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39.薬屋の親子


 リンウッドはそれから特に何を言うでもなく、頬から手を離すと、モニカの飲みかけの水を呷った。


「んん?」


 あまりに突然で、不可解な行動にモニカは変な声を出す。喉が乾いていた風には見えなかったが、カラカラだったのだろうか。リンウッドはモニカにはない喉仏が上下させ、半分以上残っていたコップの水を飲み干した。

 勢いよく飲んでいたせいか、口端に水が垂れる。それをリンウッドは親指で拭うとモニカのグラタン皿を両手で包むように持った。


「何してるの?」


 リンウッドが何をしているのか分からず、モニカはそう質問した。リンウッドはゆっくりと皿から手を離すとテーブルに置いていたスプーンをグラタンへ差し込んだ。


「温め直したよ」

「すっすごい」


 スプーンを上げればホワホワと湯気が上がる。少し固まっていたチーズもトロトロだ。


 つまりリンウッドはこれをする為に、モニカの飲みかけの水を飲んだという事なのだろう。いつもなら迷いなくするキスではなく、飲みかけの水から魔力を摂取した事にモニカは少し驚く。だが、いまだにキスは慣れない。しないに越した事は無い。


 モニカは少しホッとした顔をし、微笑んだ。


「ありがとう」

「いーえ」


 リンウッドは投げやりな返事の後、モニカの顔を見て何を思ったか口端をニヤリと上げた。そして安心して微笑んでいるモニカの無防備な唇に触れるだけのキスを落としたのだ。


「なっ、なななな……!」


 その鮮やかな手口にモニカは呆気に取られ、一瞬で離れた唇を両手で覆う。少し油断したらこれだ。本当に油断ならない。


 真っ赤な顔で抗議をすれば、意地の悪い笑みを浮かべたリンウッドはふらふらと片手を振った。


「じゃ、ちょっと出てくるね。夕方には帰るからさ」


 そう言ってリンウッドは楽しそうに家の玄関から出ていく。その足取りは心なしか弾んでいるようにも見えた。

 モニカはリンウッドが出て行った玄関を真っ赤な顔で見ていたが、紅潮する頬が熱くなり両手で顔を仰ぐ。


「もうっ!」


 その声は以前よりも怒りを孕んではいない。その証拠に少し口角が上がっていた。モニカは赤い顔をパタパタと冷ましながらホカホカのグラタンを見る。


 顔は熱いが、折角温めてくれたのだからとモニカは残りのグラタンを口に運んだ。程良い熱さのクリームソースが何だかんだ嬉しかった。



 食事を終えたモニカは食器を洗うと、出掛ける準備をし始めた。実は今日はパウルから話したい事があると薬屋に呼ばれているのだ。

 何やら深刻そうな顔で今日の約束をされた為、物凄い不安だ。だがしかし聞かない事には何も分からない。モニカは「よし!」と気合を入れ、村の薬屋へと向かった。


「こんにちは〜」


 モニカが様子を伺うようにゆっくりと薬屋の扉を開ければ入り口のベルがカランカランと鳴る。その音で振り向いたのはパウルの父親であるこの薬屋の店長だ。


「おう、モニカ来たかい」


 ひょろりと長いパウルとは反対にどっしりと恰幅の良い店長、スミロはニカッと歯を出して笑い、モニカへ手招きをする。


「こっち来な。ここ座って」


 カウンターから出てきたスミロは店内の端にある小さなテーブルセットへモニカを座らせると向かい側に自身も座った。


「あ! いけね。パウル! パウル! モニカが来たぞ!」


 だが直ぐに立ち上がり、カウンターへ身を乗り出し二階へ向かってそう叫ぶ。どうやらパウルは2階にいるらしい。その証拠にスミロの声の後直ぐにパウルの声が聞こえてきた。


「はーい、今行くよー」


 スミロは返事が返ってくると再びモニカの前へと腰掛ける。どっかりと座り、人好きのする笑みを向けられ、この笑顔がパウルに遺伝したのかとモニカは一人そう思った。


「あいつも来るからちょっと待ってな」

「あ、はい。それは全然」


 待つのは全然良い。しかし何を言われるか分からず、心臓がバクバクである。卸している薬草の質が悪いと言われるのだろうか。それとももう要らないとか?

 モニカは考え得る全ての悪い事を思い浮かべ、スミロの雑談に付き合う。だが心の中は心配でいっぱいだった。


「ごめん、待たせて」


 パウルは片手に一枚の紙を持ちながら階段を降りてきた。ちょい、とカウンター内にある小さな椅子を手に取りモニカ達がいるテーブルの横に置くと「よいしょ」と腰掛ける。

 モニカは握られた紙が気になったが、パウルはその紙をテーブルに置く事無く話し始めた。


「モニカの薬草の事なんだけどさ」


 やはり話は自分の薬草の事だ。どきりと心臓が高鳴り、モニカの中に緊張が走る。


 パウルはそんなモニカの顔を見てか、溜める事無く本題を口にした。


「なんか普通のより効きすぎる薬が出来ちゃうんだよね」


 その言葉にモニカは首を捻る。一体どういう意味なのか理解出来ないモニカは頭の中で言葉を反芻した。


「効きすぎる……?」


 それが良い事なのか悪い事なのかも分からず、モニカは困惑した顔でスミロとパウルの顔を交互に見ることしか出来なかった。




次回更新は明日20時頃。


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