ページ06~自己紹介
夜の街を俺たちは進む。進む。
「なあ、さっさと手前らの名前教えやがれ」
名前を知らない柄悪い男がそう言ってきた。
「もう、うんざりなの。新しい人が来る度いちいち名前を名乗るのがもううんざりなの」
加藤の言葉に俺はうなずいた。まあ、名乗るのは伊勢木に任せっぱなしなんだが。
「うんうん カトッチ そのたびに なめる アメも もう うんざりだ」
狩加が意味不明なことを言った。
「狩加が勝手になめるんでしょ」
「浅羽小学校だっけか、そこまで距離はいくらだ?」
北村 激が伊勢木に聞いた。
「向こうの仲間が花火の音と光の時間差から大体二キロだと割り出してくれた」
伊勢木が勉の情報を教えてくれた。
「その仲間とは連絡先交換してないの?」
「あっ、忘れてた」
加藤のまっとうな疑問に天然な回答をする伊勢木。まあ、俺も忘れてたんだがな。
「あなたたちが知ってることを全部教えてくださいね。その二人と合流できたら」
名前を知らない女子が俺たちに言った。
「ああ いいぜ」
狩加が謎の自信をたっぷりに答えた。
「なあ、あんたら。赤い化け物を見なかったか?」
北村 激がよく分からない質問をした。
「赤い化け物だ? 傍目から見れば俺たちは白や黒の化け物だが赤いのは見てないな」
名前の知らない柄の悪いのがそう言った。
「わたしはずっとツッシーさんといたし赤いのなんて見てないです」
女が柄悪いほうを見ながら言った。
「怪物? 知らないけどなんだそれ? 教えてくれ」
名前を知らないぼっちの方の男がそう言った。
「ああ、知らないならいいんだ」
北村 激が興味なさそうにそう言った。
「でも、眼の邪神には会ったよ。赤じゃなくて黒かったけど」
加藤がそう言うが北村 激も会っているはずだ。
「はっ、なんだよ。それ」
柄の悪い奴が怒鳴った。
「しっ、情報共有は合流した後だ」
北村 激が加藤を黙らせた。
後ろから誰かに肩を叩かれた。
「なあ、きみ」
振り返ると名前を知らないぼっちの方の男がいた。
「窮屈じゃないか? この集まり」
突然よく分からないことを言われた。
「窮屈? なにが」
咄嗟にそう答えた。
「この、生き残り集団だよ。ただ集まっただけの烏合の衆。そこを良い居場所だと本気で思っているか?」
彼が何を言いたいのか分からない。
「えっ」
「ああ、分からないか。いや分かろうとしていないのか」
そう言う彼の顔は白い靄で覆われていて真意も感情も読みとることは出来なかった。かろうじて読みとれたのは、確信に満ちた声音だけだった。
「なあ、落ち着いたら二人っきりで話がしたい」
彼にそう言われた。
「別に良いけど」
俺は了承した。
「覚えててくれよ。忘れられると寂しいからな」
彼はそう言いながら俺のことをじーっと見つめた。
「あの明かりだ。そろそろだぞ」
伊勢木の視線の先には懐かしの浅羽小学校があった。
「あそこに 二人 いるんだな」
「あっ、アメ用意しないと」
「オレに 喰われる分を わざわざ 用意してくれて ありがとな カトッチ」
「狩加のためじゃないから」
またも加藤と狩加の漫才だ。
『秀一君、正君、おかえりなさい。どうだった、花火?』
桜風からのテレパシーだ。
『ああ、六人見つけて連れてきたよ。細かい話は全員体育館の中に入ってからだ』
テレパシーで伊勢木が桜風に伝える。
『なんとありがたいことに、こっちはアクシデント無しだ』
勉が心強いテレパシーを送ってくれた。
「なあ、この感覚なんなんだ? どこから誰がしゃべっているんだ?」
さっき俺と二人っきりで話したいとか言った奴がそんなことを言った。
「ああ、精神感応とかいうやつだろ。意識すれば使えるはずだ」
北村 激がざっくりと説明する。
『「本当にか? あっ、できた』」
ざっくりで出来たみたいだ。
『精神感応ってこれのことですか? これなら白いのや黒いのと同じくみんなが消えたときから使えましたよ』
名前も知らない女の子がそう言った。
『そうだ。学校の中の人たち。赤い化け物を見なかった?』
北村 激がまたもよく分からない質問をした。
『「だから、赤い化け物ってなんなの?』」
加藤が俺の質問を代弁してくれた。
『えっ、そんなの』
ここで桜風のテレパシーが途絶える。
『なあ、もしも見たっていったらどうなるんだ?』
勉がそんなテレパシーを送ってきた。
『ああ、見てないなら別にいい』
北村 激が興味なさそうにテレパシーを送った。
