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33.何だかおかしい


 料理の腕がモニカよりもあると判明してから、毎日では無いが気が向くとリンウッドがご飯を作ってくれるようになった。


 モニカには無かった味付けセンスがリンウッドには備わっているようで、何を作っても美味しい料理が出てきた。シチューもそうだし、以前モニカが失敗したポトフもそう。自分が作っていたのは何だったのかと不思議になるくらいの美味しさだ。


 それ故、リンウッドが家を開ける日はとても悲しくなる。美味しいご飯が食べられない事が確定するからだ。前までは居ない方が楽だと感じていたが、食事だけでこうも変わるとは。


(胃袋を掴まれたのよね、きっと)


 普通は女性が掴むものだと思っていた。まさか自分が掴まれる側になるとはモニカは思ってもいなかった。


 朝からリンウッドの料理を食べ、大満足となったモニカは食後の紅茶を一口含み、ゆっくりと嚥下した。カップを両手で持ち、少し離れた所のクッションにいるうさぎを見る。人間の食事よりも早く食事を終えたうさぎは気持ちよさそうに寝ていた。ぷうぷうと無防備に腹を出し寝ている姿は何とも愛らしい。自然と笑みが溢れ、モニカは目尻を下げる。

 

 そのモニカの正面でリンウッドは無言でピアスの手入れをしていた。ずっと付けているのは衛生的に気になるのだろう。入念に真剣に手入れをしている。


 モニカはうさぎから視線をリンウッドへと移し、リンウッドの耳を見た。幾つも開いているピアスホールは大きさもまちまちだ。流石に軟骨のところは小さいが、耳朶の部分には普通のより大分大きい穴が開いている。

 モニカにピアスは開いていない。興味がないと言えば嘘になる。リンウッドと同居を始めてから少し気になっている。だが「したいな」とリンウッドに言うのも揶揄われそうで中々言えずにいるのだ。


 モニカがじっと見ていると手入れをしていたリンウッドの視線がチラリと上がる。直ぐに視線はピアスに戻ったがモニカの視線が気になったのだろう、声を掛けてきた。


「なに?」


 だがモニカはふるふると首を振る。


「何でもない」

「そ」


 素っ気ないのはお互い様だ。モニカはまた紅茶を一口飲み、ふうと息を吐き出した。


「今日から2日間居ないんだっけ」

「うん。あと30分くらいで出るよ」


 モニカは後ろにある時計を見た。今は9時20分、10時前には出ると言う事か。また少しの間美味しいご飯が食べられなくなるという悲しい現実にモニカはガッカリと肩を落とす。


「そっか。なるべく早く帰って来てね」


 リンウッドはモニカの言葉が意外だったのか、ピタリと動きを止めるとジッとモニカの桃色の瞳を見てきた。当然の様にモニカも見つめ返し、リンウッドの反応を待つ。暫く経つとリンウッドはニヤリと笑い、席を立った。その行動の意味を察したモニカは口を押さえたが、リンウッドに顎で命令されしぶしぶ手を退かす。


 助けてもらって、美味しいご飯を作ってくれるリンウッド。それなのにリンウッドの目的であるこれを拒否する事はもうモニカには出来なかった。まあ、少しの反抗はさせて貰うが。


 思った通り眼前にリンウッドが迫り、モニカはぎゅっと目を瞑る。唇にふにゅっとしたものが当たり、やはりキスをされたのだとモニカは顔を赤くした。しかし、いつものような口をこじ開けられる様な衝撃は来ない。


(え、どうしたの)


 不思議に思い、そろりと瞼を上げる。見えたのは薄桃色の睫毛と毛穴の無い肌、やはり唇に当たるのはリンウッドの唇だ。しかしそう、唇が当たっているだけだ。


 え、と驚いているとゆっくりとリンウッドの唇がモニカから離れる。逆に慣れない唇が触れるだけのキスにモニカは困惑中だ。顔を赤くし、何度も瞬きをする。唇を離したリンウッドを見てもいいのかいけないのか。見るとしたらどうやって見たらいいのかと普段考えない事が頭を巡る。


 リンウッドはいつもより混乱しているモニカの顔を覗き込むと意地悪く微笑んだ。


「物足りない?」

「そっんな」


 そんな事は決してない。真っ赤な顔で言葉を詰まらせたモニカははくはくと口を動かし、首を横に何度も振った。


「本当面白いね、モニカは」


 リンウッドはそう言うと、仕上げとばかりにモニカの額に素早くキスを落とす。もう何が何だか分からなくなったモニカは涙目で色んな感情をリンウッドへ訴える事しか出来なかった。



 そんなやり取りをしていた十数分後、リンウッドは予定通り家を出て行った。


「ご希望通り、なるべく早く帰ってくるよ。ご飯作って貰いたいんでしょ?」


 モニカの考えなどお見通しだという言葉と共に。


 モニカはそれをいまだ赤みが取れない顔で見送り、パタンと玄関を閉める。


「んあー!」


 もう呻くしかない。翻弄されっぱなしで心臓が持たない。無駄に顔が良いのも最近はむかついてしまう。

 さざめく胸を収める為にモニカは深呼吸を繰り返す。何度やっても収まる気配の無い胸に、モニカは不安を覚えた。


「もしかして……」


 そう独りごちて、その場に佇んでいると目の前の玄関がコンコンと2回ノックされた。ノックするという事はリンウッドでは無いという事だ。

 モニカは誰だろうと思い、警戒心もなく玄関を開ける。


「やあ、モニカ。お裾分けに来たよ」


 そこに居たのは薬屋の息子、パウルだった。




次回更新は明日20時頃になります。


良かった下記の連載もどうぞ。

● 前世は最強魔術師だった私ですが、前世で私を殺した男が求婚してきます!

https://ncode.syosetu.com/n2041hr/

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