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第十一話 神殿へ

◆始まりの街・ラウラニイ 神殿前



「ここでいいんだっけ」

「だな」


 酒場で()()()()()のお酒とお喋りを楽しんだあと、私はゲイルと共にこの街で唯一の神殿へと赴いた。


 目的はもちろん、自身の[ヴァリアント]を得ることである。

 ゲイルから聞いた話によると、"ヴァリアントは神殿で授かるモノ"というのが現在の「フロンティア・オンライン」では一般的な認識なのだそうだ。


 とはいえ神殿に限らず、ヴァリアントを手にする手段は他にも複数存在する。

 例えば特別なクエストの報酬であったり、NPCと仲良くすることで発生するイベントでの入手、さらには強力なモンスターの撃破というのものまであり、その条件は実に多彩だ。


 しかし、それらの情報も今でこそプレイヤー間に広く知れ渡っているが、先達のプレイヤーたちはかなりの苦労を強いられたらしい。


 特にサービス開始当初などは全くの手探りだったらしく、運よくヴァリアントを得たプレイヤーの中には、突発的にフィールドで出会った存在と契約したり、危機的状況で発現したりといった物語の主人公的な出会いの例もあったそうだ。


 ……けれど、私は別にそういった展開をこのゲームに求めてはいない。

 楽にヴァリアントを入手できるであれば、それに越したことはないとも思う。

 なので、いち早くヴァリアントが手に入るであろう"神殿で授かる"という方法を知れたのは幸運だった。これは私のような後発プレイヤーの特権であるといえるだろう。


 それに神殿でヴァリアントを授かる利点はそれだけではない──、


「確認なんだけど、神殿で『信奉する神々』を決めてからヴァリアントを授かればいいんだよね??」

「おう。その手順で間違いない。逆にしたら意味ねえから気をつけろよ」

「さすがにソレはナイかなー」


 ──神殿では「『信奉する神々』を設定すること」と「ヴァリアントを授かること」の両方が同じ施設内でできる。そして、ヴァリアントは『信奉する神々』の項目にどのような神様を据えているかによって属性や姿をある程度絞ることが可能なのだ。これこそが、わざわざ神殿という場所が推奨される理由なのである。


「あとは授けられたヴァリアントが生物型になるか無機物型になるかの条件だが、それは神殿でヴァリアントを授かる時に捧げる"触媒"によってほぼ決まるってのが定説だな。で、触媒に関しては、ざっとお目当てのヴァリアントに関連するような物でいい。生物型狙いなら爪とか骨、無機物型狙いなら鉱石とか武具、みたいな感じでな」


 ()()()となるゲイルの説明を聞いて、私は待ってましたとばかりにポケットから準備していたアイテムを取り出した。


「触媒なんだけど、私は生物型を狙っているからコレでいいかな? ほら、さっきここに来る途中に露天で買ったボイルドエッグ!」

「…………いいんじゃねえの?」

「で、信奉する神様は『炎の神様』と『竜の神様』! どう? 完璧でしょ、この組み合わせ!」

「……狙える可能性があるってだけで、確定じゃねーけどな」


 生物型の触媒である卵と炎の神様+竜の神様への信奉。

 これぞ私の望む結果を獲る為に今実現可能な最善手。

 私が求めるヴァリアント……それは"炎属性のドラゴン型ヴァリアント"だ。


『炎系のヴァリアントならやっぱり剣かな? 「レーヴァテイン」とか「フレイムタン」とかみたいに』

『そうでもねえな。槍型とか弓型もいるし、篭手型ってのも見たことがある。それに何も無機物だけには限らねえ──』


 ゲイル曰く、炎属性ヴァリアントにも様々な型があり、馬型や鳥型のような生物系も多く存在するらしい。


 ならば! と私が思い至ったのが「ドラゴン」型だった。

 映画や海外ドラマ、ゲーム、小説に絵本などでも火を吐くドラゴンというのは王道的存在といえる。翼を持った竜に乗って大空を飛び回るというのは、ファンタジー作品に触れたことのある者であれば誰だって一度は思い描く姿だろう。私も憧れた時期があった──サラマンダーより、ずっとはやい! ……いや、炎属性のドラゴン狙いだからサラマンダーみたいなのになる可能性もあるんだけどさ。


