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ページ04~炎

マッハ1の速度で二秒走ると3キロメートルぐらい進めるらしいのですよー

 「火を消す方法は三つ。冷やす、酸素を奪う、燃焼物を無くす。冷やして火を消すのはあまり現実的ではない。だが、燃焼物を無くすのも危険が伴う。つまり」「水を思いっきりかければ良いってことね」

 勉の早口を桜風が遮った。


 「いや、水をかけるのは油が原因の火災の場合逆効果だ」勉が桜風のアイディアを一蹴する。「じゃあ、消防車を呼ぼうよ。番号は?」桜風がスマホを取り出す。


 「119だが、呼んでも来ないだろ」


 「119のなに?」


 「119だけで良い」


 「あっ、そっか。あれっ、119って救急車の番号じゃない? 消防車の番号は?」


 「一緒だ」


 「一緒ってなに?」


 「救急車も消防車も同じ番号で来る。でも、人がいなきゃ救急車も出動できないだろって話」


 「なるほど」

 勉と桜風の会話はとてもハイスピードで、つい聞き入ってしまった。ただ、今までの話を聞いて一つ解決策を思いついてしまった。


 「じゃあ、俺のパンチで吹き飛ばせば解決だな」

 そう、解決策とは俺の拳。


 「駄目だな。バックドラフトや他の物に燃え広がる危険性がある」

 勉は俺のアイディアも一蹴した。


 「バックドラフトってなに?」


 「バックドラフトってのは燃焼中の密閉空間に大量の酸素が入ると爆発するという現象のことだ。えっと、だから」

 勉が桜風の疑問に答える。


 『おい、桜風 舞、畑野 勉、遠藤 秀一』伊勢木のテレパシーが聞こえた。


 『消火器を持ってきたんだが、いくつ使いたい?』


 「なるほど、消火器か。どこから取ってきた? あっ、浅羽小学校か」


 「合ってるぞ。すごいな勉」伊勢木が煙の出ている方向から飛んでやってきた。


 「さあ、着いてこい」そう言って伊勢木は俺の手を取った。伊勢木の黒い靄と俺の黒い靄が触れあったとき体の芯が暖かくなった。


 伊勢木の黒い靄と俺の黒い靄が混ざって、変な感じになった。思考がうまくまとまらない。


 「落ち着いて、一緒に踏み出そう」

 そんな伊勢木の台詞が自分に言い聞かせてるみたいに聞こえた。


 伊勢木の鼓動が息づかいが聞こえる。少しずつ俺と伊勢木のリズムが同調していく、伊勢木の体の動きが分かる。

 伊勢木と同じタイミングで跳ぶ。伊勢木に導かれるように飛べた。さっきは空を飛ぶなんてどうすればいいのか分からなかったけど、それが不思議に思えるぐらいには当然のように飛べた。


 横には勉と桜風。これが、仲間なのかな?


