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第十六話 獲物発見

「よっと!」

「キュィ……」


 短剣を投げつけ、滞空していた巨大な蜂──ピアスビーを撃ち落とす。

 さらに踏みつけ、刺さった刃を掻き抜いて仕留める。


「……ん」


『後ろから三匹来やがったぞ!』

「了解。コイツ、拾っておいて」

『よっしゃァ!』


 続いて、背後から近づく羽音に紅葫蘆(べにひさご)が警告を発してくれたので、私はふり返り、三匹のピアスビーをショートソードと引き抜いたダガーで迎え撃った──。


 今相手にしているピアスビーも数えると、これで四十七匹。

 あれから、私と紅葫蘆は平原のモンスターたちをしらみ潰しに狩っている。

 少しずつではあるが、単独でモンスターを効率よく処理するコツも掴めてきたので、狩りのペースも上がってきたところだ。


「ほい、ラスト。【ダガースロー】っと」


 二匹のピアスビーをショートソードで斬り落とし、最後の一匹にスキルを使って短剣を投げつける。スキルを発動することで自動的に腕から投げ放たれた短剣はピアスビーの体に深く突き刺さり、そのまますぐ(そば)の木へと縫い付けた。

 しかし、そうなってもまだ動いているので、追撃で(なた)剣を放り投げて頭部を破断する。それを受けたピアスビーは今度こそ完全に沈黙した。

 

「うーん。やっぱり【投擲】はスキル以外にも効果が乗るみたいだね」


 私はここまでの狩りでパッシブスキル【投擲】の検証もしていたのだが、結果は上々なものだった。その効果はスキルである【ダガースロー】はおろか、普通に武器を投げつけるような動作にまで及び、私の筋力や投げる物体の重さからは考えられないような速度と破壊力を与えてくれている。


 【ダガースロー】の方も使い勝手は悪くない。

 使用後の硬直も短く、SPの消費も軽微。今のところ私自身が習得しているスキルの中ではもっとも燃費がいいスキルといえるだろう(他のスキルはSPゲージを大きく消費する上に硬直も長かった)。


『だから言ったじゃねぇか。投擲に関連する行為全般に乗るってよォ』

「いやー、検証できるものはキチンと確かめておかないと納得できない性分でさ」

『……面倒くせぇオンナだなァ』


 それはお互い様……というか、私の方は別に面倒くさくなんてない。

 こんなにいい女を捕まえておいて何を言うのだろうか、この瓢箪は。

 ヴァリアント側からすればきっと大当たりだよ、私?

 もー、見る目がないなあ紅葫蘆ってば。


『しっかし、よくもまあ、ここまで簡単にモンスターを見付けられるなァ』

「そうかな? まあ、初日に先輩プレイヤー(カームちゃん)から色々と教えてもらったからねえ」

『ほお。俺様が見たログにはそんな会話は無かったが?』


 それは当然だ。

 実際に私はカームからモンスターの生息域については何ひとつ聞いていない。

 今、私がモンスターたちを見付けられているのは、初日の狩りで対象を見かけた場所や、それらしい痕跡から適当に当たりを付けているからだ。


「言葉で教えてもらうだけじゃなくて、よく見て学び、自分の頭で考えて覚えるのが大事なんだよ、紅葫蘆」


『かっ! 説教かよ。実は年寄りなのか? テメェはよォ』

「アハハ……、叩き割るよ?」

『じ、冗談だよ、冗談! ほれ、さっさと次行こうぜ!』

「はいはい、そういうことにしておこうか。……ちなみにお酒はもう造れそう?」

『作成スキル数回分ほどは溜まったが、やってみるか?』

「いや、どうせならもっと溜めてから一気にパァーっと造ろう」


 だって、その方が飲み甲斐がありそうだし、おつまみだって用意したいし……。


『了解だァ。んじゃ、もう少し栄養価の高そうな獲物を頼むぜェ!』

「おっけー。……といっても、そんなに都合よく大物なんて──」





「────居るもんだね」

『おう。だが()()()も居やがるなァ』


 数分後、平原を探索していた私たちの目の前には巨大な熊型のモンスターと、


「くっ、ヒール頼む!」

「はい! 中衛二人は回復に合わせて前に出て!」

「よっしゃ!」

「了解」


 それを相手にパーティを組んで戦うプレイヤーらしき人たちが居た。


 人数は四人。声からして男女が二人ずつ。

 装備構成は男性二人が全身鎧の大盾+メイス持ちと、ロングソードに盾を装備したソードマンスタイル。女性二人は長槍を装備した軽装戦士と、ローブと杖を持った神官風といった感じだ。


 見たところ、大盾持ちがモンスターの攻撃を引き受けて、神官風の女性が回復。他の二人は押し引きを繰り返して戦闘に参加しているようだ。


 実にRPG的な戦い方である。

 私もレトロゲームではこういう戦い方をしていたものだが、VRゲームで実際に見るのは初めてなので少し感動してしまった。


「グゴアァァッ!!」

「おおおおっ!!」


 そして、戦況はプレイヤー優勢。

 熊型のモンスターはすでに全身が傷だらけだ。

 しかし、モンスターの巨腕から繰り出される一撃はかなり強烈らしく、盾を持って囮役を務めている重装備の人物も辛うじて耐えしのいでいるように見える。

 あんなのをまともに受けたら私の重量だと吹き飛んじゃうね、きっと。


 さて、このまま見ているのも時間が勿体ないんだけど、


「……どうしよっか?」

『どうするってお前、そりゃ決まってンだろうが』

「だよねー」

『あたぼうよォ』


 うんうん。

 紅葫蘆も私と同じ意見みたいで何よりだよ。


「邪魔をするのも悪いし、ここは──」

『どっちも倒して俺様たちの総取りに決まってんだろうがァ!』


「おっと?」

『ん? 違ったか?? テメェならそうすると思ったんだが……』


 待って。コイツは私をいったいどんな人間だと思っているのだろうか。

 いやいや……さすがに後から来て横取りなんて常識的に考えて──、


『アレは栄養価が高そうだァ。おまけにユニークモンスター付きだ。酒と金になるぜェ? 間違いなくなァ』


 ──やってみる価値があるね。そういうのも面白そうじゃん。


「よし、やろう」

『オォ?』

「冷静に考えたらプレイヤードロップも人数分貰えるわけだし、おいしいよね」

『勝てれば、だけどなァ』

「こっちに背中を向けてくれる状況だよ? しかも向こうにはまだ気付かれていないし……」


『クククッ、それならよォ……俺様にいい考えがあるぜ?』

「いいよ、聞かせて。その上で仕掛けよう」


 紅葫蘆に名案があるそうなので、しばし作戦会議。


『──って訳だァ』

「いいんじゃないかな。ちょっと予定とは違うけど、元は取れるんでしょ?」

『そこはテメェの手際次第だがなァ』

「大丈夫、大丈夫。私、実は不意打ち奇襲に騙し討ちも得意なので」

『……お前、本当にリアルじゃ堅気なのか??』

「シミュレーターの中での話だってば!」


『まあ、いいかァ。対人戦のお手並み拝見といくぜ。ニキータ』

「そっちこそ。【スキル】のタイミングは委ねたよ、紅葫蘆」

『任せなァ!!』

「じゃあ──行くとしようか」


 私はブッシュマントに付いていたフードを目深にかぶり、足音を殺して眼前でモンスターと戦うプレイヤーたちへと忍び寄った。

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