異世界召喚されました、おや?
ガスコンロで上手く火がつけられないとき、イメージはあの勢いです。勢いで書きました。
ボボボボボボボ
まるでガスコンロの火をつけようとして失敗しているような音が、薄暗い石造りの部屋の中で延々鳴り響いています。
ボボボボボボボ
おまけに音の発信源である魔法陣は青白い光を放っていて、まさにガスコンロ。
ボボボボボボボ
魔法陣が現れてはその上に若い人が一人召喚され、人を残して魔法陣だけ消えてはその横に再び新しい魔法陣が出現しています。
結構な勢い。
ボボボボボボボ
私は今、その光景をぼんやりとしながら眺めています。
部屋の端の舞台の様になっている高台に目をやれば、ファンタジー感満載の格好をした老若男女が慌てふためいています。
「何だこれは!どうなっている!?」
「何をしている!さっさと止めんか!」
「男まで居るぞ!どういうことだ!」
ボボボボボボボ
その間もずーっと人が召喚され続けていますよ。
結構広い部屋だと思ったけどこの勢いだとその内満員電車状態ですね。
あ、そういえばさっきまで満員電車に乗ってたんだった。
帰宅ラッシュの快速急行、途中の駅をすっ飛ばして一刻も早く帰りたい皆様でごった返していたけどそこから何が起こったんでしたっけ?
「話が違う!あんな地味な女などいらん!男など論外だ!」
王子様っぽい恰好をした人が私を指さして叫んでる。
人を指さしちゃいけないんですよ?文化が違うのかもしれないけど。
おっといつの間にか召喚が収まっている。どういう事でしょうね。
そして当然、召喚された私たちも混乱の真っただ中です。
余りに人が多くて何を言っているか聞き取れません。
「すいませーん!家にー!帰りたいんですけどー!」
でかい声です。誰か知らないけどよくぞ言ってくれました。
「うるさーい!お前たちなど呼んでいなーい!私が呼んだのはー!美少女だー!絶世のー!美少女だー!」
ダメだこいつ。詳細は分からないけどダメさが溢れています。
ん?美少女?
そういえば電車ですぐ横にすごくかわいい子が乗っていなかっただろうか。
ジロジロ見るのも失礼だしとよく見ていなかった、正直仕事帰りで疲れてたし。
多分、居た。
んで、足元光ってこの状況。
これはつまり、巻き込まれて召喚されたという事でしょう。
その子はここに居ないけど。
「ふざけるなー!帰せー!」
「こっちは疲れてるんだよー!」
ええ、今日は金曜日。
疲れました、とても疲れました。
よくある異世界召喚物語の様には考えられません。
無双とか、チヤホヤされるとか、今はそんなのどうでもいいのです。
皆さん異世界の方々に詰め寄っていきます。
そうすると騎士っぽい人が剣で切りかかってくるのですが、なんという事でしょう。
大事な剣はビジネスバッグの一撃で見事にポッキリ折れてしまいました。
どうやら無双系の世界の様です。
これには皆さんびっくりです。
「うわあああああ!もういやだああああああ!!」
酷くやつれた研究者っぽい人が涙を流しながら説明書らしき分厚い書類の束を必死にめくっています。
大丈夫でしょうか、大丈夫じゃなさそうですね。
とりあえず舞台に上る階段に座って休みますか。
ボボボボボボボ
何という事でしょう、再び大量のガスコンロ魔法陣が現れて次々に人が召喚されています。
「ええい!何故絶世の美少女じゃないんだ!」
今はそんなことを言っている場合じゃないと思うんですけどね。
「全部あんたのせいだあああああ!」
「なにぃ!?」
「美少女ハーレムを作りたいからって納期を縮め続けてくれたおかげで!どうやって召喚するかくらいしか翻訳できてないんだよおおおお!資料もまともに無い状況でえええええ!俺は寝てないんだよおおおお!家に帰ってないんだよおおおおお!」
振り返って舞台の上を見ると研究者っぽい人は崩れ落ち泣きじゃくって周りの人たちに慰められ、王子様っぽい人はボコボコにされています。
他の異世界人っぽい人は端の方で小さくなってますね。
「読める!読めるぞ!」
おや、読める人が居たようです。
考えてみれば言葉が通じるくらいですしおかしなことではないですね。
「この遺跡は厄災とやらで絶滅の危機に瀕した人類が、異世界から人類を召喚するための場所だ!状況が状況だから年齢を操作され、体を強化される魔法も組み込まれているらしい!」
なるほど通りで召喚されてくる人が軒並み若いと思いました。
私も若返っているんでしょうね。
ところで帰り方は?
「外見等の情報を入力することで目印となる人間の座標を設定!あとは遺跡が起動している限りそこを通った人間が召喚され続ける!」
なるほど。
ぼろ雑巾王子が求めた美少女、快速急行、満員電車。
繋がりました。
「そして要約すると!そんな状況で召喚した人間に逃げられると困るから帰還方法は作ってない!厄災が収まれば自然に帰ることができるとか適当言ってうまい事丸め込めと書かれている!」
「・・・・・」
その後もガスコンロ魔法陣は数日の間止まることなく起動し続けた。
広間のボタン一個で起動できるくせに、セキュリティの起動したダンジョンと言っていい状態の遺跡の最下層にしか停止ボタンが無いクソ仕様。
挙句召喚部屋が複数あり、そこからも人が溢れていた。
古代人よ、その情熱を滅びかけた世界に人を呼んで閉じ込めるのではなく、自分たちが他の世界へ逃げるために使ってほしかった。
そうしてどっかの国が革命により突然滅んだり、いきなり凄まじい技術革新が起きたり、古代文明崩壊後初めての世界地図が作られたりと色々起こったけど、私らのせいじゃないからな。