41.知る由もない
薬草の事はウーヴェが解決してくれそうだからそれ程心配はしていない。しかし、実家の事はとても気になる事案だ。
戻る気は更々ない為、見つかる事は避けたい。もう半年以上見つからなかったのだから大丈夫かと思うが、それでも更に用心した方が良いだろう。
モニカは家のある森の中をぽてぽてと歩きながら今後の対策を考えていた。
魔力があるのだから折角だからこれを活用したい。しかし制御が出来ないモニカには難しい事だ。
「リンウッドに教えて貰う?」
元は魔術師というリンウッド。魔力を使う事に慣れてそうだと思ったが、あの事を思い出しピタリと足を止める。
(いや、駄目だ。ここぞとばかりにキスされる!)
ただでさえ慣れないキスをぶちゅぶちゅされたら大変である。心臓がいくつあっても足らない。
モニカは家までの最後の直進をのんびりと歩く。薬屋を出た時は二つのショックで落ち込んでいたが、今はだいぶ落ち着いてきた。薄暗くなった道を真っ正面にある家を目指しながら進んでいるとぼんやりと庭に桃色が浮かんでいる事に気付く。
少し足を速めたモニカは庭に座り込んで野菜を見ている同居人の名を呼んだ。
「リンウッド帰ってたんだ」
声を掛ける前にはもう既にリンウッドはモニカを見ていた。ぶすっとした顔は明らかに不機嫌である。あまり見た事のない顔にモニカはなんだなんだと驚いたが、口を開いたリンウッドの言葉に笑ってしまう。
「何処行ってたの?」
「えぇ?」
半笑いで答えたのはまるで子供の様だと思ったからだ。リンウッドはモニカが笑うと更に不機嫌そうに顔を歪めたが、そんな事気にせず質問に答えた。
「薬屋さんに呼ばれててね。ちょっと出掛けてたの」
「何で呼ばれたのさ」
「もう薬草買い取れないって。取引やめる事になっちゃったの」
モニカの言葉にリンウッドは不機嫌な顔を驚いた顔へ変化させた。その変わり様にまたモニカは笑う。
「それなのにそんな笑ってるの? 空元気?」
確かに笑っている。店を出た時はあんなに落ち込んでいたのに。とぼとぼと歩いていた時が懐かしい。
不思議な事だが、モニカはリンウッドの不貞腐れた顔を見て元気が出たようだった。
モニカは笑っている口元を押さえ、首を横へ振った。
「空元気ではないみたい。聞いた時はショックだったわ、確かに。でも今はだいふ平気」
訝しげな視線をしたリンウッドは「本当に?」と聞くと薬草の生えている箇所を指差した。
「じゃあ、あれどうするの? 潰して野菜にする?」
どうしても駄目ならそれでも良いが、今はまだウーヴェという希望がある。それを聞いてからでも遅くはないだろう。こんなに大切に育てて来た薬草だ。引っこ抜くのは抵抗がある。
「前言った魔術師さんが見に来てくれるからそれまではこのまま」
「何で魔術師が関係あるわけ?」
モニカの言葉を遮ってリンウッドはそう言った。確かに何故取引が止まるのか原因を話していなかった事に気付き、モニカはその理由を説明する。
「なんか私が作る薬草で薬を作ると効きすぎちゃうんだって」
「どういうこと?」
「だからそれを魔術師さんに調べて貰うの」
リンウッドは片眉を上げ、面白くなさそうに口を尖らせた。やはりまだ機嫌は治ってないようだ。
モニカは座り込んでいるリンウッドの肩を叩くと、ヘラッと微笑む。
「家の中入ろ。もう暗いし」
モニカの促しにリンウッドは不服そうに眉を顰めたが、立ち上がるとモニカの横に移動した。
「掲示板みたいの作らない? 何処に行くとか書くやつ」
「そこまでしなくて良いんじゃない?」
余程帰ってきてモニカがいなかった事が嫌だったのか、リンウッドはそんな提案をしてきた。しかしモニカはそれの必要性を感じず、遠回しに却下する。
それを聞いてリンウッドは「だったらせめてメモ置いてって」とぶつくさと言ってきた。それなら別に良いかもしれない。
モニカはしょうがないな、と笑うと玄関の扉に手をかけた。
「そういえばね」
家へ入ったモニカは洗面所へ向かいながら横を歩くリンウッドへ話し掛ける。リンウッドは口を突き出しながらではあるが短く相槌をうった。
「うん」
「私の家族が探してるみたいなの」
しかし、その言葉にリンウッドは目を見開く。そして息を止めたように動きを止めた。
「絶対探さないと思ってたのにな。驚きだよね。絶対戻る気はないけど!」
そう言って笑うモニカは、立ち止まり背後にいるリンウッドの事など気にせず、洗面所の引き戸を開ける。その時、リンウッドがどんな顔で自分を見ていたかなど知る由も無かった。
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