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ページ23~恋の歌

今回、狩加君が歌った『恋の歌』は日刊ランキングの詞ジャンルで三位をとりましたのですよー


ありがとうございますなのですよー!!

 狩加がギターで旋律を作る。


 「お前を思うと胸が痛い」

 狩加の歌声だ。そういえば、狩加は歌うときは普通に発音する。キャラ付けか何かかな。


 「こんな小さすぎる体じゃ

  この思いに耐えられない」


 この歌は愛の歌だ。ここまで聞いて分かった。


 「こんなやわな心じゃ

  お前のことしか考えられない」


 そうだ、桜風の事しか考えられないときがあった。例えば桜風が焼き芋を食べていたとき、例えば、桜風を抱きしめたとき。


 「もっと自己中になれたら楽なのに

  もっと視野が広ければ楽なのに」


 そしてそういうときは決まって痛かった、ちょっと胸とはズレた場所が。


 「人として俺として生きる限り

  逃れようのない窒息感」


 そして苦しかった。うまく呼吸が出来ないような。 


 「こんな狭い場所になんで生まれたんだ」


 そう、どこかに閉じこめられているみたいだった。


 「俺はどこまでいっても俺

  過去はいつまで経っても過去」


 そうだ。何をしてもあの時、たき火の横でいきなり桜風に抱きついて怖い目に遭わせた過去は変わらない。たぶん、桜風は俺を許しただろうか。そう信じたいし、おそらくそうだと思ってしまう。だけど、信じてるから思ってしまうのだと言うことも否定できない、そして俺がそう言う人間だと言うことも否定できない。


 「人は人を愛さずにはいられない生き物だから

  人は永遠を生きられない生き物だから」


 そうかもしれない。俺が桜風を好きになったのは桜風がそこにいたからだ。あの時、ひとりぼっちで線路の上で寝そべっていたとき、俺の前に降り立った桜風は天使みたいだった。それからずっと桜風から目が離せなかった。


 「数世代経ても進化なんてできないし

  人として生まれた物は人以外にはなれやしない」


 ここで狩加は言葉を切った。


 「一緒に過去を作ろう

  未来がどうなるのかなんて分からない

  だからせめて過去ぐらいは幸せじゃないと」


 狩加の歌からはパワーを感じる。言いようのない熱というか本気度を感じる。


 「お前を傷つけた事もあった

  お前に傷つけられた事もあった」


 そうだ。俺は桜風を傷つけた。


 「お前が何を考えているかなんて分からない

  お前が何を望んでいるかなんて分からない

  俺がどうされたいかさえ分からない」


 そう、何も分からない。


 「でも、お前の幸せだけは祈っている」


 そうだ、桜風。せめてお前だけでも幸せであってくれ。


 終わったみたいだ。


 「サクカゼ エンデュー 幸せに!」

 胸の中ジーンとなる。言葉に出来ない。


 「根太君! 幸せになるよ!」

 桜風は元気よく答える。


 「で、その白い化け物をどうするかか。銃とか、いや、銃は扱いこなせないだろ。でも、訓練すれば…… それに銃火器の使い方は覚えていて損はない。後々、狩りなんかにも流用できるし……」

