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13.一緒に暮らそ?


「嫌なの?」


 顔面蒼白となったモニカを見て、リンウッドは跳ねた声を出した。どうやらモニカの表情がお気に召したらしい。


 面白そうに「ボク初対面で嫌われる事無いんだけどなあ」とか「ええ〜、ねぇ嫌なの?嫌なんだ」と目元に弧を描きながらニヤニヤとしていた。


 嫌かどうかと言われたら嫌に決まっている。分かっているだろうに。初対面でそんな事言われたら普通引くものだろう。それがどんなに美形であっても。


 育ってきた環境のせいなのか、リンウッドは自己肯定感が高い。話の端々でそれを感じ、モニカは言いようの無い不快感を感じた。

 いや、自己肯定感が高いのは良いのだと思うのだが妙に癪に触るのだ。少しナルシストっぽいところが受け付けないのかもしれない。


 だが、こんなに人形のような見た目をしていたら外見に自信を持つのも仕方がない事なのかもしれないとも思った。


「見た目云々以前に性格が受け付けないと言うか」


 少し顔色を戻したモニカは言いづらそうにリンウッドから視線を外した。


「初対面でキスするのもどうかと思うし、その後の発言もなんか、うん……嫌だなって。本当、憲兵に突き出したい」


 最初こそ「わあ、美形」と驚いたが、それを有耶無耶にする程の性格の難点が彼にはある。

 薄桃の髪は綺麗かろう、髪も艶々だ。灰色の瞳は睫毛の長さも相まって何故か神秘的に見えるし、薄過ぎない唇も、すーっと通った鼻筋も顔にかかる髪も人形師が作り出したドールの様だ。


 だがしかし、彼は恐らくクズだ。他人の感情を読めない、読もうとしない人間である。そこは人形と似ている部分があるが、知ろうとすれば知れるものを自分の型に当てはめて最初から考えないのは身勝手な人間に他ならない。


 モニカは視線を逸らしたままそう言い、チラリとリンウッドの方を見た。彼はモニカの言葉を何度か反芻すると「へえ」と低い声を出す。そして、遠慮もなくモニカへと大股で近付いてきた。


「近寄らないで!決して、けっして!」


 両手を突き出し、拒否の姿勢を取る。不服そうにはしたが、リンウッドの歩みはモニカの腕の先で止まった。出来ればもう少し離れて欲しいが、それを言う勇気はモニカには無い。モニカは喉を鳴らして唾を飲み込んだ。


「怒ったのならごめんなさい!でもやっぱり初対面でキスしてきた相手はちょっと」

「本当酷いよね。俺は嬉しかったのに」

「それは」


 それは魔力をモニカから摂取したからだろう、そう言いたかったが言葉の途中でリンウッドが突然大声を上げた。


「あ!」


 そして胸の辺りを押さえる。苦しいのかと不安になったがそのような表情は見られなかった。

 リンウッドは暫し身じろぎもせず胸を押さえ、じっとしていたが「あーあ」と少し残念そうな声を出し胸から手を離した。


「やっぱりそんな都合の良い話は無いよね」


 パッと笑いはしたが、何処か悔しそうな顔をしたリンウッド。

 言葉の意味が分からず、モニカは不思議そうに彼を見た。


「見て」


 そう言われ、リンウッドに視線で誘導される。彼が見せたのは彼の白く節張った手指。

 そして見えたのはゆらりゆらりと指先で揺れる炎だった。


 モニカとは違い、明らかに制御されている炎を見てモニカはリンウッドが魔術を使えるのだと知った。だが同時に魔力があるのなら何故モニカの魔力を必要としたのかと疑問が湧く。


 揺れる炎は踊るようにコミカルに形を変え続け、最後は空気に紛れるように消えた。


 2人共言葉もなく、暫く炎があった空間を見ていたが、沈黙に気まずさを感じ始めたモニカが焦ったように口を開いた。


「あ!魔術使えるんですね!じゃあ私の平手から出たのもそれで消したのか!凄いですね!パッと出来るんだ!私なんて思うように使えなくて!練習すれば良いとはわかってるんだけど」


 早口で身振り手振りで言えば、リンウッドは名残惜しそうにそこを見ていた視線をモニカへと移し、口端を上げた。だが何故か眉は下がって見え、モニカはまだ喋ろうとしていた口を噤む。


 リンウッドは小さく口を開き、言葉を発する前に閉じ、視線を数度彷徨わせた後、再び口を開いた。


「元魔術師なんだ、ボク。今魔力は無い。無くしたんだよね、だから魔力が戻って少しはしゃいだ」


 その話を聞いて、魔力が無くなることもあるのかとモニカは他人事の様に思っていた。無くなった魔力が蘇ったら確かにはしゃぐ事もあるのかも知れない。モニカは無い状態から発現したので、魔力の存在にまだ慣れないが、先天的に魔力があった人からすれば無くなったら違和感があるものなのだろう。


(病気で何かを無くすのと同じ感覚なのかな)


 モニカは今の健康が損なわれ、以前と同じ体調にもし戻ったら?と考えた。少し考えただけでも身震いしてしまう。

 つまりリンウッドにとってはこれと似た事なのだろう。


「もう魔力が少なくなってきた」

「戻る訳ではないんですね」

「そうだね、そうみたい」


 力なく腕を下ろしたリンウッドは大きく溜息を吐いた。


「モニカ、モニカー」


 両腕を広げ、名を呼ばれる。一瞬何が行われているのか理解出来なかったが、キョトンとした顔でリンウッドを見れば全て理解をした。


 モニカはすぐに眉間に皺を作り、リンウッドから距離を取る。


「嫌です!」


 またキスをしようとしているのだ、彼は。

 でなければそんな意地悪な顔で両手を広げる訳はない。


 絶対に唇を守ってやるとモニカは両手で唇を覆った。


「あなたとキスはしない!嫌です!やだ!」

「えー、そんな事言うんだ。酷いねえ、モニカは」


 どちらが酷いと言うのだ。絶対リンウッドの方が酷い事を言っている。


 イヤイヤと首を横に振っていると、リンウッドがしょうがないと何故か譲歩してやるというような態度をしてきた。声は聞こえないが「我儘だね、モニカは」と聞こえそうな表情である。


 何故そんな顔をされなければならないのか。じとっと睨めつけると溜息混じりな息を吐き出される。更に苛ついた。


「じゃあ、しょうがない。モニカ、ボクも一緒に此処に住むよ。それで毎日キスしよ」


 一体何がしょうがないのか。リンウッドの言っている意味が分からず、モニカは脱力し、ポカンと口を開けた。口を塞いでいた手もゆっくりと下がっていく。


「え、何で?嫌です」


 モニカの返事に今度はリンウッドがポカンと口を開けた。

 美形は美形だ。だがモニカにはもう彼が残念なものにしか見えなかった。




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