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ページ09~夢の中

 ここはどこだ。目の前にいるのはお母さんとお父さんと秀治だ。俺は座っている。手には箸を持っている。そして、辺りを見回しているうちに手が勝手に動き口に食事を運ぶ。今、何を食べている? 焼き魚だ。青魚だ。


 なにか、雰囲気が異様だ。お母さんの顔を見る。あれ、お母さんってどんな顔してたっけ? この人がお母さんだということはハッキリと分かるのにこの人の顔がハッキリと見えない。お父さんも秀治も顔がぼやけてうまく見えない。でも、僕の家族だ。


 「相棒、なんて面してんだ」


相棒だ。相棒の元木 励がいつのまにか隣にいた。


 「遠藤ダイトーリョー、アメなめる?」

 加藤だ。加藤 奈々が俺の目の前にアメを差し出した。そのアメは手でつままれて、口へ運んだ。そう、狩加 根太の。


 「もう、そのアメは遠藤にあげたの」


 「言ったろ お前の アメは 全部 オレが なめる ってな」

前から思っていたけどどんなやり取りだこれは。


「あんたは大統領に相応しくない。相応しいのは伊勢木だ」

 北村 激だ。


 みんないる。みんながこっちを見ている。頭の中が真っ白になっていく。


俺は大統領に相応しくない?


 やめろ。やめろ。やめてくれ。


 やめてくれよ

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「やめてくれ」

ほのかに明るい。天井は溝がある。バレーボールが一つ溝に挟まっている。ここは、体育館か。俺は仰向けに寝ている。


 ああ、さっきまでのは夢か。


 「あっ、起きたんですか? おはようございます遠藤さん。あっ、そうだ遠藤さん。七時三十分にここに戻ってくればそれまで自由時間だそうです。あと、遠藤さんにあだ名つけてもいいですか?」

 この女の子名前なんて言うんだっけ。思い出せない。


 「起きたか エンデュー 面白い もの 見せて やる」

 狩加が俺にそう声をかけた。


 「ああ、おはよう狩加。面白いものってなに?」

 俺はそう言いながら現実に意識を慣らす。現実ってなんだ?  脈拍が一拍、鼓膜に響く。そういえばこいつは勝手にあだなを付けたな。


 狩加は手招きした。狩加は体育館の外にいる。


 「適当につけてくれ」

 女の子にそう言ってから俺は狩加の方へ歩いていった。


 狩加は無言でグラウンドに俺を誘導した。


 グラウンドは抉れていた。直径五十センチメートルぐらいの鉄球が通ったような跡が一筋残っていた。


 「ミステリー サークル ならぬ ミステリー ライン だな」

 狩加特有の独特のリズムでミステリーラインと名付けられたそれに一つ心当たりがあった。相棒と喧嘩したとき地面に引きずられた記憶がある。これは、その跡ではないのだろうか? あの時は暗くて何が何だかわからなかったが明るくなった今見ると痛々しい傷跡だ。


 俺の体や相棒の体には大した傷はなかったが校庭にこんな傷が残っていたとは、ごめんなさい校庭。


 「不思議だな」

 そう言って誤魔化した。


 「エンデュー なんか 大統領 っぽくなったな」

 狩加が俺を認めてくれた のかな?