 どんどん勉が自分だけの世界に入っていく。放っておこう。


 風が吹いた。風の流れてきた方を見ると黒いアカシをつけた男が降りてきた。

 伊勢木だ。大きなソファーを持ってきた。


 「桜風に遠藤。戻ったのか」


 「セーギ 怪物と 会った らしい サクカゼと エンデューが」

 ソファーを降ろす伊勢木に狩加が声をかける。


 「桜風と遠藤が? どんな怪物を見たんだ」

 俺と桜風に伊勢木が眼を向けた。


 桜風もすっかり元気になったみたいで体を伸ばしたりなんかしている。こんな風に元気にしたのは狩加の音楽の力だ。俺は何もしていない。


 これだから俺はダメなんだ。かりにも彼氏気取るなら彼女の涙ぐらい自分の手で拭ってみせろ。


 「白い…… 化け物だった。見てるだけで不安になるような…… いや、不安になる。えっと写真撮ったんだけど」

 そう言ってスマホを取り出す。


 「何だ、この穴は?」

 駅の空中通路に開いた穴の写真を見た伊勢木が言った。そして、桜風が当たり前のようにやっていた時系列順に感情と一緒に説明するのがどれほど難しいのか実感した。


 「この穴はその怪物の開けた穴なの。空を飛んで怪物の死角をそれで作ったんだけどきれいにくり抜かれちゃった」

 桜風がそう言って頭をかいた。


 「その怪物の写真はないのか?」

 伊勢木が酷なことを言った。


 「撮る余裕なんてなかった」

 そう俯いて言った。


 「そうか、大きさはどれぐらいだった?」

 

 「その穴を通れるぐらいだから1.6メートルぐらいかな」

 思い出し思い出しといった感じで桜風がゆっくりと小さな声で言った。


 「1.6か、ギリギリじゃないか?」


 「自分の通ったところ以外は穴を開けないみたいだった」

 そう、桜風の言うとおり、あの化け物は触れたところしか壊せない。触れただけで壊せるようだが必要最小限の物しか触ろうとしていなかった。



 「この穴はどうやって開けたんだ?」

 伊勢木が桜風を質問責めにする。桜風がすぐ答えるから俺が答える隙間はほぼない。


 「何でもない天井から出てきて、そのあとに穴が開いていたから、たぶん触っただけで開けられるんじゃないかな」


 そう言えば穴を開けると呼んでいるがこれは少し違うんじゃないのか。溶かすとか消し去るとかそっちの方が近い気がする。


 「その怪物は何をしてきた?」


 そうだ、何も俺はされてない。何でだか分からないけどすごい怖かった。でも、なにかをされたというわけじゃない。何であんなに怖かったんだ?


 「えーっとね、私と秀一君を追いかけてきた」

 桜風がそう言う顔は美しく遠くの景色のようだった。


 「その怪物はどんな事を考えている用に見えた? 桜風、遠藤」

 伊勢木の言葉で俺は考える。なにかがひっかかる。


 「とっても怒っていて怖い感じだった」

 そう笑顔で言う桜風はさっきよりも美しかった。


 「でも、それだけじゃない。なんなのかは分からないけど、それだけじゃなかった」

 まだ、ここまでしか言葉に出来ないけれど、でもただ怖いのとは違う何かが白いのから感じた。


 「そうか、で、どうやって逃げてきた?」


 「分からないんだけど、なぜか途中で逃げていった」

 そう、どうして逃げ出したかは分からない。でも、あの叫び声は怒りだけで出せるものじゃない。


 「どうしたもんかな、空を飛んで触れただけで穴を開けるんじゃ対策の取りようがない」

 そう言って伊勢木は辺りを見回した。


 「でも、アカシなら防げるらしい」

 勉が一言挟んだ。


 「アカシを使えば殴りあえるかもしれない」

 勉の声が少しずつ大きくなった。


 「確かに」

 俺は思わず口に出していた。


 考えてみれば逃げるだけじゃなくて戦っても良いんだ。


 「アカシ込みだとすごい力を出せるが、その限界を調べたことはないし体力測定でもしようか、それで訓練にもなるかもしれない」

 伊勢木がさらっとそんなことを言った。


 「身体測定……」

 狩加が不満げに言った。


 「測るべきは飛んだときのスピードとどれぐらい重い物を持てるか、投げられるか辺りかな」

 伊勢木がそんなことを言いながら校庭の隅に体育倉庫へ向かった。


 あそこは初めてこの学校に来て物を探した時にいろいろな物が置いてあったことが印象深い。


 「テストかぁ、楽しそうだね秀一君」

 桜風が嬉しそうに言った。その桜風は同じ笑顔なのにさっきまでの美しさとは違う表情で可愛かった。


 「そうだね、舞」

 俺はそんな桜風を嬉しく思った。


 『じゃあ、準備手伝ってくれ』


 『分かった』

 伊勢木のテレパシーに俺はテレパシーでこう返しながら伊勢木を追いかけた。桜風達も着いてきた。

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