第八話 再会
前回から多数のブックマーク、評価ありがとうございます!
ご期待に沿えるように精進いたします!
4/06 読んでいて違和感を感じた箇所を改稿いたしました。
◆始まりの街・ラウラニイ 港湾区画
ゲーム内での一夜が明けた翌日。
私はラウラニイにある港に赴いていた。
現在の時刻はおそらく正午を回ったあたりだろうか?
日が高く、太陽の光を受けて輝くような街並みとは対照的に、日陰にはより一層濃い影が落ちている。
昨晩、私は地元の人たちと、それはもう盛大に飲んで騒いだ。
しかし夜が明け始めた頃、串焼きの屋台が材料切れになってしまい、私は意気投合した飲兵衛たちと共に近くの酒場へとハシゴすることにした。
その後は自分以外の全員が酔い潰れるまで飲み続け、ほろ酔い気分で近くの宿にチェックイン。たっぷりと睡眠をとってから目を覚まし、今に至る。
「よーし、次は何を食べようかな?」
今、私が港に来ている理由は朝食(昼食)ついでの食べ歩きだ。
飲兵衛たちから聞いた話によると、ここ港湾区画では近海で水揚げされたばかりの新鮮な海の幸や、それらを材料にした出店が多く見られるらしい。
そんなことを知ってしまったら覗いてみない手はないだろう。
私は宿で目を覚ますやいなや、急いで身支度を整えて港に急行した。
結果、得られた成果は上々なものだといえる。
何故か前日まではまだ余裕があったハズの手持ち資金が5000ウェルしか残っていないが、海産物以外にも色々な味を楽しむことができた。
特に面白かったのは商船から払い降ろされた保存食と、本国までの輸送に耐えられないと判断された新大陸産の野菜や果物、香辛料を組み合わせた創作料理だ。
少々の当たり外れはあったが、なかなかに刺激的な体験だった。色々な意味で。
……まあ、とりあえずこの後は口直しに普通のものが食べたい。
なるべく新鮮で瑞々しい、自然な味なのものが……、
「む! あの露天…………女の子が可愛い!」
そう、例えばまだ穢れを知らない乙女のような──違う、そうじゃない。
私が目を付けたのは、その子が売ってる商品の方だ。
それは少女の握りこぶし程もあるゴツゴツとした岩のような塊。あれって……、
「こんにちは、お嬢さん。それって牡蠣だよね。おひとつ幾ら?」
「いらっしゃいませ! はい、さっき獲れたばかりの新鮮な牡蠣です! おひとつ150……いえ、100ウェルでどうでしょうか! お塩とお酢はサービスしますので、是非っ!」
あら、お安い。
値札が見当たらないから、いいお値段がするものだと思っていたけど、予想外に安かった。この大きさの牡蠣をネット通販で買うと一粒500円以上はするのに。
やはり現地での獲れたては違う。
「じゃあ、まずはひとつ貰おうかなー」
「はい! ありがとうございます!」
私が注文すると、少女は小振りな刃物を取り出し、慣れた手付きで牡蠣の貝殻を開いてくれた。
「お塩とお酢、どちらになさいますか?」
「最初はお塩で」
「はい──どうぞ」
少女から貝殻を受け取ると、そこには殻から零れんばかりの乳白色の身が乗っていた。重量も見た目以上にずっしりと感じる。
「どれどれ……」
まず、ジュースを少しだけ啜り、そのあと貝殻を傾けて牡蠣を咀嚼していく。牡蠣の身は柔らかく、それでいてプリプリとした弾力もあり、噛むと口の中一杯に海の香りと自然な甘みが広がる。そして、振りかけられた大粒のお塩がそれらをさらに際立たせている。
素晴らしい……。
この充実感。もしかすると無限に食べられる……いや、飲めるかもしれない。
まさしく海のミルクと呼ぶに相応しい。
「……どうでしょうか?」
「…………牡蠣は飲み物だった」
「え??」
「追加でもうひとつ! 次はお酢で!」
「は、はい──!」
◇
「ふぅ……食べた、食べたー」
あの牡蠣はまたリピートするとしよう。
オイスターバーには何度か行ったことがあるが、今回食べたものは格別だった。
しかも、私好みの可愛い女の子が手ずから殻を開けてくれるというオマケまで付いている。そんなもの、もう通う以外の選択肢が思い浮かばない。
惜しむらくは、お酒が置いていなかったことだろうか?
まあ、明らかに未成年ぽい子だったし、コンプライアンス的に仕方がないよね。
次回は牡蠣に合いそうなお酒を持参しておこう。
お酒……お酒かあ。
お腹を満たしたあとは、お酒が恋しくなってくる。
手持ちの資金は残り2000ウェル……。
よし、少し飲むだけなら大丈夫! おつまみも一品二品ならいける!
思い立ったが吉日だ。さっそく酒場へと向かおう。
えっと、確か酒場の場所はプレイ開始時に放り出された広場の隅だったかな?