 「そうか」

 口ではそれしか言えなかったがかなり嬉しかった。


 狩加は笑った。


 俺も笑った。


 「おっはよー、ふったりっともって、()()()()!!」

 桜風が元気に挨拶してくれた。そして、絶句。


 「なにが、あったの……」

 桜風が絞り出すようにしながら俺たちに聞いた。ちょっと可愛い。


 「うるさいなぁ、桜風。あっ、これは昨晩俺と相棒が殴り合った跡だな」

 桜風に続いて相棒も体育館から出てきた。


 桜風が俺と相棒を交互に見て、交互に指刺した。




 「二人がやったの!!?」


 桜風が大きな声で言った。少し耳が痛くなったがちょっとだけ誇らしかった。


 「ああ、正解だ。桜風」

 相棒が楽しそうに言った。


 『うるさいな、なにをやっているんだ?』

 これは勉のテレパシーだ。


 『あっ、勉。今どこかいるの? ちょっとグラウンド見てよ』

 桜風が勉にテレパシーを送り返した。


 『一体全体、なんだというんだ』



 『……これは何?』

 数秒の間を置いて勉から質問が来た。


 『俺と相棒がやったのさ』

 またも相棒が誇らしげに伝えた。


 『殴り合った時にか?』


 「ああ、正解だ。畑野」

 相棒は嬉しそうだ。


『こんなこともできるのか。アカシを使えば』 

 勉のテレパシーから好奇心が読みとれた。


 「そうだ相棒、試したいことがあるんだ」

 今の勉のテレパシーでアカシに出来ることを考えて一つ思い出したしたことがあった。相棒と俺でそれを再現できるか試してみる価値はある。



 「なんだ、相棒」

 そんな相棒の台詞を承諾と取り相棒の両肩に手を置く。そしてアカシを出して相棒に眼で訴えかける。すると以心伝心の相棒はアカシを出してくれた。


 相棒の白いアカシと俺の黒いアカシが混じり合う。


 俺は飛べると一片も疑いなく信じた。


 眼を閉じて深呼吸。Gが全身にかかる。目を開けると俺は飛んでいた。相棒と一緒に。


 やはり飛べた。推測通りだ。火を消すとき伊勢木に触れて同じ事が出来た。夜、花火を追いかけたときに伊勢木に触れても出来なかった。たぶん信頼関係が重要なんだろう。



 だが、そんな事は些末事。今、俺は空を自由に飛べる。だから楽しい。それ以上に大事な事なんてない。そう思えるほどに自由に飛べるというのは気持ちよかった。相棒とは特に言葉もテレパシーも交わさなかった。交わす必要がないほど心が通じ合っていた。


 楽しい。心強い。この二つが俺の心に形成されていくにつれ、さっきまで俺を覆っていた不安が消えていった。


 不安が消えたのは現実逃避なのかもしれない。でも、逃げようがないここで不安につぶれてしまうよりは虚勢でも安心した方が良い。



………………………………………………………

………………………………………

…………………………………

………………

……




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 『おい、時間だぞ。帰ってこい』

 時間を忘れるほど宙を飛んでいたが勉からのテレパシーで現実に引き戻された。


 俺と相棒は浅羽小学校に戻った。


 「遅いですよ。遠藤さん。元木さん」

 浅羽小学校のグラウンドに再び降り立った俺たちに冬野がそんな事場を投げかける。


 一瞬、元木が誰だか分からなかったがすぐに相棒のことだと理解した。


 「あだ名は思いつきませんでした」

 冬野は俺たちにそうほほえんで体育館に入った。俺たちも冬野に続いた。



 「全員揃ったか。議題は二つ、今日の目標と長期的な目標を設定すること。最終決定権は大統領にあり大統領を納得させるためのプレゼン式の会議とする。六人以上の不信任案で再び大統領選挙を行う。それじゃあ始めよう」 

 北村 激がサクサク決めていく。大統領である俺のいる意味がないみたいで少し嫌だったがそれをわざわざ口に出すのは躊躇われた。



 勉が右手を上げた。


 みんなが少しポカンとしていると勉がしゃべり始めた。


 「あぁ、人が消えた原因とアカシを調べて最終的に消えた人を元に戻す。とりあえずは全員の超能力のテストといきたい。だが、その前に一つ提案がある。ここから少し離れた井吉備(いきび)市に移動しないか? 原子力発電所から少し離れたい」

 勉の提案はなかなか合理的な物だった。


 「質問です」

 桜風が手を上げた。


 

 「原子力って何が危険なの?」

 桜風の疑問に明確には答えられなかった。


 「原子力を扱うときの副産物。放射線が体に毒なんだ。この放射線というものは体への害は短期的に見ればそこまででもないんだが、時間経過以外で放射線は減衰しない。そしてそこで暮らすうちにどんどん汚染されて悪化してく」

 勉の解説で放射線の危険性が何となく分かった。除去する方法がないから取り返しがつかなくなる可能性が大きいらしい。


 「でも、放射線治療ってあるよね? あれって大丈夫なの?」

 桜風がおもしろい質問をした。


 「ああ、放射線は人体にも人体に有害な物にも毒なんだ。放射線治療は体の悪い部分を集中的に毒で攻撃する治療法だ。ちなみに一部の放射線が骨や異物を透過しない性質を利用して弱い放射線を当てる検査もある。レントゲンとかな」

