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第九話 街中での決闘

 決闘申請を受諾すると、私とPK君(ゲイル)は半透明の壁によって周囲から隔離され、ひとつの空間に閉じ込められた。


 これが私と彼の決闘の舞台ということらしい。

 空間は半球のドーム状で、直径は約10メートルほど。

 頂点の高さは4~5メートルといったところだろうか?


 手で壁をノックすると、硬質な感触が返ってくる。


 ガラス……いや、少しだけ弾力がある。強化プラスチックが近いかな?

 なんだかカプセルトイの容器を被せられた昆虫にでもなった気分だ。

 私たちだけが世界から切り取られたようにも感じる。


「へえ、決闘ってこんな風になるんだね」

「そーだ。一応教えておいてやるが、その壁は壊せねぇぞ」

「それは重畳。君に逃げられる心配もない訳だ」

「言ってろ……。おい、ヒドゥン、最初から全力で行くぞ──」


 彼の呼びかけに応えるように、腕に直接装備されたクロスボウがひとりでに弦を引き絞り、どこからか現れた短矢を装填する。


「いつでもいいぜ。来いよ」

「あれ? 昨日、使おうとした『形態変化(モード)・ブレ……なんとか』は使わないの?」

「……距離があるのに接近戦の備えをしてどうするよ」


 ほう。アレは接近戦用のナニか、なのか。

 今の私と彼の距離は4メートル程。

 確かに近接武器を振るうには少し距離がある。


「なるほど。確かにこの距離なら射撃でワンチャンス狙えるかもね──」



「「──当たればだけど」な!」


 私とゲイルの口から似たような台詞が飛び出し、重なる。

 そして、それはそのまま戦いの合図となった。



「【クイックショット】ッ!」


 先手は当然、ゲイルだ。

 彼はまず私に向けて一発の短矢を撃ち込んできた。

 それは予備動作が素早く、意識していなければ反応が間に合わないであろう速度の射撃だ。


 【クイックショット】、これは初めて見るスキルだ。

 だが、おそらく名前そのままの性能なのだろうと予想。早撃ち(クイックショット)だよね、多分。

 どの程度のダメージになるのか気になるが、今はわざと当たる訳にもいかない。


 私は予備の短剣を抜きながら短矢の射線上から身体をズラし、そのままゲイルに向けて前進。放たれた矢とすれ違い様に抜刀したダガーを投擲した。


「ッ……ぐ」


 ビンゴ! 投げつけたダガーは狙い通りにゲイルの肩口に吸い込まれた。

 彼が鎖帷子などの硬い装備を着込んでいないことは昨日に確認済みだ。

 さらにいうと、装備が前回から変化していないということも、さっき会った時から観察していたので分かっている。

 

 いくら革製の鎧を着込んでいても、人間が纏って動く以上は必ず隙間や継ぎ目が存在するものだ。そこさえ狙えば、ただの案山子も同然。スキルを使って硬直しているのであれば尚更だ。


 あとはこのまま硬直中にさらに一足踏み込めば私の勝ち。

 刃で首を撫でるも、鉈剣で頭をカチ割るも自由自在である。

 

 そう思ったのだが、


「【ワイヤーショット】!」

「おっと!」


 突如としてゲイルが再度スキルの発動を宣言した。

 私は彼が硬直中だと、たかを括っていたので反応が少し遅れてしまう。


 咄嗟に矢は避けた。


 だが、それは悪手だったらしい。

 矢がすぐ側を通り過ぎるのと同時に、私の体は後方へと大きく引き摺られ、遅れて背中から壁に叩きつけられる。


「うおわっ!? なになに?!」


 ──動けない。

 手足は自由に動くけれど、身体が壁に固定されたかのように動かない。

 まるで何かに壁へと押し付けられているみたいだ。


 驚きながら、感じる圧迫感を頼りに身体をまさぐると答えはすぐに見付かった。


「あー! 【ワイヤーショット】ってそういうことか!」


 細い硬質の糸。

 テグスやピアノ線のような物が私の体を壁へと押し付けている。

 そして、その糸の両端は半透明の壁に突き刺さった()()()短矢から伸びていた。


「なるほどね。先に撃ち込んだ矢を基点にして鋼糸を張ることができる矢を発射するスキルな訳だ」

「そういうこった」


 しかも、この糸はそこそこに鋭利なモノのようで、指先でなぞってみたら鋭い痛みが走った。

 硬質ながらに柔軟性もある。切断するのはこの体勢からでは難しいかな。


()ちち……本来はブービートラップ向けのスキルなんじゃないの? コレ」

 