いい感じに酔っていたので、あまり記憶が定かではないが……。
私は曖昧な記憶を頼りに、港に来るまでに通った道を遡っていくことにした。
だが、散歩気分でしばらく歩き、酒場のある中央広場に差し掛かったとき──、
「あ、昨日のPK君じゃん」
「げ」
──面白い人物とばったり出くわした。
忘れるハズもない。
彼はゲーム内での昨日、私とカームに対人戦を仕掛けてきた男だ。
「やあやあ、元気かい?」
「お、おう」
私が挨拶をすると、彼は引きつった顔でそれに応えた。
あれ? これはもしかして昨日のアレが尾を引いてる感じかな??
そんなに怖がらなくてもいいのに。
別に生身の殺し合いをしたわけでもない。
ゲームはゲームだと割り切って楽しむべきだと私は思う。
……あー、でも向こうが私と仲良くしたいかどうかは、それもまた別の話か。
けどまあ、それならそれで丁度いい。
昨日からの飲み食いでお小遣いが心許なくなってきていた所だ。
酒場に入る前に、彼にはまた少し資金提供をしてもらおう。
「そっか、それはよかった。じゃあ、早速──」
「ちょ……待て! オイ! まさか、ここでおっ始める気かよ!?」
「え。ダメ??」
短剣を抜こうとしたらPK君の顔色が見る見るうちに変わった。
その様子は、まるで信じられないものでも見るような、そんな感じだ。
「『ダメ??』じゃねえ! 街中で"決闘"以外の対人行為なんてしたら、俺もお前も衛兵に捕まって牢屋にブチ込まれんぞ!!」
彼の言葉を聞いて、よくよく周囲を見てみると、金属鎧を着込んだ衛兵らしき人物がこちらを睨んでいた。そういえばカームちゃんも「街中でPKを仕掛けるリスク」がどうとか言ってたっけ。
なるほど。街での刃傷沙汰はご法度か。当然といえば当然だよね。
「でも、もうお金が無いんだけど、私」
「知るか、働いて稼げ。というかテメェ、昨日オレから25000ウェルとダガーを奪ったよな!? それなのに、なんでもう金がねーんだよ?!」
「お酒に融けた。それにあれは正当な報酬でしょ。そっちが襲ってきたんだし」
「ぐ……それもそうだが……畜生、俺の金と卸したてのダガー……」
あのダガー、新品だったのか。可哀想に。
どうりで酒場でお肉を切り分けるのに使ったら、いい切れ味をしていた訳だ。
別に返してあげてもいいんだけど、ダガーを失ったのは彼の自業自得だ。私にも何か見返りがないとちょっとなー……、
「そうだ! 決闘でなら街の中で戦っても大丈夫なんだよね? それならさ、私と決闘しようよ! もしキミが勝ったらダガーを返してあげる。で、私が勝ったらお金を──」
「絶ッッッ対イヤだね! 割に合うか、ンなもん!」
折角の提案なのに言い切る前に断られちゃった。残念。
「もー、甲斐性の無い男だなー。モテないぞ、そんなんじゃ」
「うるせえ! ちょー余計なお世話だ! ンなコト、薄ら笑い浮かべながら人の首筋を掻っ捌いてくるような女に言われたくねぇよ!」
この子、さっきから反応がいちいち大仰で面白い。
打ったら響くというのは大事だ。見ていて飽きない。
ハイテンションな返しは賛否が分かれるかもだけど。
「あはは、ごめんごめん。トラウマにでもなっちゃった?」
「そんなんじゃねーし。はー……もう行っていいか? 忙しいんだけど俺」
「待って。何かいい金策とか知らない? 教えてくれたら決闘は諦めるからさ」
「決闘は諦めてなかったのかよ……教えるのは別にいいけどよ、その前に自分のヴァリアントを手に入れやがれ。話はそれからだ、初心者!」
む。今の「初心者」呼びは、なんだか私を小馬鹿にしてるように聞こえたぞ。
……ははーん。さては、今のが精一杯の反抗だな?
生意気にも、そんなマウントのとり方をしちゃう??
そんな風に強がられると、おねーさん少し嗜虐心が湧いちゃうなー。
決めた。もうちょっとだけ弄ってやろう。
「確かに初心者っていうのは否定できないかなあ。キミの言うとおり、私は自分のヴァリアントも持ってないし……でも、そうかー」
「……なんだよ?」
「ふっふーん。もう忘れちゃった? 昨日、キミはね、そんな初心者の私に負けたんだよ。しかも、自分から不意打ちをしかけておきながらね。その上、何? 今度は負けるのが怖くて決闘すらまともに受けられない?? はぁ……弱いものいじめしか出来ないだなんて、PK様も案外大したことがないんだね?」
「こ、こんの野郎ッ! 言わせておけば! ……おらっ、お望みの通りの決闘だ! さっさと申請を受理しやがれ! 負けて吠え面かくんじゃねぇぞ!!」
《プレイヤー「ゲイル」から決闘申請がありました》
「あのさ……煽っておいてなんだけど、君、ちょっと、チョロすぎない?」
「うるせえ! とっとと、かかって来やがれ!!」
「おーけい。じゃあ──行くよ!」
《申請を受諾しました、決闘を開始します》