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第三話 身支度を整えて武器を選ぼう

◆ラウラニイ北西区画 商店通り


「──ここが武器屋さんになります」

「おおー、待ってました!」

「はい。お待たせしました」


 あの後、私はカームの案内(エスコート)でぐるりと街を巡り、その足で武器屋を訪れた。

 カームいわく、ここはNPCの経営するお店で、コストパフォーマンスに優れた扱いやすい武器が揃っているそうだ。見た感じは外側も内側もザ・武器屋といった趣きで、店主兼店番である強面のおじさんがいい味を出している。


「いらっしゃい。アンタ、稀人(まれびと)の新顔か……まあ、ゆっくり見ていってくれ」

「はーい。おじさん、一通り見せて貰うね。武器は振ってみても大丈夫?」

「好きにしな」

「ありがとー」



 ほとんど街を一周するような道行きの中、私はカームから様々な話を聞いた。

 このゲームに関する情報収集などを満足にしていなかったので、思わず根掘り葉掘りな質問をしてしまったりもしたが、彼女はそれらにも丁寧に答え、尚かつ分かりやすく説明してくれた。


 そして、教えてもらった話の中には興味を引くような話題がいくつもあった。

 特に気になったのは次の三つの要素だ。


 この世界において習得可能な技能──【スキル】

 持ち主の行動に応じて変化する称号──<通り名>

 各プレイヤーに授けられる従魔──[ヴァリアント]


 【スキル】は戦闘行為や生産活動はもちろん、普段の生活にまで影響を及ぼす重要な要素で、習得するだけでも役に立ち、極めれば現実では不可能なような芸当さえ可能になるそうだ。さらに剣術や魔法といったRPGではお馴染みの要素も【スキル】として習得するようだ。


 <通り名>というのは現実では時折、物語などでは割と頻繁に持っている人が居る「二つ名」や「異名」みたいなものだと思えばおおよそ間違っていない。基本的にはおまけ程度の効果が付いている称号なのだが、持ち主の行いに応じて通り名が変化していくらしい。


 [ヴァリアント]に関しては簡単に言ってしまうと、各プレイヤー専用のNPCだ。一人一体までしか使役できず、その姿はプレイヤーによって千差万別。モンスター型・人型・武具型・その他諸々と非常に幅が広い。固有のスキルや能力を保有しているものも多く存在しており、入手方法も多岐に渡るのが特徴だといえる。


 これらの要素に『信奉する神々』や、新大陸の情勢までもが影響し合い、各プレイヤー独自のスタイルが築かれていくそうだ。ネットで見かけた「自由度が高い」という感想はあながち嘘でもないみたいだ。


 あと、私の懐事情も大きく変わった。

 先行プレイヤーの知恵とでもいうべきか、初期資金にちょっぴり色を付ける豆知識をカームが授けてくれたのだ。


 おかげさまで今の私は、安価でこそあるが革製の装備で全身を固めている。

 現在の外見を"職業"で例えるとすれば、きっと斥候とか盗賊系統がイメージに近いだろう。残念ながら忍者やアサシンを名乗るには少し暗色が足りないけど。


 ……ああそうだ、"職業"といえば、この「フロンティア・オンライン」には他のゲームにおける"ジョブ"や"クラス"といったような"システム的な職業"が存在しないという部分も独特かもしれない。


 一応便宜上は、よくある職業名で呼んでいるが、基本的には自己申告制でそれ相応の()()が伴っているのかが重要視される──つまり、それぞれの役割(ロール)に応じた【スキル】の有無や、「開拓者ギルド」「冒険者ギルド」「商人ギルド」etc. etc. (などなど)の公共機関に登録しているか否かが大事になってくるそうだ。


 極端な話、魔術系のスキルと裁縫系のスキルを習得していて、それらに対応するギルドに所属してさえいれば、全身を金属鎧で固めて大剣を振り回していようと、そのプレイヤーは『魔術師』や『裁縫師』を名乗れるという訳だ。


 また、時と場合によっては<通り名>も影響してくるとか。

 実力と役職に加えて、風評まで重要になるとか世知辛い。

 まあ、真っ当に遊んでいれば問題ない気もするけれど……。


 その他にも得られた情報は多いが、差し当たって必要なのはこの辺りだろう。

 ゲームをプレイする上での最低限の知識やマナーは充分に仕入れられたと思う。



「──よっ、ほっ!」

「ニキータさん」

「ん? どしたの、カーム()()()


 店内に置いてある武器の握りや重量を素振りして確かめていると、ずっとそれを見学していたカームが声をかけてきた。


「なんだか武器の扱いに慣れているように見えますけれど、ひょっとして武道の心得があったりしますか?」

「まさか。ナイナイー」


 とは言ったものの、この返事は正確ではない。

 実は私、高校の頃にハマった小説の影響で剣道部や薙刀部、弓道部に一瞬だけ在籍していたことがあったりする。どの部活も性に合わなくて早々に退部(ギブアップ)してしまったので、「覚えがある」などとはとても言えないのだが。

 遅咲きの中二病に半端な行動力が伴ってしまった、若さ故の黒歴史である。


「あ、アハハハー……」


 ……それを(こじ)らせて剣戟シミュレーターとかにドハマリしちゃったんだけどね。

 私が武器の扱いに手馴れているように見えるのは、きっとそのせいだと思う。

 こんなこと、口に出せやしないけど。


「そうですか。けれど、本当に良い動きをしていらっしゃるので、ニキータさんならきっとすぐに『前線』までいけますよ」


「えへへ。そうかな? ありがとー」


 褒められちゃった。

 うーん、素直に嬉しい。

 大人になると、褒められるより褒める比率の方が大きくなってくるので尚更。

 人から賞賛されるのはとても気分がいい。


 ちなみに『前線』というのは、この新大陸でプレイヤーとNPCたちが到達している現時点の最奥地のことを指す。新大陸の開拓はこの地の冒険者、開拓者、生産者などが一丸となって取り組んでいる一大事業だそうだ。脅威となる存在を退け、未開の地を切り拓き、拠点を築く。私の先輩にあたる彼らは、今この瞬間も最前線でじわじわと版図を拡げているという──。