 「少なくとも僕たちは運命共同体だ。仲良くやろうな」

 勉が軽い感じで言った。


 「じゃあ、今から仲間になろうよ」

 桜風がまばゆい笑顔で言った。


 「少なくとも今から一緒に消火する仲間だ」



 「ああ」

 俺は、そう答えた。


 眼下には燃える車、人のいない町。そして伊勢木が用意してくれた六本の消火器。


 車の回りで揺らめく炎は容易に目が離せなくなるほど美しかった。


 「アチッ、アッツイ」

 着地した桜風が高い声で悲鳴をあげて燃えさかる車から離れた。車の火は周りの生け垣にも燃え移っている。そこまで熱さは感じない。


 「なんで、そんなに男子たちは平気そうなの? というか煙い」

 桜風から別の生き物を見るような目で見られた。


 「この鎧のおかげで煙や熱を防いでいるのかもしれない」

 伊勢木がそう言って俺が黒い靄と呼んでいた物を表現した。たしかに、桜風は靄の量が極端に少ない。


 とりあえず桜風を除いた俺たち三人で消火器を一本ずつ持った。


 「黄色いのを押さえているシールをまず剥がして」

 伊勢木の指示通りシールを剥がした。


 「そして、黄色のを抜く」

 伊勢木の指示通り消火器の黄色いピンを外した。


 「次に下のホースを外して左手で持つ。右手はレバーを握る」

 伊勢木の指示通りに持つ。


 「ホースを火に向けて、レバーを強く握る」

 伊勢木の指示通りに、火にホースを向けで強く握った。すると消火器から白い煙が出た。


 火が少しずつ弱まっている気もするが焼け石に水な気もする。


 でも、消火器初体験は新鮮で気持ちよかった。


 一陣の風が吹いた。その風の周りから炎が消えていった。


 「へっへーん」と誇らしげな桜風の声が聞こえた。



 炎は完全に消え去った。


 車や生け垣から完全に煙が出なくなった。


 「まさか、テレキネシスで一酸化炭素を操り消火したのか」

 勉が桜風が今なにをやったのかを解説してくれた。


 「テレキネシスってなに? 一酸化炭素って?」


 「テレキネシスとは思った通りに物を動かす超能力のこと。一酸化炭素とは燃焼するときに出る煙で不安定。酸素を奪って二酸化炭素になって安定しようとする性質がある。吸ったら死ぬ」

 桜風の疑問に勉が答えるのも様式美になってきたな。



 「その消火方法は思いつかなかった。桜風 良い発想力だな」

 伊勢木が桜風を褒める。俺もあんな風に褒められたいな。


 「えっへん」

 可愛く胸を張る桜風に少しときめいてしまった。


 「でも、正君。誰にも言わずにふらっといなくなって消火器持ってくるのはあんまり良い発想力じゃないよね」

 桜風はそう言って伊勢木に詰め寄った。良い発想力じゃないという表現は少し引っかかったが言いたいことは分かる。思えば伊勢木の下の名前は正だったな。


 まだ伊勢木と出会ってからそんなに経ってないのに『思えば』使っちゃったな。まあいいけど。


 「桜風、悪かった」

 伊勢木はそう言って頭を下げた。


 「次に単独行動するときはみんなに言うから安心してくれ」

 伊勢木は骸骨みたいな靄を引っ込めて桜風の目を見ながら言った。


 「約束よ、正君。秀一君も勉君もだよ」

 桜風はついでに俺と勉にも釘を差した。


 「あれが浅羽小だ。着いたら食料と寝床の準備をしよう」

 伊勢木が指差した先に学校が見えた。


 さらっと、伊勢木と桜風が学校のフェンスの上を抜けた。俺もジャンプで飛び越した。勉も着いてきた。


 みんなが校庭を宙に浮いて横断する中、俺だけは走って横断しているのが少しだけ寂しい。


 開いている扉があった。職員玄関のようだ。


 「何手に別れる? 全員で行動か、単独行動か、それとも二人ずつ別れるか」

 勉が面白いことを聞いてきた。


 「みんなで探そう。まずは職員室で鍵を借りられるだけ借りて倉庫とかを総当たりしよう」

 伊勢木がそう言って職員玄関の前で降り立った。


 「あっ、桜風と勉。ちょっと聞いてくれ。いや、秀一も聞いてほしい」

 伊勢木がそう言うので俺たちは立ち止まり伊勢木の言葉を待った。


 「屋内で飛ぶと風圧で窓ガラスとかを割ってしまう。だからここから先は普通に歩いてほしい」

 伊勢木の言葉を受け俺たちは靄を引っ込めて、歩いて小学校の中に入る。


 「スリッパはそこだから履き替えて」

 伊勢木がそう言って靴を脱いで緑のスリッパに履き替えた。俺たちも真似した。


 「なんかワクワクするね」

 桜風が楽しそうに言った。


 「ここが職員室だ」

 入り口からすぐのところを伊勢木は指差した。


 桜風がまっさきに走って職員室のドアの前に滑り込んだ。桜風は扉を二回叩き、「失礼します。桜風 (まい)です。鍵を根こそぎいただきに参りました」と言ってドアを開けた。


