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35.怖い

大遅刻すみません!明日ストックいっぱい作ります!


 今日も今日とて市場で稼いだモニカはショルダーバッグの有難い重みに感謝しながら台車を引いていた。店の後片付けも終わり、もう帰るところである。


 鼻歌でも歌い出しそうな浮かれた足取り。理由は料理上手な主婦から干し肉を使用したレシピを貰ったからである。これで美味しいご飯にありつけるとモニカは今からルンルンなのだ。


 恐らく何事もなければ今日、リンウッドは帰ってくる。帰ってきたらこのレシピを渡し、それとなくお願いしてみようとモニカは思っていた。


 足取り軽く、懐は重く、そして心はふわふわに。

 まるで酩酊状態にも似た陽気さで歩いてたモニカだったが、村の出口に差し掛かったところで突然声を掛けられた。

 

「おはよう」


 最初は自分ではないだろうと気にせず行こうとした。だが横目に入った姿に見覚えがあり、ピタリと足を止める。

 特徴的な服に、青灰色の長い髪。それはいつぞや薬草を買った魔術師であった。


「この前の」

「あ、覚えててくれた?」


 モニカは「ええ」と頷き、台車に視線を向けた。


「すみません、今日も売り切れてしまって」


 台車は誰が見てもすっからかんである。あるのはささくれた木のクズくらいだ。


「ああ、そうなんだ。薬草は?」


 魔術師は前に垂れ下がった長い髪を後ろへ流しながらモニカに訊ねた。いくら見ても台車には物が無いのに、それでも覗いてくるのは何故だろう。


 モニカはふるふると首を横に振り、手のひらを上にし両手を前に出した。


 「それも今日は無くて」


 一度でも買い物をすればお客さんである。モニカはリピーターを作るべく、なるべく相手方の心に来るように申し訳ないとショボンとした顔を作った。勿論ポーズのみである。


 魔術師は薬草も無いと聞くと「そうなんだ」と軽く返事した。そして


「無いものは仕方が無いからね」


 とふっと笑った。


 そういう風に言う人は大概良い人だとモニカは思っている。たまに「無い」と伝えても「何で無いんだ!」と怒る人が居たりする。何故無い?と聞かれても無いものは無いのだから諦めて欲しいのだが、それでも食い下がる人は一定数いるのだ。


 モニカの中で勝手に魔術師への好感度が上がっていった。

 そんな素敵な魔術師は何かを思い出した様にハッとすると「そうだそうだ」と言い、突然自身の名をモニカへと名乗る。


「私の名前はウーヴェ。これから君のお店の常連になる予定だよ。お嬢さん、名前を聞いても?」


 そう言うとウーヴェはパチンとウインクをした。


 モニカはと言うと名前を聞かれる事が最近は稀になっていた為、キョトンと目を丸くしていた。あとウインクに驚いたという事もある。

 しかしモニカは直ぐに頬を緩め、自分の名を伝えた。

 

「モニカです」


 別に隠している訳ではないのでスッと答える。姓を言わないのは家出をしているからだ。まあ、家出と言ってもモニカはもう実家に戻る気は更々無いのだが。

 

「そう、モニカ」


 ウーヴェは頷きながらモニカの名を繰り返した。

 

「はい」


 モニカは名前を口に出された為、律儀に返事をする。答えてから特に返事はいらなかったなと反省した。

 恥ずかしさから少し赤くなった顔を隠す様に俯くと、ウーヴェの足がモニカへ近付いてくるのが見えた。モニカは恥ずかしがっていた事を一瞬で忘れ、前を見る。すると30センチ程しか離れていない距離にウーヴェが立っていた。


 ほぼ初対面の人に対しての距離感じゃないと思ったが、モニカは台車を持っている為あまり動けない。どうしたのだろうと思っているとウーヴェの口元がゆっくりと動いた。


「ほぼ初対面だけどさ、聞いてもいい?」

「なんでしょう」


 少し警戒しながらモニカはそう答える。

 ウーヴェは小首を傾げて、あまり触れて欲しくない事を口にした。


「魔力あるよね」


 魔術師であれば、やはり分かるのだろう。魔力を指摘された事にモニカは思わず固まってしまった。

 出来ればあまり知られたくない事なのだが、バレてしまったのであればしょうがない。モニカは複雑そうにぎこちなく微笑んだ。


「あ……、はい」


 本日であれば隠したいが、相手はどうせ隠せない相手である。ならば認めてしまう他無い。


 ウーヴェはモニカの反応を意外そうに見ていた。別に世間は魔力の有る無しを重要視していない。確かにあれば職の幅が広がりはするが、その程度である。だからウーヴェはそんなモニカの反応が不思議でならなかった。


「その反応は秘密にしてるの?」

「いや……、えと、そうですね。あまり大っぴらにはしたくないかな、と」


 率直にウーヴェが訊ねれば、モニカはしどろもどろになりながら肯定した。


「それはどうして?」


 別に尋問している訳では無い。しかし、ポンポンと言葉が出てくる。ウーヴェは本当に分からないと言いたげな顔でモニカを見ていた。


 モニカは何と答えるべきか悩んだ。

 モニカ的には突然森に住み始めた女が魔力持ちだったら近隣の人が怖がるだろうと思い、秘密にしているのだがこの微妙な心情がウーヴェに分かるだろうか。

 

 暫し悩んでいたモニカだったが、此処で変な嘘を吐いても仕方が無いと吹っ切った。


「此処に暮らし始めてまだ日が浅いんです。だからあまり怖がらせたく無くて」


 モニカの答えはウーヴェにはやはり理解出来ない様で眉を顰めた。


「モニカは魔力を持っている人が怖いの?」


 その言葉にモニカはドキッとする。

 それはモニカの奥底にある気持ちに他ならなかったからだ。


 魔力が目覚めてから、モニカは自分の魔力の制御出来なさに困惑した。日々轟々と巡る魔力は今度はいつ暴れてやろうかと機会を窺っているような気もする。

 これは自分には過ぎたるものではないのか、最近そう思う事が多くなった。


 モニカは眉を下げ、苦笑する。

 

「怖い、そうですね。怖いです。」


 そう、モニカは魔力が怖いのでは無い。制御出来ない自分が怖くて仕方が無いのだ。




次回更新は明日20時頃になります。


良かった下記の連載もどうぞ。

● 前世は最強魔術師だった私ですが、前世で私を殺した男が求婚してきます!

https://ncode.syosetu.com/n2041hr/

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