈だ。
モニカはソファーの近くへ立つとローテーブルに置かれていた何かを手に持つ。それを見てリンウッドは大きく目を見開いた。
「これ、わかる?」
モニカは泣きそうな顔でそれを顔の横に掲げた。
それはリンウッドが隠していた茶封筒。決してモニカには見られてはいけない書類だった。
次回更新は4/6(木)です。
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