 「あった、あった」と俺は言った。そういえば小学校の鍵を取るときってこういうことしなきゃいけなかったな。懐かしい。桜風の下の名前は舞というらしい。いい名前だ。


 「鍵ってこれかな」

 桜風が入ってすぐのところを指差して楽しそうに言った。可愛い。


 俺たちも職員室に入った。整頓してある机とそうではない机の格差が激しかった。桜風の指差す先には鍵がたくさんかけてあった。ざっと三十はある。


 「ああ、鍵は僕にもたせてくれ」

 勉がそう言って鍵を次々と取っていった。


 その間に伊勢木が職員室を物色していた。


 「正君? なにやってるの?」


 「ああ、職員室に乾パンとか置いてないか探してたんだ」

 

 「あそこのキットカットは?」

 桜風はが指差した先の机の上にはキットカットが乗っていた。


 「あれは私物だからほっとこう」


 「でも、ほっといたら溶けちゃうよ」


 「ああ、それは最終手段だ。いつ他の人が戻ってくるか分からない。その時に後ろ指差されない方を選択するべきだ」

 勉が桜風と伊勢木の会話に入ってきた。勉はいつの間にか白いマントのような靄を出していた。


 「じゃあ、乾パンならいいの?」

 少し頬を膨らませた桜風は可愛かった。


 「小学校の備品ならこの状況の異常性で擁護出来る。でも、個人の物を勝手に取るのなら取られた側の怒りが事態をややこしくしちゃうかもしれない。伊勢木はそう言いたいんだろ?」

