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第ニ話 降り立った街での出会い

◆始まりの街・ラウラニイ 中央広場


 最後の項目を決めると、その後は早いものだった。

 光に包まれた私は次の瞬間、石造りの街に立っていた。


 どうやら、ここは街の広場らしい。

 おそらくは何らかの偉人を象っているのであろう石像の傍に私は居る。

 周囲を確認すると、多数の人々や荷車、馬車が行き交う姿も見える。


 ──だが、そんな()()()()()()即座に私の頭の中から追い出された。

 何故ならば、視界に飛び込んできた景観に目を奪われてしまったからだ。


 キャラクター作成を行った空間と齟齬(そご)のない造形の近世ヨーロッパ調の建物。

 新緑を揺らして吹きぬける風。暖かに降り注ぐ陽光。

 そして、広場から見渡すことのできる蒼い大海原と水平線。


 現実のそれらと寸分と違わない──いや、それよりも美しいとさえ思える世界が目の前に広がっていた。


「すっごいな……私が今まで遊んでいたゲームとはいったい何だったのか」


 もしかすると、今まで観てきたVRの中でも屈指の出来栄えかもしれない。

 私はしばらくの間、街の景観に圧倒され、立ち尽くすことしか出来なかった。




「────おおっと、いつまで見惚れてるんだ、私は!」


 ふと、我に返る。

 いつまでも風景に見とれていては何も始まらない。

 私もプレイヤーとしての第一歩を踏み出さねば。


「でも……まず何をすればいいんだろう? チュートリアル?」


 しかし、チュートリアルらしきものが始まる気配はない。

 というか、チュートリアル自体存在するのだろうか?

 正直、ここから何をどうしたらいいのやら。


(えっと、メニュー画面ってどうやって開くんだっけ…………よし、開いた。この辺はシミュレーターゲームと同じか)


 メニュー画面を開くと、ニキータという自身の名前やHP、MP、SPといったパラメーター群が表示された。


 パラメーターといっても、STR(筋力)やDEX(敏捷)といった古今のRPGでおなじみのステータスは一切見当たらず、HPなどには色の付いたバーが表示されているのみで数値は表記されていない(もしかすると意図的に数値部分を不可視にしてあるのかもしれない)。他には「所属している勢力」や「信奉している神々」、「スキル一覧」や「インベントリ」なども目に付いたが、いずれも未設定だったり、空白だったりした。


 空き部分が多いのは、まだゲームを始めたばかりだから当然かもだけど……困った。次に向かうべき場所とかが書いてくれてあるものだと思ったんだけどなあ。

 最近のゲームはこういう仕様なのかな……。



「むむむ……」



「あの、そこのお姉さん」

「ん。私?」

「はい。そうです」


 悩んでいると、見知らぬ女の子に声をかけられた。


(おお! すっごい美少女……騎士だ! かわいいっ!)


 私に話しかけてきたのは、白銀の甲冑を纏った騎士だった。

 背丈は私よりちっちゃいけど、蒼いマントを羽織り、腰には剣を提げている。

 まさにファンタジー! そのヒロイックな姿に私は再び目を奪われた。


 でも、私に何の用事だろ。

 ……まさかナンパだったりして。いや、でも相手は女の子だしなー。

 まあ、この子可愛いし、同性でも全然うれしいけどさ。


「いきなりですみません。もしかして、何かお困りだったりしますか?」

「え」


 ナンパじゃなかった。当たり前か。

 そもそも、そういうゲームじゃなかったね、これ。

 察するに彼女は、この場所から動かない私を見かねて声をかけてくれたのかな?


「……えーと、実はゲームを始めたばかりで、何をすればいいのかわからなくて」

「やはりそうでしたか。確かに最初は迷いますよね。とくに案内もでませんし」


 よかった。私が特別ゲーム音痴だというわけでも無いらしい。

 最初にどうすればいいか迷ってしまうのは、それほど珍しくもないようだ。

 でも、ちょっと不親切じゃないかな、このゲーム。

 VRのクオリティはすごいけどさー。


「ねー。急に街の中に放り込まれても困るって」

「わかります。私も最初そうでしたから」

「あ、やっぱりー?」

「はい」


 なんだろ。この女の子、しゃべり方や立ち振る舞いがすごく丁寧だ。

 それが騎士風の姿と見事にマッチしていて、とても絵になる。

 この子と話していると、自分の粗雑さが浮き彫りになってくる気がするよ。

 

「もしよろしければ、街をご案内をしましょうか?」

「それは助かるけど……本当にいいの??」

「はい。これも何かの縁ですし、遠慮なさらないでください」

「そっか。それじゃ、ありがたく甘えさせてもらっちゃおうかなー」


 渡りに船とはこのことだろうか。

 私のような初心者にはありがたい申し出である。

 もしかすると、彼女が私のチュートリアルだったのかもしれない。


「まだ名乗っていませんでしたね。失礼しました、私はカームと申します」

「私は御影(みかげ)──じゃなくて、ニキータ! よろしく、カームさん」 

「はい。こちらこそよろしくお願いしますね。ニキータさん」


 危なっ! 思わず本名を名乗りかけちゃったよ。気をつけないと。

 で、美少女騎士(このこ)の名前はカームちゃんか。名前の由来は(カーム)

 詮索する気もないけど、落ち着いた雰囲気とよく合ういい名前だなあ。

 私なんて元ネタの映画(ニキータ)と全然共通点がないよ。


「では、さっそく参りましょう。ニキータさんは気になる場所や行ってみたい場所などはありますか?」

「んー。とりあえず服を買わないと、かな。さすがに薄着過ぎる気がするし……」


 今の私は地味なシャツとホットパンツを着ただけの姿だ。

 ボディラインが露わになるデザインで、自分で言うのもなんだが非常にえろい。

 初期装備らしく、見た目からして防御力も何もなさそうな頼りない衣服である。

 目の前に居る彼女が見栄えのいい鎧装備なので尚更そう感じてしまう。


「あとは何か扱いやすい刃物が欲しいかも」


 せっかくRPGをプレイするんだから武具は欲しいよね。

 いきなり騎士風の装備とまではいわないから、最低限揃えたいな。


「わかりました。まずは服飾店からご案内しますね。武器屋さんはその後に」

「ほいさ。順番はお任せ。ついて行くね」



 こうして私は白銀の騎士と共に、始まりの街での第一歩を踏み出した。

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