 どんな感じなんだろうね? ちょっと楽しみになってきたよ。



「……さてと。おじさーん、お会計おねがーい」

「決まったか。計算するから、ちょいと待ってな」

「はーい」


 店頭にある商品から手に馴染む武器を適当に見繕い、カウンターに並べていく。

 選んだ武器は刃渡りが比較的長めのショートソードと短刀、それに(なた)剣だ。

 意識したわけではないが、大・中・小と刃の長さが並んでいるのが美しい。


 武器のチョイスに別ジャンルのVRコンテンツを基準にしていいのかは判らないが、私は大抵の場合、最終的に「長剣+短剣と雑に扱える頑丈な武器」という三種の武装に落ち着く。なので今回もそれを見越した選択にしておいた。


 本当は鉈剣よりもクレイモアやグレートメイス、ハルバードなどといった大型の武器が良かったが、それらは重量や価格の問題で諦めざるを得なかった。筋力や武器の重さが基本的には現実準拠らしいのが恨めしい。一応、スキルなどによって補正を掛けることで扱えるようになるそうなので、今後に期待しよう。


 その他には帯剣用のソードベルトを武器に合わせて三本購入。

 さすがに刃物三本を常に手で保持しておく訳にもいかない。

 私は出来る女なので、こういう買い物に抜かりはないのだ。


「初回だからおまけしといてやるか……」


 ……ふふふ、何故か店主のおじさんが()()()()()()()()()()()()()を更に三本、購入した武器に取り付けてくれているのは見なかったことにしておこうかな。



「代金は全部で4500ウェルだな」

「4500ウェルね。了解」


 ウェル──これはこの世界(ゲーム)における通貨単位のことだ。

 私はまだ金銭感覚が定かではないが、おおよそ1ウェルが1円程度らしい。

 ここに来る前に通りがかった屋台では、串焼き一本が200ウェルだったので、食べ物や日用品は現実世界とそう大差のない感覚で考えても問題はなさそうだ。


「あっ、身に着けていくから包装は要らないよ、おじさん」

「そうか? そりゃ、ありがたい」

「でしょー。私は売り手に優しい消費者なのです。で、ものは相談なんだけど」

「あん?」

「……まからない?(……安くならない?)」

「無理」


 くっ、エコバッグ割引は未実装か……!


「ちぇー。持ってけドロボー」

「おう。4500ウェル、確かに受け取ったぜ」


 私がインベントリから代金分の貨幣を取り出してカウンターに積み上げると、店主のおじさんはニヤリと笑ってそれを受け取った。


 これで私の手持ち資金は残り10500ウェル。

 身支度も済んだので、残りは当面の活動資金に()てるとしよう。


 ちなみにゲーム開始時の初期資金は5000ウェルだったのだが、実はこの「始まりの街」では各ギルドに登録することで支援金として更に5000ウェルずつの貨幣を追加で得ることができる。

 私も当然、ここに来るまでの道中で「開拓者ギルド」と「冒険者ギルド」、「交易ギルド」の三つに登録して、合計15000ウェルの軍資金を嵩増しておいた(他のギルドは条件を満たさないと登録ができないらしい)。


 これがカームに教えてもらった「初期資金にちょっぴり色を付ける豆知識」の正体だ。その恩恵によって、私は装備を揃えてなお、こうして初期資金の倍ほどのウェルを残すことができたという訳だ。カームと出会わなければ私のお財布は今頃もっと軽くなっていたかもしれない。



「それじゃ、おじさん。また来るから、その時もよろしくね」

「ああ。金を落としていってくれるなら大歓迎だ。いつでも来な」

了解(りょーかい)ー」



(よし、買い物完了。えーと、カームちゃんはどこだ──?)


 支払いを済ませてから店内を見回すと、出口付近にカームの姿があった。

 いつの間にか移動していたらしく、何やらコンソールを操作しているようだ。


「おっ待たせー!」


「ニキータさん、もうよろしいのですか?」

「うん。大体の感覚は掴んだし、あまり待たせるのも悪いしね。いいお店を教えてくれてありがと、カームちゃん」


「いえ、当然のことをしたまでです」

「さすが騎士。カッコイイなあ」

「そんなことはありません」

「クールだねえ……」


 そこがまたイイんだけど。

 でも、このコは終始無表情だから笑顔も見てみたいな。

 普通にしてても可愛い彼女が笑うとどうなってしまうのか。

 お姉さんは興味しんしんです。


「それよりも、次は実戦で武器を試してみませんか?」


 お! ありがたい申し出だ。

 私も丁度、試し斬りをどうしようか考えていたんだよね。

 けど、いいのかな。彼女にも予定がありそうなものだけど。


「カームちゃんは時間とか大丈夫? 随分と拘束しちゃってるけど」

「はい。私はまだ時間に余裕がありますので」

「そっか。じゃあ頼りきりで悪いけど、もう少し付き合ってもらっちゃうね」

「お任せください。では、街から出てすぐの平原で狩りをしましょう」

「おー!」


 いよいよ戦闘か。

 デビュー戦で保護者役が居てくれるのは心強いな。

 うまくやれるか不安だけど、迷惑をかけないようにしなくちゃ。


「ところで……、どうしてそんなに沢山のベルトを買われたんですか?」

「う"…………サービスいいよね、このお店──」

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