 勉はそう言って伊勢木を見た。


 「まあ、そういうことだ。勉、説明ありがとう」


 「どういたしまして」

 勉が誇らしげに言った。



 「探してみたが、職員室にはなにもないみたいだから次当たってみよう」

 伊勢木はそう言って職員室の外へ出た。俺たちも後を追いかけた。


 「あー、この鍵はこれだな」

 勉は教室を見てすぐ白マントの中から鍵を出して鍵穴に入れた。


 「あれっ、うまく入らないな。なんだ上下逆なだけか」

 一人で不思議に思って一人で納得して解決した勉。


 ドアを勉が開けると独特な臭いが漂ってきた。


 「ペンキ塗りたてみたいだね? ここに食べ物置かないと思う」

 桜風の言葉でこの臭いがペンキの臭いだと気がつけた。


 「なあ、屋外の倉庫と体育館を優先しないか? 僕なら寝具は体育館の周辺に置くし」



 「確かに。勉君天才」

 楽しそうに桜風に褒められる勉がうらやましかった。


 「だろっ」

 誇らしげに言った勉がまぶしかった。


 「じゃあ、僕に着いてきて」

 自信満々に歩き出す勉について行くことしかできなかった。


 「はーい」

 元気に返事する桜風は憎たらしいほどに可愛かった。


 勉は次々に倉庫を見つけて物色して発電器やら布団やら乾パンやら懐中電灯を見つけていった。俺はその間、なにもしなかった。ただついて行って眺めるだけ。


 「すっかり暗くなっちゃったね」

 懐中電灯を持った桜風が窓の外を見ながら言った。


 「満月でもこんなに暗くなるんだな」

 伊勢木が気取った感じで言った。


 「乾パン食べて布団敷いて寝よう。本格的な探索は明日からだ。目覚めたら元通りって展開もあるかもしれないし」

 そう言って勉が俺たちに乾パンを配った。


 「お風呂と着替えは無し?」

 桜風が勉の言葉に間髪入れずに質問した。


 「今夜は我慢だ。それともどうにかする手段を考えるか?」

 勉がそう言うと桜風の顔に諦めたと書かれた。可愛い。



 乾パンはあまり美味しくなかったが贅沢は言わない。


 「秀一君、さっきから黙ってどうしたの?」

 桜風が俺に話しかけてきた。


 「いや、なんとなく」

 そんなつまらない返事しかできなかった。


 「不満があったらなんでも言ってくれ。ため込まれて変なときに爆発される方が困る」

 伊勢木の台詞は正しいが、俺の抱えている悩みは誰かと共有したくない、もし共有したとして桜風に恋して勉に嫉妬してるなんて宣言したとたん問題が広がってしまう。


 「なあ、そんなことよりいくつか情報を整理しよう」

 勉がそんなことを言ったちょうどその時だった。



 かすかだが、確かだった。なにかが()()()音がした。


 「ねえ、あれって」

 桜風が指差した先には赤と青の光の粒。粒は落ちながら光を弱め消えていった。


 「()()?」

 桜風が得意げな顔でそう言った。


 「花火か、たぶん当たりだ。すごいな桜風」

 伊勢木が桜風を褒めた。俺の嫉妬芯は伊勢木にも向きだした。



 「つまり、生存者が花火の下にいるって事か」

 勉が確信を持った口調で言った。


 「そういうことになる。良い発想力だ、勉」

 さらに伊勢木が勉を褒める。伊勢木は人をよく見ていて褒めるのが得意なんだな。うらやましい。


 「なあ、遠藤 秀一。頼みがあるんだ」

 伊勢木がなぜか俺にそんなことを言ってきた。



 「花火をあげた人を捜すの手伝ってくれないか?」

 伊勢木が意外な提案を俺にしてきた。


 「俺なんかでいいのか?」

 思わずそんな風に聞いてしまう。


 「秀一が良い」

 伊勢木はそう言ってくれた。嫉妬の炎が揺らめいた。


 「えー、秀一君。私はお留守番なの?」

 不満げな桜風は相も変わらず可愛かった。


 「ああ、帰る家が必要だからな。頼りにしてるぞ。桜風、勉」

 伊勢木はさわやかに言った。


 「また、光った」

 桜風の言葉に導かれ窓の外を見ると花火が開いていた。黄色一色だ。


 「あっ、そうだ。ライト取ってくれ」

 伊勢木がそう言い終わるか終わらないかの内に、桜風がライトを伊勢木に渡した。


 その後に微かな爆発音。


 「約六秒ということは約二キロメーター先だ」

 勉はまたいつの間にか靄で出来たであろう白マントを出していた。


 「計算速いな。ありがとう、勉。ライト取ってくれてありがとうな、桜風」

 伊勢木はまた勉と桜風を褒めた。


 「じゃあ行くぞ、秀一」

 伊勢木は体育館の外へ向かってダッシュした。同時に黒い靄を出して身にまとっていた。


 俺も伊勢木について行った。


 伊勢木は低空飛行で道を照らす、俺は走る。その間にも幾度か花火が上がった。あるタイミングで伊勢木が俺に話しかけてきた。


 「秀一。パーマンってマンガ読んだことある?」

 伊勢木がよく分からないことを聞いてきた。


 「いや、なにそのマンガ? 聞いたことない」


 「ドラえもんの作者が書いたマンガで、スーパーマンの半人前だからパーマンなんだ」


 「へー」

 全く興味がわかなかった。この時ピーマンに似ているとさえ気がつかないほどに無関心だった。


 「そのマンガでパーマンとパーマンがタッチするとすっごい速度で飛べるようになる。それがパータッチだ」


 「だからなに?」

 機嫌が悪かった。夜の町を走っているというのに。


 「俺と秀一も出来るって事。あのときを思い出してよ」

 そう言って伊勢木は俺の肩に触れた。


 少し不快だった。だから弾いた。


 「あれっ」

 伊勢木がそう言ったことを除けばなにも起きなかった。


 伊勢木の推測が外れたらしいことが少しうれしかった。そう考えると夜の町を走るのも楽しくなってスピードが上がる。


 明かりがついているところが普段より少ない気がしてちょっと新鮮だ。そして懐中電灯の仄暗い光がとても頼もしく、適度に俺の冒険心を満たしていく。


 『このよく分かんないの。すっごい高性能』

 そんなテレパシーが届いた。これまで聞いた誰のテレパシーとも違う声だった。


 また、花火が上がった。青一色の花火だ。

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やり方はとっても簡単、一番下までスクロールして作者マイページをクリックして左上の"お気に入り登録"をクリックするだけなのですよー

そうすると作新の更新情報だけでなく活動報告の更新情報までキャッチできるのですよー


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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらずのスケールの大きさ。 爽快感のある描写。 独特のこのさく節。 先を楽しみにしています。 [気になる点] 三話の終わりと四話の頭は続けて読めば特にどうということもないんですけれど…
2019/11/10 12:24 退会済み
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