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やり残したこと  作者: 釜鍋小加湯
3/10

 宜しくお願いします。

 俺は一瞬目を見開いた。どう答えようか迷っていると、男は話を続けてきた。

「その帽子、ほらそれ」

「これですか?」

 帽子の唾の方を向けると、男は校章を指差した。

 この校章は古いものだ。数ヵ月前に同期の男に会った。そいつには既に子供がいて、今野球をやっていると聞いた。何でも親子揃って岩高で、照れ臭そうに喜んでいた。その話のなかで、校章も校歌も変わっていたというのを聞いた。寂しい気持ちと羨ましいというか、心苦しい気持ちになったことを俺は覚えていた。

 目の前にいる男は、古い校章を知っている。ということは、長らくこの地に住んでいるということか。

「はい、岩高に昔通ってました。知っているのですか?」

 話を続ける気もないが、この校章を知っている男の話を聞いてみたい気持ちもあった。

 男は口角を上げて、口の端をうっすら開けた。

「その校章を見ると腕がうずく」

 何を言いたいのか首を傾げていると、男は続けて「昔、昔といっても何十年も前の話じゃ。ワシは柔道部の主将でな。大会で岩崎高校と対戦したことが何度かあったんじゃ。その校章を見るといつも思い出すんじゃ」

 この爺さんは、柔道をしていたのか。歳を重ねたとはいえ、足腰は丈夫そうだ。足の指もごつかったし。

「お前は野球をしていたのか?」

 突かれたくないところを突かれ、俺は黙秘したい気持ちに襲われた。俺のことなどどうでもいいんだ。そうは言っても、帽子の校章と着ているユニホームで言わずもがなという始末。仕方なく「はい」とボソッと返事をしといた。そもそもユニホームには、ローマ字表記でIWAKHOと勢いよく記されている。

「ここへは何しに来たんだ?」

 振り出しに戻ったな。俺は事情を言うかどうするか決めかねていた。この爺さんなら、俺の話を受け入れてくれるかもしれない。

 実際問題。この話をすることで、納得して帰ってくれるかもしれない。この人に会うことはもうないだろう。恥をかいたとしても、今だけのことだ。俺はあの日を思い出して、自分なりにけじめをつけられればいいんだ。そうすることで、次のステップに進めると信じている。

 知らず知らず落としていた視線を上げて、俺は口を開いた。

「聞いてもらいたい話があります」

 最後まで読んでもらい、ありがとうございました。

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