「ドラゴン型はクセが強いって聞くけどなあ」

「いいじゃない、少しクセがある方が特別感もあるし」


「そういうもんか? ま、好きにすりゃいいさ。……んじゃ、オレはもう行くわ」

「あれ、ここでお別れ?」

「オレは特に神殿に用事もねーし、お前に決闘で持っていかれた分を稼がなきゃいけねーんでな」

「そっかそっか。じゃあ、また貯蓄が出来たら決闘しようね」

「ケッ」


 背を向けて立ち去ろうとするゲイル。

 ふと、その後ろ姿を見て私は、彼に借りている物があったことを思い出した。


「そうだ、待って!」

「……なんだよ?」

「これ、返さないと──」

「おまっ! ちょ、こんなとこで取るな!」


 面倒くさそうにこちらに振り向いたゲイルが慌てて顔を背ける。

 何故かというと、私が胸に巻いていたバンダナを外したからだ。

 このバンダナは二回目の決闘を始める前に彼が「気が散るから隠せ」と言って貸してくれた物で、すっかり忘れて今までずっと巻きっぱなしにしていたのだった。


 これは戦利品でもないし、借りた物はキチンと返しておかないとね。

 ……にしても、このリアクション。やはりゲイルをからかうのは面白い。

 

「あはは、大丈夫だってー。ほら、みてみて、もう見えないよ!」


 思い通りの反応が得られて満足したので、インベントリから「ブッシュマント」を取り出し、それを羽織ってからゲイルに声をかける。


「お前なあ……って、このダガーは……いいのかよ」

「色々教えてもらったし、これはそのお礼かな?」


 私はバンダナと一緒に、ゲイルからプレイヤードロップとして手に入れたダガーを本人に返しておいた。なんだかんだ言いつつもここまで付き合ってくれた彼には、このくらいのお返しはして然るべきだろう。


「ゲイル君、ありがとう。おかげで助かっちゃった。意外と親切だよね、キミ」

「そんなんじゃねえ。どうせなら対等の条件でお前を倒してえだけだ」


 これは……照れ隠しかな?

 視線を外しながら某戦闘民族の王子みたいな台詞を吐き捨てるゲイルに、私は思わずニヤついてしまった。


「むふふ、そういうコトにしておいてあげる。それと私の名前は"お前"や"アンタ"じゃなくてニキータだよ、ニキータ。ちゃんと名前で呼んで欲しいなー」

「ハイハイ、そうかよ…………じゃあな、ニキータ。フィールドで見かけたときは容赦しねえからな。覚悟しておけよ!」

「バイバイ、ゲイル君。その言葉はそっくりそのままキミに返すよ!」


「ヘッ──」

「フフッ──」


 ゲイルは私の顔を一瞥して僅かに笑みを浮かべると、そのまま路地裏へと吸い込まれるように姿を消した。

 次に会う時は、彼に私のヴァリアントをお披露目して驚かせてあげるとしよう。

 そのためにも今は、やるべきことが目の前にある。


「さあて、私も行きますか!」





「ようこそお越しくださいました、稀人(まれびと)さま」


 神殿に入るとまず、如何にもな服装に身を包んだ男性が出迎えてくれた。

 年齢は四十代後半といったところか。

 きれいに切り揃えられた髭が清潔感を醸し出していて実に得点が高い。

 このゲームのNPCは美形率が高いので、身だしなみさえ整っていれば私のような面食いでもほとんどの相手が守備範囲だ。とても目の保養になる。


 神殿の内部は白を基調とした石造りのシンプルなもので、どこもかしこも鏡のように磨き上げられてうっすらと光を放っており、リアルさと現実離れした様相が同居する不思議な空間になっている。


「して、本日はどういった御用向きでしょうか?」

「えっと……なんていうのかな……神様を信奉しようかな、と思うんですけど」

「左様ですか。では"神託の間"へとご案内いたしますので、どうぞ神々への祈りをお捧げください」


 わお。結構大雑把な言い方だったんだけど、通っちゃったよ。

 こんなのでいいのか神殿。警備甘すぎない?