 へー、放射線てすごいんだな。


 「放射線と放射能って何が違うの?」


 「この世界の全ての物質は原素からなり原素は一つの陽子と一つ以上の電子からなる。ここまではいいか? 義務教育の範囲だ。まあ、アカシは例外かもしれないが」

 この辺りからいまいちよく分からなくなってきた。


 「で、一つの元素にいくら電子があるかで原素の種類が変わるんだ。一つなら水素、二つならヘリウムという具合にな」


 「スイへーリーべーぼくの船ね」


 「その通り。で、一つの陽子に大量の電子が有ると電子を切り離そうとする性質がある。この性質を放射能と呼び、この能力を持つ物質を放射性物質と呼ぶんだ。で、この切り離された電子が熱になる。この熱エネルギーが原子力だ。この原子力で水を沸騰させて、蒸気でモーターを動かして発電するのが原子力発電だ」



 「へー、原子力発電ってお湯を使っているんだ。これがニュースで聞く汚染水なのかな?」


 「いや、汚染水は事故でも起こらないと処理に困るほど発生しない。ちなみに火力発電も地熱発電も湯沸かし発電だぞ。風力は風車のモーターを回す。水力は水の位置エネルギーでモーターを回す。太陽光は光エネルギーをダイレクトに電気に変換している」


 「なるほど」


 「原子力発電所から離れるのは賛成。行き先も代案無し。ただ、今はそれより食料の大量確保と輸送方を確保したい。それと、長期的目標としては消えた人の復活よりも消えていない人探しの方を優先したい。眼の邪神によればあと二人他にいるらしいからそっちと合流したい」

 北村 激がお勉強臭い話から会議に戻してくれた。


 「私はみんなが笑顔で楽しめたらいいです。例え消えた人に会えるとか会えないとか関係なく仲良く、楽しくいこうよ!」

 桜風が元気に言った。頭の中で桜風がリフレインする。


 伊勢木が手を上げた。


 「少し長くなるが良いか?」

 伊勢木の言葉に俺はうなずいた。



 「俺は正しくあるべきだと思った。

――――俺の言う正しいっていうのはより社会に貢献できること、そしてその準備。昨日の晩、他者の所有物を盗んでも良いものか布団の中で考えた。そして、今の浅羽市はコンクリートジャングル。これまでの正しさは通用しない。人が十数人しかいないから。

――――日本の終戦後、物資が足りず違法な闇市場に行かないと生活必需品が賄えない時期があった。そこで法を順守して餓死した人の記録が残っている。でだ、正義っていうのは自分や他者を護るためにある。他の人たちが戻ってくる保証がない今現在正義を貫いて俺が死ぬのは無為で生きるために盗むのは仕方がないことだ。だから……」


 「盗もうって事か?」

 伊勢木の長い話に北村 激が割り込んだ。


 「そうじゃない。いや、そうだけどそうじゃない。盗みとかをする前にルールを決めるべきだと思う。憲法と法律を罰則込みで。この世界に新たな秩序を作り出したい」

 伊勢木はおもしろい提案をした。


 「はーい、ここでいう憲法と法律の違いって?」

 桜風が重い空気を遮った。


 「そうだな。法律は制定と改正が緩い。憲法は制定と改正が難しい。こんなところか?」

 勉が伊勢木に確認を取った。


 「ああ、法律は五人、いや六人の賛成で制定。憲法は満場一致で制定という感じにしたい。良いかな、遠藤 秀一大統領」

 いきなり俺の名前が出てきて驚いた。うなずくことしか出来なかった。


 「あー、なるほど良いね。じゃあさ、憲法と法律を決めるのと同等以上に重要だと思う今日の方針がある人いる?」

 北村 激がそう言うと桜風が手を上げた。


 「あ、私たちのグループ名決めない? 憲法や法律決めるのにも難儀するでしょ」

 桜風は北村 激にそう提案する。


 「そうだな。大統領が決めてくれ。立法権は大統領にあるんだ」

 北村 激が俺に丸投げした。


 桜風の視線が北村 激から俺に移ってちょっと恥ずかしい。


 今朝見た夢みたいにみんな俺を見つめてきた。でも、相棒の視線は俺を励ますような優しいものでリラックスできた。


 「まずは、朝ご飯を食べよう。グループ名はその後、法律決めはその後、それからの事はそれから考える」

 思ったよりもハキハキと言えた。まるで俺の体が俺の物じゃないとさえ思えるほど滑らかに。違うか、自信がなくて体から離れていた心が体に戻ってきたんだ。

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