「……察しがいいな」

「ん? 分かるでしょ、普通」

「そうかよ。チッ──じゃあな、初心者(ルーキー)


 ゲイルがヴァリアント[ヒドゥン]を構え、私に向けて矢を放つ。

 何故か、こちらから顔を背けて。


 弦が弾け、射出された矢が音もなく迫る。


 今の私はワイヤーショットで固定されてこの場から動けない。

 当たれば私の着ている革鎧では容易く……いや、仮にプレートメイルを着ていたとしても鎧ごと穿たれてしまうであろう距離からの一射だ。

 きっと、このままでは致命傷は免れないだろう。


 ──このままなら、ね。


「よいしょっと!」


 飛来した矢の先端に鉈剣の腹をそっと添えるように当てて軌道をずらす。

 すると、私に向けて撃ち放たれた矢は、両手で支えきれる程度の衝撃を手元に伝えた後、刀身を伝って壁へと飛び込んだ。

 鉈剣が肉厚で幅広く、両手も自由だったのが幸いした。


「な!? お前──うげっ」


 顔を背けていたゲイルが気付きこちらに向きなおるが、遅い。

 その時には既に、私が投擲した鉈剣が彼の頭部へと吸い込まれる直前だった。



「残心って知ってる? というか戦いの最中に相手を視界から外しちゃダメだよ」



《決闘に勝利しました。戦闘状態を解除します》


 ゲイルが倒れると同時に音声アナウンスが流れ、外界と私たちを隔てていた壁がゆっくりと崩れ消えていく。


 さらに、それに続いてプレイヤードロップと新たなスキルの習得が告知される。


《プレイヤードロップ:「ラウンドシールド」を入手しました》

《10000ウェルを入手しました》


《スキル【ダガースロー】を習得しました》

《パッシブスキル【投擲】を習得しました》


 よしよし、やったね! 酒代ゲット!

 なんだかゲイル君が気の毒にも思えるけど、合意の上だしオールオッケー!

 ドロップの盾はどうしようか……私、盾ってあんまり使わないんだよね。

 でもまあ、折角の戦利品だし貰えるものは貰っておこう。


 新しく覚えたスキルは【ダガースロー】と【投擲】の二つ。

 どちらも似たようなニュアンスのものな気がするが、片方は"パッシブスキル"とのことなので、おそらくは通常の【スキル】とは違い、発動宣言をしなくとも常時効果が期待できるようなものなのだろう。まあ、これはまたあとで確認しよう。


 それよりも私は今、彼に聞きたいことがある。


「さて、と」


 すぐ目の前、街の往来で大の字で倒れているゲイルに歩み寄る。

 近くに落ちていた鉈剣を拾い、屈んでゲイルの顔を覗き込むと、彼は倒れたまま苦々しい表情でこちらをじっと睨んでいた。

 どうやら決闘中に負ったダメージはリセットされるらしく、鉈剣に割られた傷は見当たらない。


「ねえねえ、ゲイル君さ」

「…………なんだよ?」

「どうしてさっきは矢を撃つ前に顔を背けたの?? 折角のチャンスだったのに勿体ないなーって私思うんだけど。それに、ああいうタイミングでこそ普通の矢じゃなくて【トリプルショット】なり射撃スキルの出番だったんじゃない?」


「ケッ……まあ、その通りだな」

「じゃあどうして?」


「………………むね」

「むね??」

「胸元! 鎧が裂けて見えてんだよ!! 気付けバカ!!」

「へ──?」


 言われて確認してみると──確かにはみ出してた。半分ほど。

 どうやらワイヤーで引き摺られたときにうまい具合に裂き剥かれたらしい。

 見事に南半球が露出しちゃってるよ。


「あー……」


 でも、私的にはてっぺんまでボロンしてないのでセーフ。

 恥らうような歳でもないし、相手でもない。

 むしろ涼しくて丁度いいくらいだ。


 というか、決闘って身体的なダメージは消えるけど、装備の損傷はそのままなんだね。また一つ勉強になったよ。……それに、もうひとつ分かったコトがある、


「ゲイル君ってさ、もしかしてムッツリ?」

「うるせえ! さっさと隠せ! ここ街中だぞ?!」


 あはは、可愛いヤツめー。

 そんなに顔を真っ赤にして叫ばなくてもいいじゃないか。


 必死に目を逸らして抗議するゲイルがあまりにも可笑しくて、私はこの後しばらく彼の頬をつっついて遊んでいた。

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