 私がプレイヤーだからっていうのもあるかもしれないけど……うーん。



 神殿の奥へと続く通路を進むと、やがて開けた場所に出た。

 そこは天井が高く、暖色で組まれた色鮮やかなステンドグラスのある部屋で、中心には祭壇のような白い台座が設置されている。

 どうやら、ここが"神託の間"と呼ばれる場所らしい。


「どうぞ。お祈りが済みましたら部屋の外に神官がおりますので、お声をおかけください」

「はーい。ありがとうございます」

「あなたに神々の加護がありますように」


 さて、作法も分からないけど、お祈りしますか。

 私は台座の前に跪き、掌を組んだ。

 すると──、


《新たな神を信奉しますか?》


 聞き慣れたシステム音声が聞こえてきた。

 そして、それに続いて台座の前にコンソールが現れる。

 コンソールには『信奉可能な神々』と銘打たれた名簿らしきものが表示され、そこには神様の名前らしきものがズラリと羅列されていた。しかも、ご丁寧に検索欄まで用意されている。


 色々と台無しだけど、分かりやすいのでよし!


 ええっと竜の神様は……っと。


 『竜神ズメイ』


 お。あったあった! 

 名前はズメイ様っていうんだね。

 よし。ついでに炎の神様も確認しておこうか……ん??


 私が信奉する予定の神様の名前を探していると、突如として名簿のスクロールバーが勝手に動き出した。それもかなりの高速だ。物凄い速度でスクロールバーが下へと向かって動いている。


 うわっ、なになに? システムのバグか何か??

 その挙動に驚いていると、スクロールバーは急にピタリと止まり、ある神様の名前を指し示した。


 『酒神バッカス』


 ……お酒の神様?

 これは現実でも聞いたことのある名前だ。確かギリシャ神話の神様だったかな。

 ちょっと興味はあるけど、今はお呼びじゃないなあ。


 それにしても今のは何だったんだろう?

 あとで運営に不具合報告をしておいた方がいいのかな。

 とりあえず気を取り直して、と。


 スクロールバーに触るとさっきの二の舞になるかもしれないと考え、私は検索欄をタップして音声認識で「炎」とキーワードを入力。コンソールに付属している検索機能を使ってお目当ての神様を探すことにした。

 

 ……すると、まただ。

 またしてもスクロールバーが暴れだした。

 検索が終わり『炎神アグニ』の名前が表示された直後、再びスクロールバーが大きく動き、別の神の名前を指す。


 『酒神バッカス』


 なぁにこれぇ。

 この後、私は懲りずに五分程荒れ狂うスクロールバーと格闘したが、結果は変わらず何度やっても『酒神バッカス』へと誘導された。途中からは、もはや意地になりつつあったのだが、それと同時にスクロールバーと争うのが馬鹿馬鹿しくもなってきたので私は手を止めた。


 オーケイ。冷静になれ私。

 大丈夫。『信奉する神々』の枠は全部で三つある。

 とりあえずキリがないので、ここは何故か推されている『酒神バッカス』様とやらを信奉してみるとしよう。そして、しかる後にあらためて竜神ズメイ様と炎神アグニ様を信奉すればいい。それで全て解決だ。何もいちいち謎の挙動をするバーと争う必要なんて無かったのだ。


 『酒神バッカス』を選択と。


《酒神バッカスの信奉者となりますか?》


 はいはい、YESっと。

 選ぶつもりはなかったんだけど、こうしないと進みそうにないんだよね。

 私はコンソールを操作し、音声アナウンスと同時に表示された選択肢をタッチした。


 ……やっぱり運営には後で不具合報告をしておこう。

 スムーズなプレイに支障をきたす不具合だよ、コレ。


《あなたは新たに『酒神バッカス』を信奉しました》

《酒神バッカスからオラクルルームへと召喚されています》


「よし。……え、召喚──?」


 私は光に包まれ、視界がホワイトアウトした──。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神様の押しの強さ(笑)
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