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43.茶封筒


 そんな事ある訳ない。モニカの頭は真っ白になったが、それでもリンウッドを疑う事は無かった。


 パウルが人相書き片手に大きく開けた玄関扉から勢いよく入ってくる。家主だが、押し退けられモニカの体はふらりと揺れた。それは恐らく信じられない言葉を聞いたショックというのもあるのだと思う。足に力が入らなかった。


 足が一歩後ろへふらりと下がり、暫く玄関の前にいたモニカだったが、パウルの「モニカ!」という声で意識を浮上させる。慌てて玄関を閉めると、パタパタとモニカはパウルの元へと急いだ。


「モニカ、よく見てほしい、ここ」


 ダイニングテーブルに広げられた紙、それは間違いなくモニカの顔が描かれている。今の自分と違う点は髪の長さと陰気な顔だろうか。

 名前もモニカ・ユディス、合っている。年齢も18、これも合っている。


 そしてパウルが指差す先、そこに書かれている文字にモニカは目を見開いた。


「報奨金があるの……?」


 そこに書かれていたのはモニカを見つけた人に報奨金を払うという文言とその金額1,000,000Gという文字だった。


 1,000,000Gと言えば平民が一年、いや二年は遊んで暮らせる大金である。それがモニカに掛けられている。その事実に腰を抜かしそうになった。


「俺、なんか見た事あるなあって思ってたんだ」


 パウルは憤った顔をしながらそう言った。まるでリンウッドがお金の為にモニカと居るのだと言われているようで少し悲しくなる。


 しかし、それはパウルの勘違いだ。

 何故ならモニカはリンウッドが魔力が欲しいから一緒に居る事を知っている。だからお金などの為にモニカと居る訳はないのだ。まあ、それもどうかと思うのだが。


 それでもモニカが否定しないからか、パウルは語気を強めたまま話を続けた。

 

「前話した事あると思うけど、無人島に一人住んでる変わり者いるって話覚えてる?」


 モニカは朧げな記憶で頷く。正直あまり覚えていないが、そういう話をした事があるかもしれない。


「そこにあの人が居たんだ、間違いないよ。あの見掛けじゃ間違いようがないし、それに」


 モニカの曖昧な頷きでも、パウルの言葉は止まらない。


 違う、リンウッドはそういう人では無いと伝えたいがその隙がなかった。焦れるようにモニカは何度も口を開く。だが、パウルは人相書きを見ながら話しているのでモニカの様子には全く気付かず、話し続ける。


「今思えばだけど、あれはモニカの話をしてたんだと思う。これを見せながら話してたし」


 違う、と言いたい。きっとそれはパウルの見間違いで、そもそも違う人で、と。しかし自信満々なパウルを見ていると不安になってくるのも事実だ。


(だって、リンウッドは魔力が欲しいから)


 そう、リンウッドはモニカの魔力が欲しいから一緒に暮らしている。お金なんかでは無い。それに仮に家へ送り届けるのが目的だったら何故まだ此処にいる?

 リンウッドの性格を考えると即行動の人だ、そんな人が何ヶ月も何もせずに此処にいる訳はない。


(違う、絶対に違うわ、だって)


 モニカは何度も何度も同居に至ったきっかけを思い出し、パウルの言う事を頭の中で否定する。はたから見ればボーっとしているようにも見えた。しかし、頭の中は忙しなく言葉が浮かんでいる。


「モニカ?」


 言うべき事は全て言ったのか、パウルは紙から視線を漸く上げモニカを見た。モニカは名前を呼ばれ、ハッとした顔でパウルを見る。


「いや、えと、」


 出てきたのは音を成しただけのもの。パウルに違うと伝えると思ってはいたものの、うまく言葉にならなかった。それでも言葉を頭の中で反芻し、モニカはしどろもどろとなりながら口を開く。


「リ、リンウッドはそういう人じゃないの。なんていうか、その、お金で動かないっていうか。……あと、思いついたら直ぐ行動って人だから分かってたら直ぐにね、あの……連れてくと思うの。だから見間違えだと思うわ、絶対」


 モニカの言葉にパウルは悲しそうに微笑んだ。先程の言葉が丸ごと無視されたようなものだから仕方が無い。


 何とも気まずい空気に、モニカは俯く。するとパウルは穏やかにモニカへ訊ねた。


「モニカは、あの人の事好き?」


 よく分からない質問にモニカはゆっくりと俯いていた顔を上げる。


 どういう意図で聞いているのか分からず、頭を傾げてしまった。


「好き……?」


 モニカの声にパウルは切な気に微笑み、また質問をした。


「じゃあ信用してる?」


 信用、という言葉も反芻してみる。


 モニカは最初、リンウッドを信用していなかった。見た目の事もあるが、言動もそうだし、行動もそうだ。全部が信用出来なかった。

 しかし、一緒に暮らしていくにつれ、そんなに悪い人間ではない事を知った。ご飯の事もそうだし、うさぎとの接し方もそう。それに気が向いたら畑仕事を手伝ってくれるところもモニカは嬉しかった。


 モニカはいつの間にやらリンウッドを信用し、信頼するようになっていた。

 

「信用はしてると思う」


 モニカは真っ直ぐにパウルを見ると、はっきりとそう言い切った。パウルはテーブルにある紙へ視線を移し、短く笑うと紙を折り畳み、ズボンのポッケにねじ込む。


「そっか、じゃあ俺の話は混乱したよね」


 くしゃりと微笑んだパウルはそう言うと「急に来てごめんね」とモニカの方を見ずに玄関へと向かう。それをモニカは視線だけで追いかけた。

 来た時と同じような速度で玄関へ向かったパウルは玄関扉のノブを持ったところでピタリと止まった。そしてモニカの方へ振り向く。


「ごめん、モニカ。でも僕はやっぱりあの人だと思う」


 そう言ったパウルの顔は笑っていたが、悲しそうであった。


「じゃあ、また市場で」


 パウルは直ぐに前を向くと静かに扉を閉め去っていく。


 部屋にポツンと残されたモニカは嵐のような出来事に疲れ果て、リビングにある小さめなソファーに身を沈めた。


「はぁーー……」


 大きく息を吐き、目を閉じる。

 そしてリンウッドの事を疑うパウルの事を思った。きっとほぼ会った事がないから、疑ってしまうのだと思う。仲良くなればそんなに悪い人間で無い事がわかる筈だ。


「そんな訳ない、そんな訳」


 それでも何処か心の隅の方から疑う声が聞こえる。信用をしていても他人の言葉で揺らいでしまうのは良く無い事だ。


 モニカは自分の流され易さにガッカリしてしまう。


 そうしているといつもクッションの上で寝ているうさぎが何かを咥えてぴょこんぴょこんとモニカの元へやってきた。


「うさちゃん、何それ。何処から持ってきたの?」


 猫撫で声で額を撫でると角の感触が指先に当たる。うさぎはモニカが撫でると咥えていた茶封筒を床に落とした。


「何だろう、これ」


 モニカはうさぎを撫でつつ、封筒を拾う。そして封もされていない中身を覗いてみた。


「え」


 覗いた瞬間、心臓が一気に跳ね上がる。ドキドキと嫌な音を立て、モニカの体が指先から震え出した。震える指先でその中身の紙を摘み、じっと文字を辿る。


「なにこれ」


 そこに入っていたのはモニカの人相書き、それと詳細な調査結果だった。




次回更新は明日。


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宜しくお願い致します。

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