「あっ、そういえば飛びながら屋内に入ると大変なことになるので飛ぶのを止めた方がいいと思います」
俺たちが緑色のフェンスを越えきったタイミングで名前の分からない女がそう言った。
「分かってる。うるさいな理恵」
柄の悪い方が嫌な感じで言った。
「ちょっと待って、私飛べないんだけど」
加藤がいきなり高い声で俺たちを呼び止めた。加藤も俺と同じで飛べないんだな。ちょっとだけ親近感がわいた。
「カトッチ 手を貸しな」
狩加はそう言いながら軽々と学校のフェンスを飛び越えて加藤に手を伸ばした。
「狩加ありがと」
加藤が下を向きながら言った。
「アメの礼だ これでも 感謝 してんだぜ」
「あんたにあげたんじゃないでしょ」
「最初の 一つ 以外 はな」
「ふんだ」
「もう、カトッチのアメは全部オレのもんだ。誰にも渡さない」
「もう、何言ってるの? 下ろしてよ狩加」
加藤がそう言いながら狩加の手をふりほどき地面に降り立った。
「この人たちが、生き残りさんたち?」
桜風の声だ。少し安心する。
「おー、八人も集まるとさすがに壮観だな」
勉の声だ。
「さてと、この状況だ。靴を脱いで上がってくれ」
伊勢木が手で扉を示す。
「布団どうしようか?」
桜風がそう言いながら俺と伊勢木に目配せした。
「ああ、俺が取ってくる。その間、巧くやっててくれ」
伊勢木がそう言って布団のある倉庫の方へ歩いていった。
続々と体育館に入っていく俺たち。桜風と勉が自然と布団の上に座るので俺たちも続々と同じ布団の上に座った。体育館の明かりがまぶしいながら安心する。守られてると思う。
「なあ知りたいのはあんたらが人が消えてからこれまでどうして来たか。その全てだ。だが、その前に自己紹介といこうじゃないか」
北村 激がそう言ってあごに手をおいた。
「北村 激だ。互いに迷惑がかからん様、まあよろしく頼む」
数秒の間の後、北村 激が改めて自己紹介した。北村 激の手が勉を差していたので自然と俺たちの視線が勉に向いた。
「畑野 勉だ。勉って呼んでくれ。この白いのと一緒に絶対記憶能力を手に入れた」
勉はそう言いながら白い靄を出した。相変わらず絹のマントみたいで綺麗だ。
「「「絶対記憶能力?」」」
複数人のいぶかしげな声が重なった。
「あぁー、だから人が消えてからのことは何でも思い出せる。僕の見て聞いた範囲ならね」
勉は自信たっぷりにそう言った。俺はなぜだか嫌な気持ちになった。
「次は桜風、頼んだ」
勉はそう言って桜風に振った。
「はーい、私ね。私は桜風 舞って言います。こんな事態だけどなんか遠足みたいでワクワクしてる桜風 舞です」
桜風はそう言った後、ウインクした。元気がもらえた。
「あ、鎧も見せてほしい。無理にとは言わないが」
桜風に北村 激が桜風にそんな言葉を投げかけた。
「鎧? ああ、これのこと?」
桜風はそう言って白い靄を出した。桜風の白い靄は体を這っていて少し欲情をそそられる。顔に白い線が入るとか、純粋にカッコいいし。
「体全体を覆わないタイプもあるのか」
あごに手を当てながら北村 激が言った。
「次は私ね」
そう言って加藤が手を上げた。
「私は加藤 奈々だよ。みんな、アメなめる?」
そう言って開いた加藤の両手には九個のアメが乗っていた。
「そして アメを 全部なめる 男は 狩加 根太様だ」
宣言通り加藤の手からアメを全部かっさらい棒若無人に自己紹介を決めた狩加。つかみはばっちりだ。
「よっこいしょ、ああ、布団はここに置いとくぞ」
伊勢木が戻ってきたようだ。
「自己紹介の最中だったか? 俺は伊勢木 正。伊勢海老のいせに木星のもくで伊勢木。正しいと書いてただしだ」
伊勢木はそう言って布団を六人分置いた。そして伊勢木は黒い靄を消した。あの骸骨みたいな靄は消え去り、ただの人間伊勢木正がそこに現れる。
「えっと、わたしは冬野 理恵です。こんな状況よく分からなくてツッシーさんに助けてもらってここまで来ました。あの、意地悪しないでくださいね」
頬を膨らましながら頭を下げる彼女は少し可愛く、また美しかった。
「ああ、俺は写岩だ。理恵からはツッシーって呼ばれてる」
写岩と柄の悪い男は名乗った。
「ああ、ボクは元木だ。元木 励。ああ、自己紹介していないのはきみだけだね。名前はなんだい?」
俺の方を見ながら彼は名乗った。
「俺は、遠藤 秀一だ。不安が多いが、助けてくれ」
また、修一君の自己紹介で終わらせちゃったのですよー